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短編小説4本目 秋永真琴『冷蔵庫で待ってる』

アンソロジー『料理をつくる人』もいよいよ後半に突入した。
四人目は秋永真琴さん。また初めて読む作家さんだ。
ここまで来て、このアンソロジーの主役が「料理」ではなく、「料理をつくる人」と気づく。
料理をつくる、と一口に言っても様々なシチュエーションがある。
仕事として他人のために出す料理を作る場合。(作る側が主人公か、そうでないかでも違う)
そして、自分のために自分の食べるものを作る場合、つまりは自炊。
この自炊に焦点をあてたのが、今回の秋永真琴『冷蔵庫で待ってる』だ。
主人公は一人暮らしの大学生。「ズボラの国のアリス」を自称し、料理を作ることにはほとんど縁がなかった。
それが変化したのは、所属していた文芸サークルでの恋人との関係がきっかけだった。
レストランでの品評会で新入メンバーに作品を酷評されたのを機に、何となく付き合っていた恋人との関係を含め、サークル内での人間関係がややこしいことになり、サークルからも外食からも距離を置くようになる。
そして、自分でスマホで簡単なレシピを探しては、作るようになる。

私も高校大学と、一応文芸系のサークルに籍をおいていた。(大学は、留学やら何やらで幽霊と化していた感が強い)が、正直あまり作品は書いていなかった。
料理も正直面倒と思ってしまう類の人間だ。(一応興味はある)が、作ると達成感があるし、うまくいけば満足だ。
だからか、恋愛ものや青春ものが苦手な割には、今回は主人公との距離が少し近かったように思う。

主人公は自炊を通して、他者からの評価や視線に寄りかかっていた状態から自立していく。自分の中に芯を持つプロセスを書いた作品、と言えるかもしれない。
最後には、就活を言い訳に主人公と向き合うことすらせず、へらへらと言い訳を並べる恋人からの誘いにこう答える。
「(漬け込んでる豚肉が冷蔵庫で待ってるから、今日は帰ります」
と。
そして数日後、かつて酷評された短編小説を自分のために長編へと膨らませるべく、パソコンを立ち上げる。
清々しい読後感だった。
私も何か書きたいと思えた。料理のように。

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