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【読書】センスの哲学 by 千葉 雅也


あらすじ

服選びや食事の店選び、インテリアのレイアウトや仕事の筋まで、さまざまなジャンルについて言われる「センスがいい」「悪い」という言葉。あるいは、「あの人はアートがわかる」「音楽がわかる」という芸術的センスを捉えた発言。
何か自分の体質について言われているようで、どうにもできない部分に関わっているようで、気になって仕方がない。このいわく言い難い、因数分解の難しい「センス」とは何か? 果たしてセンスの良さは変えられるのか?

音楽、絵画、小説、映画……芸術的諸ジャンルを横断しながら考える「センスの哲学」にして、芸術入門の書。

フォーマリスト的に形を捉え、そのリズムを楽しむために。
哲学・思想と小説・美術の両輪で活躍する著者による哲学三部作(『勉強の哲学』『現代思想入門』)の最終作、満を持していよいよ誕生!
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さて、実は、この本は「センスが良くなる本」です。

と言うと、そんなバカな、「お前にセンスがわかるのか」と非難が飛んでく
るんじゃないかと思うんですが……ひとまず、そう言ってみましょう。

「センスが良くなる」というのは、まあ、ハッタリだと思ってください。この本によって、皆さんが期待されている意味で「センスが良くなる」かどうかは、わかりません。ただ、ものを見るときの「ある感覚」が伝わってほしいと希望しています(「はじめに」より)。
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1. 私は、センスの人間ではない

本書は、普遍的な定義ではなく、あくまで本書のために仮固定した定義だと前置きしつつ、センスとは何か、センスの目覚めとは何かについて以下のように記述している。

センスとは、ものごとの直観的な把握であり、いろんなジャンルにまたがる総合的なものです。
(略)
たとえば絵を見て、それが何を言いたいのか、何のためなのかという意味や目的ではなく、それそのものを把握するのがセンスなのだと話を進めました。
じゃあ、そのものとは何か?ーーーーーリズムである、というのがこの本の理論です。リズムとは、まず「形」のこと。それは広い意味で言っていて、形、色、響き、味、触った感じなどを全て「リズム=形」だとみなしている。

本文

センスとは、感覚と思考を繋いだようなものである。

本文

この定義に照らすと、自分はセンスの人間ではないことに気づいた。
というのも、なんでも言語化し、お気に入りの対象について、いつも好きな理由(社会的な意味)を論理的に説明してしまうからだ。

例えば、
「好きな邦人音楽家は澤野弘之、梶浦由記、久石譲など、アニメ音楽の大家。なぜなら、曲調が壮大で重大なミッションをしている気になれるうえ、歌詞が無いか理解不能なので集中が妨げられず、作業用BGMに最適だから。彼らの音楽を聴くことにより、私は作業効率が向上し、長時間作業のストレスを緩和するので、より多くのアウトプットが可能となり、社会に対しても有用」
というように、好きな映画、書籍、絵画、場所、料理、旅行先、服装など、思いつく限り全てにおいて、なぜ好きなのか、それを好きなことで個人や社会にどんな利益・便益があるのかを説明できてしまう。

つまり、センスが圧倒的に思考に偏りすぎており、脱意味化、脱目的化できていないということである。

だが文句を言わせてほしい。私たちは教育課程(特に中等・高等教育課程以降)において、「目的を明確にしなさい」「厳密(ローコンテクストに)に言語化しなさい」「Whyを5回は問いなさい」と教育されてこなかっただろうか。
もっと幼い頃から、「これが欲しい」「これが好き」「この習い事がしてみたい」「ここに行ってみたい」と親に言うと、「なぜ?」と何度も聞かれ、論理的に相手を説得する方法を教育されなかっただろうか(私の親は甘かったのか、なぜ?と少なくとも5回は聞かれたが最終的に全ての要望を叶えてくれた)。
あらゆる「判断」と「選択」について、物心ついた時から「目的からの逆算」思考を植え付けられている者にとって、センスのファーストステップである脱意味化、脱目的化がまず困難すぎる。

2. なんとなく'好き'を言語化しない人への福音

逆に言うと、この本は、あるもの(音楽や詩、映画、ファッション、絵画など)が好きで、なんとなくイけていると思っているが、それが「なぜ」なのか言語化できない人、あえてしていない人への福音である。

脱意味・脱目的的に、対象そのものの凸凹のリズムを楽しむことが、センスの目覚めの第一歩である。意味から離れたリズムの面白さを追求することは、20世紀に様々なジャンルが向かった「モダニズム」の方向性とも合致しているという。

つまり、音楽や映画に対して、「なんとなくカッコイイから好き!」と言える人はモダニズム的な意味でのセンスのベースがあるということだ。

3. 芸術と生活をつなぐ具体的ワーク

最後に付録として、センスを活性化するための近道として著者がおすすめする芸術と生活をつなぐワークが提案されている。

ワーク1
(1)自分にとって大事な作品から始める

これまで生きてきて影響を受けた作品(音楽、絵画、アニメ、音楽、ゲームでもなんでもいい)について、なぜか自分の体に残っていて、「そういえばあれがあった」と思いつくものを箇条書きにする。整理されていなくても、ただ思いつくままに書いてOK。自己検閲をかけない。
(2)リズムに注目して再度鑑賞する
アニメや映画なら観てみる、小説なら読み直す、絵なら検索する、音楽なら配信サービスで探してみる。そして、本書で説明された「リズム」に着目し、構造を意識しながら鑑賞する。その際、(1)でリストアップした項目が全体の中のどの要素なのか、リズムの配線の中のなんなのかを考えながら鑑賞する。
(3)他の作品に広げていく
上記で再鑑賞した作品から枝葉(同作者、同時期、同ジャンル等)を伸ばして、他の作品の情報を調べてみる。例えば、その作品は作者のキャリアの中で初期のものかまたは全盛期のものか(縦のリズム)、その作品が例えば1980年のアニメだとしたら、同時代に流行っていた音楽や映画、現代美術など他のジャンルは何か(横のリズム)などを調べてみる。同時代の異なるジャンルに共通性はあるか考える(無理に発見する必要はない)。

ワーク2
わかりやすい新書でジャンルの教養を身につける
最初から順番に通読する必要はなく、特に興味があるところから読み始めてOK。時代の特徴やキーワードは何かをざっと把握する。その上で通読する。
一つのジャンルについて、1冊ではなく2~3冊を読んで比較する。

ワーク3
生活をリズム的に捉える
上述の芸術、カルチャー的なものだけでなく、生活をつなげる。食べ物、インテリア、ファッション、風景や人々の様子、会話がどのようなリズム(凸凹)になっているかビートをうねりを感じる。

追伸

リズムという観点で周りを見回すと、普段は気付かないことに気づくことがある。
例えば、筆者の散歩道にあるアパルトマン(下写真)は、ネイビーブルーのドアが10個くらい規則的に並んでいる中、中央左寄りの1つのドアだけがポツンと赤い。一つだけ色が違うことに、意味も機能も特になさそうだ。
生活の中にも、規則的なリズムの中に予想外が組み込まれるものがあることを観察できる。

アパルトマン


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