青村 音音(アオムラ ネオン)

商用物書きから少し逸れて生活に添わない創作に憑かれたのが2018年。溢れては無駄にこぼれていくことばの流れ、その川底に残ったものを剥がしては拾い集めて、を繰り返していたら、点が線になりました。少しずつ少しずつ、それらを積み上げていけたなら。aomuraneon@gmail.com

青村 音音(アオムラ ネオン)

商用物書きから少し逸れて生活に添わない創作に憑かれたのが2018年。溢れては無駄にこぼれていくことばの流れ、その川底に残ったものを剥がしては拾い集めて、を繰り返していたら、点が線になりました。少しずつ少しずつ、それらを積み上げていけたなら。aomuraneon@gmail.com

マガジン

  • 令月のピアニスト

    情報化が先鋭化し、効率的な過ごし方をみんなが共有する時代になっても、自分の気持ちだけは誰とも共有できない。密集とコミュニケーション種類の多岐化・複雑化・深化は引力が強いがゆえに心が反発するのだろう、かえって他者との精神的距離は開いてしまう。そんな時代に起きた、ピアノがもたらす不思議な出来事。13部からなる苦味と酸味と甘みをたっぷりと編みこんだストーリー。

最近の記事

アドボカタス 『ありがとう』

『送信履歴』毎回読み切りのスピンアウト 〜readerのボランティア 13〜 ワタシはreader。 読み上げる人。 訳あって、ボランティアでアドボカタスをしているの。 アドボカタスとは代弁する人。 ワタシなりの解釈では代筆ならぬ代述する人なのだけれども。 言いたいのに言えない人、伝えたいのに伝えられない人、届けたいのに届けられない人、そんな人って思いのほか、たくさんいるのよね。 私はそんな言葉にならない言葉を読み上げる。 いいことと悪いことを胸に抱えた牧子はその日

    • アドボカタス『ジュリの上客』

      『送信履歴』毎回読み切りのスピンアウト ~readerのボランティア 12~ ジュリ物語4 ワタシはreader。 読み上げる人。 訳あって、ボランティアでアドボカタスをしているの。 アドボカタスとは代弁する人。 ワタシなりの解釈では代筆ならぬ代述する人なのだけれども。 言いたいのに言えない人、伝えたいのに伝えられない人、届けたいのに届けられない人、そんな人って思いのほか、たくさんいるのよね。 私はそんな言葉にならない言葉を読み上げる。 矢口は、ご主人を待つ犬のように尾を

      • 『令月のピアニスト』13/13 駅ピアノ

         こんなところにも駅ピアノがある!  札幌雪祭りへの旅道中、新幹線からの乗り換えで新函館北斗駅で降りたった際、構内のグランド・ピアノが目に止まった。 「弾いたことある?」と円日が訊いてくる。彼女はグランド・ピアノを言っている。 「ないよ」、恐れ多くてそんな異次元には踏み入れない。 「弾いた弦が、子宮の奥に響いてくるのよ」 「子宮の奥? ぼくにはないからわからない」、マツを経由して任子も同じようなことを言っていたという記憶がよみがえる。 「私があなたを受け入れるように、あなた

        • アドボカタス『寡黙に飲む客』

          『送信履歴』毎回読み切りのスピンアウト ~readerのボランティア 11~ ジュリ物語3 ワタシはreader。 読み上げる人。 訳あって、ボランティアでアドボカタスをしているの。 アドボカタスとは代弁する人。 ワタシなりの解釈では代筆ならぬ代述する人なのだけれども。 言いたいのに言えない人、伝えたいのに伝えられない人、届けたいのに届けられない人、そんな人って思いのほか、たくさんいるのよね。 私はそんな言葉にならない言葉を読み上げる。 夜の闇の惑わしにそそのかされて、女

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        • 令月のピアニスト
          13本

        記事

          『令月のピアニスト』12/13 自己満足のピアノを聴かれる心境

           夏が終わり、秋も暮れに向かって急ぎ足になっていた。  年の瀬を迎える間際、公私ともにクソ忙しいのにマツは挙式を終えた足でハネムーンに旅立っていった。そのマツが、頻繁にFacebook に写真とコメントを海外からアップしている。動画もあって、そのひとつを再生してみた。  マツが任子の後姿を追いかけている。コメントが喘ぎ気味なのは、急ぎ足の彼女に追いつかないからだろう。  待てってば、アツコ。  ん? それって尻に敷かれているみたいでちと情けなくないか、マツ。  プラハ・マサリ

          『令月のピアニスト』12/13 自己満足のピアノを聴かれる心境

          アドボカタス『頂の先に』

          『送信履歴』毎回読み切りのスピンアウト ~readerのボランティア 10~     ワタシはreader。 読み上げる人。 訳あって、ボランティアでアドボカタスをしているの。 アドボカタスとは代弁する人。 ワタシなりの解釈では代筆ならぬ代述する人なのだけれども。 言いたいのに言えない人、伝えたいのに伝えられない人、届けたいのに届けられない人、そんな人って思いのほか、たくさんいるのよね。 私はそんな言葉にならない言葉を読み上げる。       ふり返れば、この会社ひと筋。右も

          アドボカタス 『帰らないで』

          『送信履歴』毎回読み切りのスピンアウト ~readerのボランティア 9~ ジュリ物語2 ワタシはreader。 読み上げる人。 訳あって、ボランティアでアドボカタスをしているの。 アドボカタスとは代弁する人。 ワタシなりの解釈では代筆ならぬ代述する人なのだけれども。 言いたいのに言えない人、伝えたいのに伝えられない人、届けたいのに届けられない人、そんな人って思いのほか、たくさんいるのよね。 私はそんな言葉にならない言葉を読み上げる。 僕が電話をかけずにバー・ジュリを訪ね

          アドボカタス 『帰らないで』

          『令月のピアニスト』11/13 泣いてなんかいないんだ

          「ひとつ訊きたいんだけど」  王子で会った翌週、大久保のまた違ったベトナム料理店でぼくは粕賀に切り出した。 「なんですか、あらたまって」 「この前、人の名前だか名称だか、ドン・ジョンソンみたいなこと言ったよな」  粕賀は投じられた石が湖上で波紋を広げるように、知識の探知機でぼくの問いかけの解答を探している。少女が困ったような唇を突き出した仕草で、答えをたどっている。それを無垢と受け取るかあざといと受け止めるか、粕賀の解答次第だった。 「ああっ」、目的のものに辿り着いたのか

          『令月のピアニスト』11/13 泣いてなんかいないんだ

          アドボカタス 『言えるわけないじゃない』

          『送信履歴』毎回読み切りのスピンアウト ~readerのボランティア 8~ ジュリ物語1 ワタシはreader。 読み上げる人。 訳あって、ボランティアでアドボカタスをしているの。 アドボカタスとは代弁する人。 ワタシなりの解釈では代筆ならぬ代述する人なのだけれども。 言いたいのに言えない人、伝えたいのに伝えられない人、届けたいのに届けられない人、そんな人って思いのほか、たくさんいるのよね。 私はそんな言葉にならない言葉を読み上げる。 男の子と一緒に立ってしたらパンツがび

          アドボカタス 『言えるわけないじゃない』

          アドボカタス 『しなやかなバネ』

          『送信履歴』毎回読み切りのスピンアウト ~readerのボランティア 7~ ワタシはreader。 読み上げる人。 訳あって、ボランティアでアドボカタスをしているの。 アドボカタスとは代弁する人。 ワタシなりの解釈では代筆ならぬ代述する人なのだけれども。 言いたいのに言えない人、伝えたいのに伝えられない人、届けたいのに届けられない人、そんな人って思いのほか、たくさんいるのよね。 私はそんな言葉にならない言葉を読み上げる。 どうしてだろう。 世の中の時計は早く進むようになっ

          アドボカタス 『しなやかなバネ』

          『令月のピアニスト』10/13 幻想曲風ソナタ『月光』

           駅に向かいがてら「もてたのかと思ったよ」と照れ隠しでおどけて言ってみせた。待ち伏せされたとすれば期待もあるという思いが掠めた気の迷い、うっかり口からこぼれ落ちた。 「まさかあ、田所さんとは」と粕賀に渋い顔をされた。  冗談のつもりで言ったはずなのに、粕賀の返答に胸がずきんと痛んだ。冗談だったんだよ、そう自分に言い訳をする。あれは、心の隙間が出現させた感情の逢魔が時のせいなんだと。  しばらくは誰ともつきあうつもりはなかった。誰かと交われば閉じかけた傷がぱっくりと口を開きそう

          『令月のピアニスト』10/13 幻想曲風ソナタ『月光』

          アドボカタス 『救われるに値する原石』

          『送信履歴』毎回読み切りのスピンアウト ~readerのボランティア 6~ ワタシはreader。 読み上げる人。 訳あって、ボランティアでアドボカタスをしているの。 アドボカタスとは代弁する人。 ワタシなりの解釈では代筆ならぬ代述する人なのだけれども。 言いたいのに言えない人、伝えたいのに伝えられない人、届けたいのに届けられない人、そんな人って思いのほか、たくさんいるのよね。 私はそんな言葉にならない言葉を読み上げる。 「広告代理店にいる時はさあ」 そう切り出すと、にわ

          アドボカタス 『救われるに値する原石』

          アドボカタス 『言葉は表層』

          『送信履歴』毎回読み切りのスピンアウト ~readerのボランティア 5~ ワタシはreader。 読み上げる人。 訳あって、ボランティアでアドボカタスをしているの。 アドボカタスとは代弁する人。 ワタシなりの解釈では代筆ならぬ代述する人なのだけれども。 言いたいのに言えない人、伝えたいのに伝えられない人、届けたいのに届けられない人、そんな人って思いのほか、たくさんいるのよね。 私はそんな言葉にならない言葉を読み上げる。 私は言いたこと、言わなければ言わないことを

          アドボカタス 『言葉は表層』

          アドボカタス 『真に賢く、本物の仲間がいる者』

          『送信履歴』毎回読み切りのスピンアウト ~readerのボランティア 4~ ワタシはreader。 読み上げる人。 訳あって、ボランティアでアドボカタスをしているの。 アドボカタスとは代弁する人。 ワタシなりの解釈では代筆ならぬ代述する人なのだけれども。 言いたいのに言えない人、伝えたいのに伝えられない人、届けたいのに届けられない人、そんな人って思いのほか、たくさんいるのよね。 私はそんな言葉にならない言葉を読み上げる。 「私が何をしたの?」 アキオはオフィスを出るなり、

          アドボカタス 『真に賢く、本物の仲間がいる者』

          『令月のピアニスト』9/13 見せかけだったあんぽんたん

          「ですから言っているじゃないですか」  横やりが、楽譜の物色という当初の目論見をみごとにはがしてしまった。代わりにぼくは粕賀と深夜の喫茶店にいる。ぼくはアイス・コーヒー、彼女は冷たい抹茶ラテで間を保っている。  窓の外をカップルやら同僚との飲み会のグループやらが不定期に通り過ぎていった。話をしていることがガラス越しにわかる。だが、何を話しているのかはガラスの厚みが邪魔をしてわからない。高架の上を電車が行き来していた。電車は連続しているのに、粕賀の話は途切れ途切れで的を射ない。

          『令月のピアニスト』9/13 見せかけだったあんぽんたん

          アドボカタス 『不在の住人』

          『送信履歴』毎回読み切りのスピンアウト ~readerのボランティア 3~ ワタシはreader。 読み上げる人。 訳あって、ボランティアでアドボカタスをしているの。 アドボカタスとは代弁する人。 ワタシなりの解釈では代筆ならぬ代述する人なのだけれども。 言いたいのに言えない人、伝えたいのに伝えられない人、届けたいのに届けられない人、な人って思いのほか、たくさんいるのよね。 私はそんな言葉にならない言葉を読み上げる。 「ばかやろう! このクソ忙しい時にまたヘマやらかしやが

          アドボカタス 『不在の住人』