- 運営しているクリエイター
記事一覧
ポップコーンの“推し変”をした話
先人の知恵や勇気に、両手を合わせて感謝する瞬間がある。
例えば、納豆。「煮豆を藁に包んで、長年放置しておく」という発想に至ることが(まぐれだとしても)すごいし、あれだけの粘り気、異臭がするものを「食べてみようじゃないか」と腹を括って最初に食べたひとは勇者だ。
私は「納豆は食べられるものだ」と知っているからこそ、勇気を出さずとも美味しく納豆を食べられる。見たことも、嗅いだこともなければ、味の想像
夫婦で「交換日記」をはじめたら、夫をもっと好きになった話
小学生の頃、一番仲のいい友達と、ふたりで交換日記をしていた。
その子は、どちらかと言えばクールな性格で、いつも落ち着いていて、中学校に上がる前からファッション誌の『CanCam』(モデルの山田優さん、押切もえさん、えびちゃんが大人気だった頃)を読んでいるような、大人っぽい女の子だった。
学校にいるときも、プライベートで遊んでいるときも、一貫してその印象が強かったから、彼女が突如、交換日記で「う
夫の好きなところを100個書いてみた
ノースリーブのルームワンピースを着て、夜の深い住宅街を歩く。少し前まで、夜の外出には薄手のカーディガンが手放せなかったのに、微かに吹く風の温もりは、すっかり夏だった。
右側、半歩先を歩くのは、私よりも幾分ラフな格好をしている夫。伸びた髪をわしゃわしゃと弄んでは、たまにこちらのほうを見て、それとはなしに歩調を緩ませる。二人のほどよい距離感の裏には、いつだって彼の努力がある。
・
夫と結婚して、
彼にプロポーズされた日
付き合って、ちょうど6年目を迎えた朝。
何が起こっているのか、理解をするのに時間がかかった。
目の前には、手を震わせながら手紙を読む彼がいて、その隣には大きな紙袋が置いてある。
そのシーンだけを切り取ってみれば自然かもしれないが、今目の前にいる彼は、1時間前に仕事にでかけたはずだった。
いつもは私服で出社するのに、その日だけは「クライアントと打ち合わせがあるから」と、ジャケットを羽織って。
彼と暮らした1080日
5010+280=5290
土曜日の午後2時。駅前通りに面したカフェチェーン店、3階の窓際にある小さなテーブル席で計算をしていた。
数十分前に買ったばかりのボールペンが、光沢感のあるレシートの裏でつるつると踊る。
5290×8=47,610
スマホ画面に並ぶ数字を慎重にタップし、レシートに書かれた数式の答えをなぞる。
「同棲のほうが安い、かも」
目の前でスマホを
「一生分の一歩」を踏み出した私たちが、明日からも健やかに生きていくために
炊飯器から、もくもくと湯気が立ちのぼる。グツ、グツグツ、と聞こえるのは、もったりした沸騰の音。あと10分くらいでお米が炊き上がるサインだ。
二口あるコンロのうち、右奥にかけたお鍋の火を止める。たまねぎの透き通った白、水を含んで膨らんだ油揚げ、サイの目に切った絹豆腐は、形が崩れてしまったものもある。どれも、夫の好きな具材だ。
調味料がずらりと並ぶ棚から、プラスチック容器に入ったお味噌を取り出す。