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発達障害の方が6年以上同じ職場で働き続けるために、会社が取り組む行動

【この記事は、約6分で読めます】

※本記事は、発達障害の社員を雇う/雇いたいと考える組織の方を対象としております。

はあ…今回でもう5人目。

せっかく発達障害の方を採用したというのに、1年経たぬうちに辞めてしまった。
雇う前に研修も受けて知識もつけたし、言葉の選び方や指示の仕方には特段注意を払ってきた。
なのに、どうして自ら退職の道を選んでしまうんだろう?

職場で発達障害採用に携わる方は、このような悩みが尽きないでしょう。
実際、平成30年厚生労働省が発表した発達障害者の平均勤続年数は、3年4か月です。
身体障害者の10年2カ月と比べて1/3しか続いていません。

出典:障害者雇用の促進について 関係資料(P.32)
https://www.mhlw.go.jp/content/11704000/000657531.pdf

このデータが示すのは、会社が発達障害特性について真の内面まで踏み込めず、彼らが会社に胸の内を明かせない環境にある結果からと僕は考えます。

今回は、なぜ発達障害の社員が職場定着に難を抱えるのか、6年以上同じ会社で安定就労を続けている僕が、当事者の立場として解説します。
そして、なぜ僕が長期的な就労が可能になっているのか、会社と共に取り組んでいる事例も説明します。

どうぞ、会社にとって1人でも長く太い職場定着を実現できるヒントとして、最後までお読みいただければ幸いです。


1.発達障害の方が職場定着に難を抱える本当の理由

①内に宿る「自閉的で頑ななココロ」に向き合えていない



自閉的で頑ななココロとは、発達障害を抱えた方が意図せずして自分の考えに固執する心理状態を指します。
このおかげで、彼らは状況理解や想像性に困難を伴う人間関係のトラブルをしばしば招きがちです。

ところが、自閉的で頑ななココロは永遠に治る見込みがありません。
なぜなら、自閉的で頑ななココロは僕を含め生まれながらにして持ち、永遠に切っては切れないものだからです。

どれだけスキルを重ねても、ココロの根っこに存在する、頑固なものです。

この記事にたどり着いた方は、恐らく研修で彼らが相手をおもんばかったり、共感的態度が乏しいと学んだかもしれません。
よく挙げられる3つ組の障害(コミュニケーション・社会性・想像性)についても、触れてきたと思います。
そして、これらの特性を理解した上で彼らを支えていきましょうとも、教わってきたとも予想します。

しかし、僕は共感的態度の乏しさも3つ組の障害も、説明されただけでは発達障害の真の理解につながらないと考えます。

なぜなら、これらはあくまで発達障害の見かけ上の問題を表しているに過ぎないからです。

例えば、発達障害の問題行動としては次のようなものがあります。


  •  自分だけの願望に必死なせいで、悪気はないのに失言を繰り返しては怒られる

  •  職場の不文律が分からず、周囲の空気を乱す

  •  特定のことにこだわりを持ち、頼んだ仕事を取り組んでくれない


まさに定型からしたら困り感満載ですが、これらは全て「自閉的で頑ななココロ」によって現れます。
そして「自閉的で頑ななココロ」を誘発するトリガーは、次のような3つの特性によって引き起こされます。

※ 具体例は、過去僕が全て経験したものです。

1.いつもの習慣や環境への、強い固執がある
例:毎朝7:30の電車に乗って出社しないと決まりきった行動ができず、パニックになる

2.状況に合わせて適した自分に、容易に切り替えられない
例:朝礼で社長が全員に向けて怒ったのに、その日会社でしおらしい態度ができない

3.自分の感情や思いとのズレや葛藤が起こる
例:卒業して20年以上経ったのに、夜中に学生時代いじめられた記憶が鮮明によみがえる

このような事例は、定型にしたら常軌を逸した行動といえるでしょう。
しかし、発達障害の方はこうした傾向を常に抱え、精神的な不安が多ければ多いほど高まるのです。

結果、能力の目減りを起こし、問題行動や本人の視野を狭め職場適応を阻めます。

二次障害で鬱や引きこもりを起こすのも、「自閉的で頑ななココロ」が原因です。

本人だけではコントロールできない執着心がベースになって、対人関係へのトラブルや独りよがりな行動に走る。
こうした内面にスポットを当てない限り、会社は発達障害を採っては辞めてを繰り返すでしょう。


②「ゼロ100思考に陥る」特性を看過している


ゼロ100思考とは、発達障害の方が物事を白か黒かしか判断できない状態を指します。
そして、ゼロ100思考に陥ると決まりきって周囲にトラブルを起こします。

ゼロ100思考が起こるのは、特定の物事に対する関心・こだわりが強い発達障害の特性から来るのが理由にあります。
そしてこうした特性の中で、急かされる・焦る・責められる状態が続くと、悪い方向へ加担して自分の意見に固執したがります。

なぜなら、固執しなければ自分を守れないからです。

自分の意見が通らないと、少し間違えただけでも泣いてパニックになったり、自分はダメな人間だと思い込んでしまうのです。

また、ゼロ100思考は発達障害を抱えたほぼ全ての方に当てはまります
少なくとも、僕が発達障害と診断されてから15年超300人以上の当事者とお会いした中、ゼロ100思考を持っていない方を見たことがありません。

僕ですら、パニックになると他の可能性が考えられず、激しい思い込みによって家族や職場を困らせてしまいます(むろん、悪意は持ってません)。
それほど、このゼロ100思考は発達障害を語る上で外せない重要な問題なのです。

そして、ゼロ100思考は当事者がどれだけスキルを備えても、成長しても未来永劫ついてきます
コンディションが安定しても、ある日何かのボタンのかけ間違いで急にゼロ100思考に陥る時があります。


僕の例でいえば、朝の洗濯やゴミ捨て・子供の学校の用意の間に予想もしない頼まれごとが重なると、パニックになってしまいます。
結果、「家事をやる」だけが目的化してしまい、服の干し忘れや1分前に頼まれた内容を忘れるなど、対応が雑になる傾向になります。
そのため、「色々な頼まれごとをする可能性がある」と身構えるようにはしてますが、追いついても追いつかないのが実情です。


ゼロ100思考も、定型の方にしたら理解できない感覚でしょう。
ところが、発達障害の方は自己防衛のために「する」か「しない」かの2択でなければ安心できません
たとえ、相手の意見が万人にとって理にかなっていてでもです。

どれだけ立派そうに見える当事者でも、ゼロ100思考は一生つきまとう。
発達障害の社員を支援する時、この視点を忘れないのが肝要になるのです。


2.会社が、発達障害の方と一緒に職場定着を実現するための具体的行動

①上司だけでなく、部署全体でサポートする


発達障害の方が安心して働くためには上司だけでなく、部署全体でのサポートが不可欠です。
なぜなら、部署全体で支えればより本人にとっての拠り所が増え、離職防止への土壌が強まるからです。

僕の会社を例にすると、直属の上司の他に月1でメンタルヘルスの知識を有した部署内の方との1on1を実施しています。
これは、直属の上司との間では言いにくい内容を共有するのが目的です。
確かに直属の上司でも、1on1でプライベートな内容を含んで困りごとを言語化しています。
ただ、感じ方次第で本人に悪気はなくても、僕自身が一つの状況を全て捉えてネガティブになる可能性もあります。

直属の上司との打ち合わせで、上司が不機嫌で怪訝な表情をしたとします。
ここで定型なら「ああ、この人は他の人との対応で嫌な顔しているのかな」と察して「大丈夫ですか?」と気遣えるものです。
しかし、僕の場合は怪訝な表情をしているのを「自分があの時に何かしでかしたことへの態度なのか?」と自分を責める傾向にあります。

これは、本人が常日頃このように思い込んでいるのが原因です。

「相手を傷つけた結果地雷を踏まないよう気を付けてるのに、不機嫌な態度を取ってるのは自分に何か原因があるからだ」

え?どうして自分が悪くないと思った行動でさえ自分のせいだと責めるの?と考えたのかもしれません。
しかし、本人にしたらこうした一つの態度でさえ自分に問題があると考えます。

なぜなら、周囲の状況を客観視できず、その場に合わせて適した自分に容易に切り替えられないからです。

つまり、自閉的で頑ななココロが客観性を歪ませ、目に見えるものを全て自分に起こったものと誤認してしまうのです。
そのため、本人に誤った認知をさせないために、直属のサポーター以外の支援が必要になります。


支援は多ければ多いほど、本人に就労に対する安心感をもたらします。

事実、僕の会社では僕と仕事に関わる方や経営権を持った方は、全員僕の障害を知っています。
そのため、関係者への根回しや擦り合わせは、ほぼ全員周りの方が賄っています。

関係者全員を巻き込めば、僕がやり取りしている内容も見える化でき、トラブルの未然防止にもなります。
これが、僕が6年以上同じ会社で安定就労を続けられる理由なのです。

当事者のサポートを担当者任せではなく、全員で守っていく
こうした会社の姿勢により、当事者が安心して働ける環境が作りあがるのです。


②仕事をやり遂げた後での成長を、会社から伝える


当事者の心を掴むためには、会社から今の仕事を担うことで当事者にもたらす成長を本人に伝えるのが重要です。

なぜなら、やり遂げた後の効果を伝えれば本人に見通しが立てられ安心につながるからです。
また、自分でも成長した姿が描け、モチベーションの向上にも貢献できます。

僕の仕事の一つに、出社した時に会社の中を回って社内のゴミ出しをする、足りない備品を発注する仕事があります。
具体的には、ゴミ箱にゴミが8割たまったら捨てに行く、コピー用紙が残り1束になったら10冊購入する、といったものですね。

そして、この仕事をするために僕は会社とチェックリストの作成や備品購入の基準などを見直しています。
理由は、「誰が見ても坂巻が今、会社の巡回をしている」と見える化するためです。

ある時、上司は次のように言いました。

「この仕事をすることで、社内の衛生が保たれる・必要なものがいつもそこにある、つまり当たり前のことが坂巻さんの力によって社内衛生が実現できる。それは坂巻さんの定例業務につながるだけでなく、会社にとってもCSR向上につながり、社外に向けてのアピールにもなるんだ」

この言葉を受け、僕は今以上にこの仕事にやりがいを持ち始めました。
一見、ゴミ出しや備品発注という仕事は単調だし、やって当然の仕事と軽視されがちです。

しかし、それらが実現しているのは紛れもなく僕が働いているからこそできるものです。
上司も僕が面接の時から口癖にしていた「縁の下の力持ち」という言葉を拾ってくれているおかげで、その通りに活躍できていると僕自身実感できています。


これは、パターン行動が得意という障害特性を水面下で本人に気づかせ、やる気を引き起こすのにもつながります。
また、一緒に考える・話し合うことで「自分ひとりで仕事をしてるんじゃない、一緒に作り上げるんだ」と周囲への協調性を促す効果ももたらします

その結果、本人にとっての居場所ができあがり、会社の役に立っている・必要とされているという方向性に導かれるのです。

これは、会社にとっても心理的安全性を実現できる好例にもつながります。

※ 発達障害者向けの心理的安全性については、過去記事もご覧ください。


仕事をやり遂げた後を、当事者にイメージさせる。
こうした取り組みが安心感につながり、安定就労へ拍車をかけていくのです。


まとめ


最後までお読みいただき、ありがとうございます。
以上で、発達障害の社員が職場定着を難しくしている真の理由と、その改善策についてご理解いただけたかと思います。

僕は、発達障害者を雇う会社に1つだけ伝えたいものがあります。
それは、どれだけ当事者が成長できても「ゼロ100思考」は割り切って接することです。

発達障害(ASD)は、自閉スペクトラムです。
自閉、つまり社会に対してココロを閉ざす症状です。

これは日本自閉症協会が自閉スペクトラムを紹介していることからも、明らかです。


自閉スペクトラム症は、当事者が意図せずして抱えてしまう根本の問題で、一生かけても取り除けません。
昨日まで仲が良くても、今日になって突然退職の相談を持ち掛けられる場合さえあるのです。
たいていその場合は本人の思い込みが激しい時ですが、こういう極端な思考にならないために会社も普段から当事者の心を離さない工夫が必要です。

どれだけ忙しくて手が回らなくても、一瞬だけ「いつもコツコツやってて偉いなあ」と一言ねぎらうだけで、十分です。

この一言が言えるか言えないかだけで、「自分は会社で必要とされている」「ほめられたからもっと頑張ろう」と思えるものです。
事実、周りから障害特性を認めた上で声かけされるからこそ、僕は6年以上同じ会社で安定就労が実現できているのですから。

この記事をきっかけに、発達障害の方を雇う上で長期的な安定就労を実現できる一助となりますように。


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坂巻菱生 | 発達障害(ASD)成人当事者
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