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徒然日記

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#読書メモ

短編小説読書メモ9本目~宮部みゆき『三鬼 三島屋変調百物語四之続』から第一話

今回は、短編というよりも中篇。
宮部みゆきさんの『百物語』シリーズの4巻から第一話『迷いの旅籠』。
死んでしまった人にもう一度会いたい、という誰もが一度は抱くだろう願いが、今回の物語ーーー聞き手おちかのいる現実パートと、語り手おつぎの語る怪談パート双方をつなぐ通奏低音になっている。
江戸から流れてきた絵師によって、死者がこの世に戻ってくる「迷いの旅籠」と化した離れ家と、その結末。
死んだ人の時間は

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短編小説読書メモ7~8本目ーーー近藤史恵『ここにいるぼくら』、辻村深月『ご縁の心得 ツナグ』

短編小説読書メモ7~8本目ーーー近藤史恵『ここにいるぼくら』、辻村深月『ご縁の心得 ツナグ』

アンソロジー『料理をつくる人』を読了したので、新しいアンソロジーへ。
今回のテーマは舞台。舞台と一口に言っても、ミュージカル、バレエ、2.5次元など多種多様。
トップバッターを飾るのは、2.5次元を題材にした近藤史恵さんの『ここにいるぼくら』。

漫画やゲームが原作の物語を舞台演劇として上演する2.5次元というものを、私は見たことがない。
『キングダム』や『ゴールデンカムイ』の実写映画は見たことが

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短編小説読書メモ6本目~越谷オサム『夏のキッチン』とアンソロジー全体について

短編小説読書メモ6本目~越谷オサム『夏のキッチン』とアンソロジー全体について

越谷オサム『夏のキッチン』で、アンソロジー『料理をつくる人』をようやく制覇!
忘れないうちに書いておく。
最後の話は、初めての料理に挑戦する小学生の男の子の話。
包丁の代わりにピーラーで人参を剥いたり、その途中でケガしたり、と苦戦しながらも、母のアドバイスを受けて、どうにか完成させる。
そして、終盤である事実が判明する。
この話の舞台設定が夏になっているのも、このオチが余韻をもたらす効果を強めてい

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短編小説読書メモ5本目~織守きょうや『対岸の恋』

短編小説読書メモ5本目~織守きょうや『対岸の恋』

短編小説50本読破プロジェクト、5本目は、織守きょうやさんの『対岸の恋』。(出典は、アンソロジー『料理をつくる人』)
それぞれの姉と兄が結婚したことで、縁戚となった大学生と高校生の関係性を描いた話。
彼らの関係を一言で言うなら、「同病相憐れむ」といったところだろうか?
似たところがあるから惹かれ合うように見えて、その「似たところ」、「共通点」にある物が含まれているからこそ、二人は進展しないし、平行

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短編小説4本目 秋永真琴『冷蔵庫で待ってる』

短編小説4本目 秋永真琴『冷蔵庫で待ってる』

アンソロジー『料理をつくる人』もいよいよ後半に突入した。
四人目は秋永真琴さん。また初めて読む作家さんだ。
ここまで来て、このアンソロジーの主役が「料理」ではなく、「料理をつくる人」と気づく。
料理をつくる、と一口に言っても様々なシチュエーションがある。
仕事として他人のために出す料理を作る場合。(作る側が主人公か、そうでないかでも違う)
そして、自分のために自分の食べるものを作る場合、つまりは自

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3本目 深緑野分『メインディッシュを悪魔に』

3本目 深緑野分『メインディッシュを悪魔に』

アンソロジー『料理をつくる人』から三本目、深緑野分さんの『メインディッシュを悪魔に』。
地獄の王サタンがニューヨークに登場する、という設定に、ドラマの『ルシファー』を思い出した。
前の二作がほのぼの現代(日常の謎)、ホラー風味なら、今回はダークファンタジー風と言うべきか?
スルスル読んでいけるかと思えば、途中でちょっとしたどんでん返しもあるのが、まるで隠し味のスパイスのよう。(ちゃんと伏線は張って

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短編小説読書メモ1~2本目

短編小説読書メモ1~2本目

短編を沢山読むプロジェクトがスタート。(↓参照)

とりあえずの目標は50本クリア。
ということで、1~2本目を。
読んだのはこちらから、最初の二編。

西條奈加さんの『向日葵の少女』と、千早茜さんの『白い食卓』。
どちらも名前は知っていたものの、初めての作家さん。
『向日葵の少女』は、神楽坂を舞台にしたシリーズの一編らしい。過去の記憶と現在とが温かく入り雑じる、ほのぼのした作品。
続く『白い食卓

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徒然日記~朝井まかて『残り者』読書中

昨日22時代に、布団に潜り込んでそのまま朝を迎えてしまった。

 そして、カーテンをめくれば、外は雪。満開の桜の上に雪。

 めったにない取り合わせだというのに、あまり心は浮き立たない。

 「外出禁止令」に従い、気を取り直して本を、と思い、手に取ったのは朝井まかてさんの『残り者』。

https://www.amazon.co.jp/%E6%AE%8B%E3%82%8A%E8%80%85-%E6

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読書メモ~北方謙三『虹暈 チンギス紀(三)』より

読書メモ~北方謙三『虹暈 チンギス紀(三)』より

 小説などを読んでいると、たまにドキリとさせられたり、深く深く刺さる言葉にぶつかることがある。

 今回は北方謙三さんの『チンギス紀』シリーズ3巻から。

「強さそのものには、意味はない。その強さをどう遣うかということで、意味らしいものが生まれるだけだ」(p.54)

 強力な五十騎の兵を率いる謎の老人、玄翁の台詞だ。

 強さ、力をどう遣うか。その観点で見ることは、キャラクターの分析などにも使え

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