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九段下パルチザン / ビブリオテーク・ド・キノコ・マガジン

九段下の図書室・ビブリオテーク・ド・キノコを主催するふたりが発行する書籍と読書・蔵書に関するマガジンです。購読後1ヶ月無料で読むことができます。 新しく入庫された本や、最近読んだ…
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2021年3月の記事一覧

サマータイム・ブルース/歴史の終わり|weekly vol.0095

サマータイム・ブルース/歴史の終わり|weekly vol.0095

今週は、うでパスタが書く。

海といえば、御宿だった。理由はいまも分からない。もう聞けるひともいなくなってしまった。
御宿は千葉県の外房にあって、鴨川の北、九十九里の南にあたる海辺の街だ。海以外には、何があるのか知らない。

夏が近付くと、誰からともなく「今度の週末は」というような声が出るようになった。
それは会議の終わりに、喫煙室の重い沈黙のなかで、エレベーターで交わされる短い会話の最後に、最初

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幻想 | weekly vol.0094

幻想 | weekly vol.0094

「だから言ったじゃないか」
これは私が嫌悪している彼の口癖の中でもトップに位置するセリフだ。
この一言には自分は予めこうなることを予知していたという傲慢さと、それを忠告にも関わらず実行し、予知された結果を甘受せざるを得ない私への嘲笑が込められており、とにかく言われると腹が立つのだ。それなのに私は反論もできず、呆然としてしまう。しかし、そのような日々も間もなく終わりを告げる。そう、私は彼をおいて一人

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戦争がはじまってから、終わるまで。|BiblioTALK de KINOKO vol. 010

戦争がはじまってから、終わるまで。|BiblioTALK de KINOKO vol. 010

この告知は、うでパスタが書く。

この記事は、ウィークリー・マガジン「九段下パルチザン」の定期購読者限定YouTubeLIVE配信の告知記事です。
YouTubeLIVE配信「BiblioTALK de KINOKO vol. 010」は、2021年3月22日(月)20:00より配信予定です。配信URLはこの記事の末尾に掲載されています。

仕事を休んでフェスに行くだけなのに「参戦!」とか投稿する

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アフターマス/そのあいだ|weekly vol.0093

アフターマス/そのあいだ|weekly vol.0093

今週は、うでパスタが書く。

パンデミックのはじまりから一年が経って、それから一日、一日とカレンダーが上書きされていく。
ようやく時計が動き始める。
去年の今日どこで運命を知ったか、みなが口々に語っている。
静まりかえった大通りのことが、人影の絶えた公園に咲き誇っていた桜のことが、そうか桜というのはこんなにも無言で、ただ咲くのだと初めて知った春のことが、その静けさはまさに沈黙であったことが、ピリピ

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妖怪 | weekly vol.0092

妖怪 | weekly vol.0092

「その姿を見たものは数日間高熱を出し、緑色の汗をかくと言われている。時折そのまま死に至ることもあるが、たいていはそれ以前より健康で丈夫な体になると言われている。高熱の期間に記憶が薄れてしまうのか、遭遇の前後の記憶は曖昧になり、人によってサイズ感や色、形の特徴の表現は大きく異る。こうした口伝による奇怪な現象の記録は古今東西に見られるが、伝言ゲームの要領で伝えられる内容は変異していく。何が正しいのかと

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