【くらしの東洋医学 鍼灸で元気に】顎関節症と鍼灸
口を開け閉めする度にカクカクと音がする、口を十分に開けることができない、あごに痛みを感じる。
こういった悩みから、硬い食べ物が噛めない、大きな食べ物が食べにくい、また、あごの音が煩わしいなどの症状が現れることがあります。
これらは、いずれも『顎関節症』といわれる病気の諸症状であり、歯科医院を受診する患者さんの1割以上にこの病気がみられ、男女比では女性に多く、男性の約2倍、特に20代~30代の女性に多いという、学会調査結果も出ています。
まさに、女性に多い身体の悩みの一つであるといえますね!
今回は、このような顎関節症がどうしておこるのか、症状ごとのタイプや原因、治療方法についてみていきましょう。
なお、本編の中では、顎関節症に対する鍼灸によるアプローチについてもご紹介していきます。
1.顎関節症とは
顎関節症は、顎関節や咀嚼筋の痛み、関節(雑)音、開口障害、もしくは顎運動異常を主要症候とする障害とりまとめた病名(診断名)のことです。
その中には、以下のようなものが含まれています。
①あごを動かす筋肉の痛みを主な症状とするもの(咀嚼筋痛障害)
②顎関節の痛みを主な症状とするもの(顎関節痛障害)
③顎関節の中の関節円板のずれが生じるもの(顎関節円板障害)
④顎関節を構成する骨に変化が生じるもの(変形性顎関節症)
2.顎関節症の原因
顎関節症の直接的な原因は、顎の運動に関与する筋肉・関節・神経が何かの要因で痛みやすくなったり動きにくくなる、といった器質的な異常から引き起こされると考えられています。
また、器質的な異常を引き起こす原因は、実にさまざまで、代表的なものには次のようなものがあります。
・急激なストレス(精神的な緊張は、筋肉を緊張させます)
・歯ギシリ
・何かに熱中したり緊張して強くくいしばる
・唇や頬の内側をかむ癖がある
・頬杖、うつ伏せ寝、姿勢の悪さ
・顔面打撲や事故による外傷
・入れ歯や歯にかぶせたものが体にあっていない(悪い噛み合わせ
・大口を開けたり、硬いものを噛んだ(アゴの酷使)
・左右どちらか一方でばかり噛む癖がある
・片側の歯が悪いため反対の歯だけで食べ物を噛む
・うつ、不安因子がある 、睡眠障害(ストレスで夜よく眠れない)
3.現代医学によるアプローチ
現代医学(西洋医学)では、主に歯科・口腔外科で治療が行われます。
まず最初に問診で症状の確認を行った後、あごの動きの検査、あごや咀嚼筋の痛みの検査、レントゲン検査、必要に応じてMRI検査などを行い、顎関節症以外の同じような症状があらわれる他の疾患を鑑別した上で診断を行います。
また、痛みには、身体的な傷害だけではなく、心理的・社会的な因子も強く関連することから、これらの状態は心理テストなどを用いて検査する場合もあります。
その結果、顎関節症であると診断された場合には、
・生活指導 日常生活における行動や癖を改善させる
・理学療法 患部の筋肉や靭帯の動きを改善させる
・薬物療法 患部の消炎鎮痛を行う
・アプライアンス療法 マウスピースなどではぎしりやくいしばりを防ぐ
を併用して、治療が行われます。
また、うつ病などの精神的な疾患が深く関与していると診断される場合もあり、その場合には顎関節症自体を改善する治療にあわせて、抗うつ薬や気持ちを安定される抗不安薬などが処方されることもあります。
4.鍼灸によるアプローチ
「顎関節症は歯医者ではなく鍼灸による治療も可能なのか?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、顎関節症も鍼灸によるアプローチが対応可能な症状の一つです。
その効果は、世界保健機関(WHO)も認めています。
参考リンク:公益社団法人 全日本鍼灸マッサージ師会
症状に悩んでいる人の中には、『鎮痛剤があまり効いている気がしない』、『マウスピースをしても効果がない』、『症状を放置しておいたところだ、次第に痛みが強くなってきた』、『長期間、症状を抱えているので、対処療法ではなく根本から治したい』と考えていらっしゃる方も多いかもしれません。
また、あちらこちらの病院や民間療法を渡り歩き、現代医学的に様々な検査を行っても原因が明らかにならず、自分にあった治療法がみつからないために、症状を抱えながら日々を生活している、という方も中にはいるかもしれません。
一方、鍼灸施術による顎関節症の治し方は「症状が起こっている根本の原因」をみつけだし、それを正すことによって、顎関節症の症状を取り除くとともに、再発しないような身体づくりをしていきます。
東洋医学的には、「季候、食事、疲労、ストレスなど、何らかの原因で、体内循環が停滞して歪みを引き起こす、または身体を十分に栄養することがで
きないために、顎関節症の症状がひきおこされる」と考えて治療にあたります。
5.東洋医学における顎関節症とは
東洋医学上は、顔面部、特に顎のあたりにおこる痛みであるという点から、以下のような呼び名が該当をします。
・面部疼痛
・面痛
・顔面痛
・両頷痛
・頬痛
では、次に東洋医学的にみる、顎関節症の原因をみていきましょう。
5-1.感冒によるもの(風寒邪型)
朝起きた時から、ゾクゾクした寒気や肩こりの悪化、背骨のこわばりを感じて、同時に顎関節の痛みが悪化した。
または、扇風機や冷房の風を身体の片側に当てていた後に、顎関節の痛みが悪化した。
こうした急な痛みの悪化は、風邪の引き始めにおこりやすい症状である可能性があります。
東洋医学では、身体の上のほうから風邪は身体に侵入してくると考えられています。
風邪により、身体の気血の巡りが阻害されて体内循環が停滞することから、顎関節の痛みの症状が急激に悪化します。
このタイプの特徴として、発作性の急激な痛みの悪化、発症と同時に寒気や喉の痛み、鼻づまり、鼻水、咳などの風邪症状を伴うことが多くあります。
5-2.ストレスが原因となるもの(気滞、肝鬱化火型)
精神的プレッシャーや焦ることが多い、あるいは、デスクワーク作業などで同じ姿勢を長時間続けることが多い。仕事や勉強に集中している時は症状は気にならないが、緊張から解放された後、一日の終わりや繁忙期が終わった頃に顎関節症の痛みを感じる。
また、普段から、イライラしたり、悩みこみやすい性格で、いろいろと心配事をしてしまうことが多く、気が付くと歯を食いしばっていて奥歯に力が入っていることに気づく。
これらは、精神的なストレスにより上半身の緊張が強まったことで顎関節症の症状をひきおこしている、と考えられます。
東洋医学では、怒りや悩みなどの精神的ストレスは、身体の上半身を中心にした過緊張状態を作り出して、心身の過剰な興奮とともに過剰な熱(東洋医学では火と呼びます)を発生させやすくなります。
そのため、顎関節症の痛みの悪化に伴い、上半身の様々な症状(頭痛、めまい、のぼせ、目の充血、吐き気、不眠)が出やすくなるのが、このタイプの特徴です。
5-3.血液循環の停滞が原因となるもの(気虚血瘀型)
顎関節症を長期にわたり繰り返しているうちに慢性化してしまい、激しい痛みを伴うようになった。
身体は疲れやすさが目立ち、ちょっとしたことでも息切れがして、汗をかいてしまうことが多い。
このタイプは、顎関節症の痛みが長期間持続したために、身体のエネルギーが不足するとともに血流が停滞しがちで、症状のある部分が栄養不足になっていることが多いです。
このタイプの特徴として、刺すようなキリリとした痛みがする、身体的な疲労感を伴いやすい、といったことがあります。
6.顎関節症に対する鍼灸の施術例
次に、鍼灸による顎関節症の施術例をご紹介したいと思います。
一度の施術で使うツボは1つです。施術時間は休憩含めておおよそ1時間程度です。
なお、鍼をする前には、あらかじめ詳しく問診をする必要があり、顎関節症の症状だけでなく、他にもある様々な身体の症状(随伴症状といいます)、その人の体質、その時の体調、施術をする時の季節、天気なども考慮する必要があります。
その上で、その人の身体全体の状態(脈、舌、顔色、身体の熱冷のかたより、身体の緊張、手足ツボの反応など)から、トータル的にみて、最も原因にふさわしいツボを選び鍼をします。
そのため、顎関節症の症状、原因が同じでも、その時々で使用するツボも変えることが必要となります。
では、以下に顎関節症に対する施術の一例をご紹介します。
【患者】30代女性、身長16Xcm、体重5Xg
【初診】202X年5月X日
【主訴】顎関節症、食いしばり癖
【問診】発症は社会人になった頃(時期不明)
社会人になって数か月経過した頃だったと思う。食事をしようとして口を開ける際に左側の顎関節に痛みを感じるようになった。はじめのうちは痛みを気にしておらず自然に治ることもあった。その後次第に、痛みが強くなり、咀嚼をする際にも痛みが出て、口をあーんとあけると左右で開き加減が異なるようになってきた。最近では、せんべいなどの硬いものを食べると痛みが増すため食事を楽しめなくなってきている。
性格は明るく社交性がある。大人になるまでの生活環境上精神的なストレスになることはなかったが、とても頑張り屋で何事にも真面目に一生懸命になり、こだわりをもって突き進む一面がある。
社会人になってからは、初めてのことばかりで、精神的に緊張する毎日で夢も増えていた。
夜寝ている最中のはぎしりと歯をかみしめるくせは、幼少期からあったときいている。
その後、歯医者に行き、顎関節症と診断をされて、就寝中にマウスピースを使用してみる。使用しているうちに、かみしめる力が強すぎてマウスピースが破損してしまったことがある。
このままでは、根本解決にならないとい思い、インターネットで治療方法を探し、鍼灸での治療を試してみたいと来院をした。
【初診時の症状】
・左の顎関節の痛み
・左の口が開きづらく、ガクッと音がする。
・顔が歪んでいる感じがする。
・左の顎関節のあたりが硬く感じる。
・頸から肩にかけて凝りがある。左のほうが右よりもこっている。
・入浴をすると顔の硬さは症状は楽になる。
・就職直後は、毎日、一日中緊張感を感じていた。
・仕事では、一日中椅子に座ってパソコンを使って過ごすことが多い。
・休みの日は、仕事の日に比べると症状は楽に感じる。
・眼の疲れが目立つ。
【特記事項】
・食欲はあり、食事量は普通。
・排便は硬め、数日に1回しか出ず、すっきり感がない。
・月経痛が激しく、月経前のイライラが激しい。
・月経前に肩こりが悪化する。
【診断と治療方針】
精神的なストレスと身体の動かさないことにより、心身ともに過緊張状態となり、体内循環が停滞したことにより、顎関節症が改善しづらくなっていると診断。
従って、心身の緊張を緩めることを中心にした処置を行う。
【日常生活での注意点】
・適度に散歩をする。
【経過】
初診 施術直後、顎関節の痛みと口の開き加減が改善した。同時に、肩のこりがゆるみ、身体が軽くなったことを実感。
2診 鍼を受けた後はだるさもなく、顎関節は開口時に音はするが痛みはほとんどない、口の開き加減もよくなった。顔がひとまわりすっきりしたと周囲の人に言われた。
3診~ 予防を含めたさらなる治療の継続を本人が希望しており、現在も治療を継続中。
7.まとめ
今回は顎関節症について、症状ごとのタイプや原因、治療方法をとりあげました。
東洋医学においても、顎関節症に対して鍼灸でのアプローチが可能なことはご理解いただけたでしょうか。今回はここまでとなります。
それでは、鍼灸でからだも心も元気になりましょう!
鍼灸 あやかざり
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