青村 音音(アオムラ ネオン)
情報化が先鋭化し、効率的な過ごし方をみんなが共有する時代になっても、自分の気持ちだけは誰とも共有できない。密集とコミュニケーション種類の多岐化・複雑化・深化は引力が強いがゆえに心が反発するのだろう、かえって他者との精神的距離は開いてしまう。そんな時代に起きた、ピアノがもたらす不思議な出来事。13部からなる苦味と酸味と甘みをたっぷりと編みこんだストーリー。
『送信履歴』毎回読み切りのスピンアウト 〜readerのボランティア 13〜 ワタシはreader。 読み上げる人。 訳あって、ボランティアでアドボカタスをしているの。 アドボカタスとは代弁する人。 ワタシなりの解釈では代筆ならぬ代述する人なのだけれども。 言いたいのに言えない人、伝えたいのに伝えられない人、届けたいのに届けられない人、そんな人って思いのほか、たくさんいるのよね。 私はそんな言葉にならない言葉を読み上げる。 いいことと悪いことを胸に抱えた牧子はその日
『送信履歴』毎回読み切りのスピンアウト ~readerのボランティア 12~ ジュリ物語4 ワタシはreader。 読み上げる人。 訳あって、ボランティアでアドボカタスをしているの。 アドボカタスとは代弁する人。 ワタシなりの解釈では代筆ならぬ代述する人なのだけれども。 言いたいのに言えない人、伝えたいのに伝えられない人、届けたいのに届けられない人、そんな人って思いのほか、たくさんいるのよね。 私はそんな言葉にならない言葉を読み上げる。 矢口は、ご主人を待つ犬のように尾を
こんなところにも駅ピアノがある! 札幌雪祭りへの旅道中、新幹線からの乗り換えで新函館北斗駅で降りたった際、構内のグランド・ピアノが目に止まった。 「弾いたことある?」と円日が訊いてくる。彼女はグランド・ピアノを言っている。 「ないよ」、恐れ多くてそんな異次元には踏み入れない。 「弾いた弦が、子宮の奥に響いてくるのよ」 「子宮の奥? ぼくにはないからわからない」、マツを経由して任子も同じようなことを言っていたという記憶がよみがえる。 「私があなたを受け入れるように、あなた
『送信履歴』毎回読み切りのスピンアウト ~readerのボランティア 11~ ジュリ物語3 ワタシはreader。 読み上げる人。 訳あって、ボランティアでアドボカタスをしているの。 アドボカタスとは代弁する人。 ワタシなりの解釈では代筆ならぬ代述する人なのだけれども。 言いたいのに言えない人、伝えたいのに伝えられない人、届けたいのに届けられない人、そんな人って思いのほか、たくさんいるのよね。 私はそんな言葉にならない言葉を読み上げる。 夜の闇の惑わしにそそのかされて、女
夏が終わり、秋も暮れに向かって急ぎ足になっていた。 年の瀬を迎える間際、公私ともにクソ忙しいのにマツは挙式を終えた足でハネムーンに旅立っていった。そのマツが、頻繁にFacebook に写真とコメントを海外からアップしている。動画もあって、そのひとつを再生してみた。 マツが任子の後姿を追いかけている。コメントが喘ぎ気味なのは、急ぎ足の彼女に追いつかないからだろう。 待てってば、アツコ。 ん? それって尻に敷かれているみたいでちと情けなくないか、マツ。 プラハ・マサリ
『送信履歴』毎回読み切りのスピンアウト ~readerのボランティア 10~ ワタシはreader。 読み上げる人。 訳あって、ボランティアでアドボカタスをしているの。 アドボカタスとは代弁する人。 ワタシなりの解釈では代筆ならぬ代述する人なのだけれども。 言いたいのに言えない人、伝えたいのに伝えられない人、届けたいのに届けられない人、そんな人って思いのほか、たくさんいるのよね。 私はそんな言葉にならない言葉を読み上げる。 ふり返れば、この会社ひと筋。右も
『送信履歴』毎回読み切りのスピンアウト ~readerのボランティア 9~ ジュリ物語2 ワタシはreader。 読み上げる人。 訳あって、ボランティアでアドボカタスをしているの。 アドボカタスとは代弁する人。 ワタシなりの解釈では代筆ならぬ代述する人なのだけれども。 言いたいのに言えない人、伝えたいのに伝えられない人、届けたいのに届けられない人、そんな人って思いのほか、たくさんいるのよね。 私はそんな言葉にならない言葉を読み上げる。 僕が電話をかけずにバー・ジュリを訪ね
「ひとつ訊きたいんだけど」 王子で会った翌週、大久保のまた違ったベトナム料理店でぼくは粕賀に切り出した。 「なんですか、あらたまって」 「この前、人の名前だか名称だか、ドン・ジョンソンみたいなこと言ったよな」 粕賀は投じられた石が湖上で波紋を広げるように、知識の探知機でぼくの問いかけの解答を探している。少女が困ったような唇を突き出した仕草で、答えをたどっている。それを無垢と受け取るかあざといと受け止めるか、粕賀の解答次第だった。 「ああっ」、目的のものに辿り着いたのか
『送信履歴』毎回読み切りのスピンアウト ~readerのボランティア 8~ ジュリ物語1 ワタシはreader。 読み上げる人。 訳あって、ボランティアでアドボカタスをしているの。 アドボカタスとは代弁する人。 ワタシなりの解釈では代筆ならぬ代述する人なのだけれども。 言いたいのに言えない人、伝えたいのに伝えられない人、届けたいのに届けられない人、そんな人って思いのほか、たくさんいるのよね。 私はそんな言葉にならない言葉を読み上げる。 男の子と一緒に立ってしたらパンツがび
『送信履歴』毎回読み切りのスピンアウト ~readerのボランティア 7~ ワタシはreader。 読み上げる人。 訳あって、ボランティアでアドボカタスをしているの。 アドボカタスとは代弁する人。 ワタシなりの解釈では代筆ならぬ代述する人なのだけれども。 言いたいのに言えない人、伝えたいのに伝えられない人、届けたいのに届けられない人、そんな人って思いのほか、たくさんいるのよね。 私はそんな言葉にならない言葉を読み上げる。 どうしてだろう。 世の中の時計は早く進むようになっ
駅に向かいがてら「もてたのかと思ったよ」と照れ隠しでおどけて言ってみせた。待ち伏せされたとすれば期待もあるという思いが掠めた気の迷い、うっかり口からこぼれ落ちた。 「まさかあ、田所さんとは」と粕賀に渋い顔をされた。 冗談のつもりで言ったはずなのに、粕賀の返答に胸がずきんと痛んだ。冗談だったんだよ、そう自分に言い訳をする。あれは、心の隙間が出現させた感情の逢魔が時のせいなんだと。 しばらくは誰ともつきあうつもりはなかった。誰かと交われば閉じかけた傷がぱっくりと口を開きそう
『送信履歴』毎回読み切りのスピンアウト ~readerのボランティア 6~ ワタシはreader。 読み上げる人。 訳あって、ボランティアでアドボカタスをしているの。 アドボカタスとは代弁する人。 ワタシなりの解釈では代筆ならぬ代述する人なのだけれども。 言いたいのに言えない人、伝えたいのに伝えられない人、届けたいのに届けられない人、そんな人って思いのほか、たくさんいるのよね。 私はそんな言葉にならない言葉を読み上げる。 「広告代理店にいる時はさあ」 そう切り出すと、にわ
『送信履歴』毎回読み切りのスピンアウト ~readerのボランティア 5~ ワタシはreader。 読み上げる人。 訳あって、ボランティアでアドボカタスをしているの。 アドボカタスとは代弁する人。 ワタシなりの解釈では代筆ならぬ代述する人なのだけれども。 言いたいのに言えない人、伝えたいのに伝えられない人、届けたいのに届けられない人、そんな人って思いのほか、たくさんいるのよね。 私はそんな言葉にならない言葉を読み上げる。 私は言いたこと、言わなければ言わないことを
『送信履歴』毎回読み切りのスピンアウト ~readerのボランティア 4~ ワタシはreader。 読み上げる人。 訳あって、ボランティアでアドボカタスをしているの。 アドボカタスとは代弁する人。 ワタシなりの解釈では代筆ならぬ代述する人なのだけれども。 言いたいのに言えない人、伝えたいのに伝えられない人、届けたいのに届けられない人、そんな人って思いのほか、たくさんいるのよね。 私はそんな言葉にならない言葉を読み上げる。 「私が何をしたの?」 アキオはオフィスを出るなり、
「ですから言っているじゃないですか」 横やりが、楽譜の物色という当初の目論見をみごとにはがしてしまった。代わりにぼくは粕賀と深夜の喫茶店にいる。ぼくはアイス・コーヒー、彼女は冷たい抹茶ラテで間を保っている。 窓の外をカップルやら同僚との飲み会のグループやらが不定期に通り過ぎていった。話をしていることがガラス越しにわかる。だが、何を話しているのかはガラスの厚みが邪魔をしてわからない。高架の上を電車が行き来していた。電車は連続しているのに、粕賀の話は途切れ途切れで的を射ない。
『送信履歴』毎回読み切りのスピンアウト ~readerのボランティア 3~ ワタシはreader。 読み上げる人。 訳あって、ボランティアでアドボカタスをしているの。 アドボカタスとは代弁する人。 ワタシなりの解釈では代筆ならぬ代述する人なのだけれども。 言いたいのに言えない人、伝えたいのに伝えられない人、届けたいのに届けられない人、な人って思いのほか、たくさんいるのよね。 私はそんな言葉にならない言葉を読み上げる。 「ばかやろう! このクソ忙しい時にまたヘマやらかしやが