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秋しばセレクション

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受賞・採用・その他お気に入りの作品です。 「秋しばって、こんな話を書く人かー」と知って頂けたら嬉しいです。
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なぜ小説を書くのか ~公募落選の現実と、その先に見えるもの 〈3385字〉

なぜ小説を書くのか ~公募落選の現実と、その先に見えるもの 〈3385字〉

2021年11月11日。
全力を尽くして書き、応募した文学賞に見事落選した。

初っ端から暗い書き出しで恐縮だが、事実だから仕方がない。恥ずかしながら相応の自信はあったのだが、残念なことに結果はついてこなかった。

同様の経験をされた方は、この世界に多くおいでのことと思う。成功を手にできるのは、ほんの一握りの人たちだけだ。
それが判っていても、やはり、書く。
プロアマ問わず、物書きの業とも呼ぶべき

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あなたとお茶を、家族のように

あなたとお茶を、家族のように

【ここでは義理の母を「母」と呼び、実の母は「私の母」と表記します。ご了承下さい】

今から20年以上も前。
結婚を控えた私が、初めて相手の両親に挨拶に行った時のことである。
俗に言う嫁姑問題は、往々にして初対面からそのタネが蒔かれることも多い。私は緊張しながら相手の家にお邪魔した。

初めて会った相手の母は、想像以上に若かった。
事前に年齢は聞いていたが、それを頭に入れていても驚くぐらいだ。
ちな

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週末スイッチ【僕らのあざとい朝ごはん応募作】

週末スイッチ【僕らのあざとい朝ごはん応募作】

――ようやく一週間が終わった。

一人暮らしの狭い部屋に辿り着くや、仕事の疲れがじっとりと沁みついた服を脱ぎすて、冷蔵庫からキンと冷えた缶ビールを取り出す。

「うっま……」

閉店間近のスーパーで半額になった弁当をかき込み、とりあえず腹が膨れてついうとうとしかけた雅斗は、慌てて目を開けた。
金曜日のビールに溺れてしまわないうちに、やっておくことがある。

雅斗は冷蔵庫を開けると、卵と牛乳を取り出

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春の甲斐路をひとり往く ~やまなし文学賞授賞式・珍道中<前日編> 3135字

春の甲斐路をひとり往く ~やまなし文学賞授賞式・珍道中<前日編> 3135字

やまなし文学賞は、今年で31回めを迎える地方文学賞だ。
正式名称は『樋口一葉記念 やまなし文学賞』といい、山梨県にゆかりのある樋口一葉の生誕120周年を記念して、平成4年に制定されたとある。

私がこの賞に応募した理由は、実に単純明快だ。
「大賞を取ると、受賞作が単著刊行される」
自身の本の出版を目標とする私にとって、公募を選択する時に「書籍化」は大きな魅力となる。

ところが、であった。
やまな

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春の甲斐路をひとり往く ~やまなし文学賞授賞式・珍道中<当日編> 3414字

春の甲斐路をひとり往く ~やまなし文学賞授賞式・珍道中<当日編> 3414字

予報どおり、授賞式当日は雨だった。

早めに朝食を済ませておこうとロビーに下りていく。
『城のホテル』の朝食バイキングはとても美味しかった。品数もめちゃめちゃあって、時節柄か小皿にひとつひとつ盛り付けられ、しかもすべてラップされている。さぞかし準備が大変なことだろう。
圧巻の美味しさの葡萄ジュースとほうとうがあるあたり、さすが山梨!と感心しきり。

さて本日は正装なり。しかもすべての荷物+傘を差し

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この箱を開けたら〈5680字〉 光文社文庫Yomeba!第20回『箱』応募作

この箱を開けたら〈5680字〉 光文社文庫Yomeba!第20回『箱』応募作

「よう、兄さん。待ちなよ」

仕事帰りの雄司が疲れた体で振り返ると、薄汚れた身なりの老人が、既に日も暮れた道端で店を広げていた。怪しげな物売りかと素通りしかけると、後ろからしゃがれ声が追いかけてくる。

「そう邪険にしなさんな。あんたは今、ちょいと毎日が辛いんじゃねえのかい?」

思わずぎくりとして足が止まる。

「ほうら、図星だ。顔と歩き方見てりゃ、それぐらいのことは判るさ。そんな兄さんにはうっ

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(旧作)桃の花咲くころに 〈5744字〉 光文社文庫Yomeba優秀作

(旧作)桃の花咲くころに 〈5744字〉 光文社文庫Yomeba優秀作

「――おまえ、また山に来たのか」

不意に後ろで声がした。
木の陰に座り込んでしゃくり上げていた佐助は、泣き腫らした目をこすりながら振り返るや思わず声を上げた。手を伸ばせば触れられそうなすぐ近くに、一匹の狐が座ってじっと佐助を見つめている。

「き、狐がしゃべった……!」

腰が抜けたようにへたり込んだまま、手だけでずりずりと後ろに下がる佐助を見て、狐はおかしそうに笑った。

「驚くことはない。我

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(旧作)ミッション・テンパッシブル 〈5170字〉 光文社文庫Yomeba!第19回『ゲーム』優秀作

(旧作)ミッション・テンパッシブル 〈5170字〉 光文社文庫Yomeba!第19回『ゲーム』優秀作

【おことわり】
2024年5月の文学フリマ東京38で発売した短編集『夜半舟』に収録されている『ミッション・テンパッシブル』は、旧作を大幅に改稿したものです。
本記事は2022年に執筆した旧作の『ミッション・テンパッシブル』であり、短編集に収録したものとは異なる内容です。
ご了承ください。
以下は2022年当時の記事となります。

――もう耐えられない。

私は真夜中のダイニングで、ひとり涙をこぼし

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狐棲む杜 〈4166字〉

狐棲む杜 〈4166字〉

「じゃあ、みんな元気で夏休みを過ごして下さい。遊び過ぎて宿題を忘れないようにね」
 先生の声に、クラス中が歓声で応えた。
 いよいよ明日から夏休みだ。
 みんな両手いっぱいの荷物で、わっと一斉に教室を飛び出した。

「なあ。夏休みの自由研究、何やる?」
「オレ、父ちゃんと飛行機の模型作るんだ!ほんとに飛ぶやつさ。オレの父ちゃん、めっちゃ器用なんだぜ」
「僕んちは夏休みにヨーロッパ行くから、外国の言

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【朗読】シンデレラは眠らない

【朗読】シンデレラは眠らない

朗  読:むう様
作品掲載:ショートショートガーデン
    『シンデレラは眠らない』
    『続・シンデレラは眠らない』
*動画案内の下に原作(ショートショートガーデン『縁コンテスト』応募作品)を掲載しております。

シンデレラは眠らない

「お婆さん、お願い。私もキラキラしたいの。舞踏会に行かせて!」

ぐいぐい迫るシンデレラに魔法使いは怯んだ。

「でも王子の目に留まるには、出会いの縁を結

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棘 【#2000字のホラー応募作品】

棘 【#2000字のホラー応募作品】

老婦人は飾り棚の上にぽつりと置かれたサボテンの鉢に、深く皺の刻まれた手を伸ばすと、そっと語りかけた。

「もう生きていても仕方がない。おまえを置いていくのを許しておくれ」

――事の起こりは昨今、巷に蔓延る高齢者を狙った詐欺だった。
老婦人は決して不注意な人間ではなかったが、その生来の人の好さが災いしてか、まんまと詐欺グループの企みに引っ掛かり、多くはないが自身の生活を支えるにはまずまずの蓄えを根

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誘惑銀杏(イチョウver.)【毎週ショートショートnote】

誘惑銀杏(イチョウver.)【毎週ショートショートnote】

「……それ、なに」

グラス越しに訊ねると、相手はそれを口に咥えたまま、ふふふと含み笑いを洩らした。

「ひひょほ」

「は?」

相手は指先でそれをつまむと、もう一度口を開いた。

「イ・チョ・ウ」

派手なネイルを施された指先に挟まれているのは、確かにイチョウの葉だ。

「それは判るんだけどさ。何でそんなもの咥えてるの。酒飲むのに邪魔でしょ」

「イチョウの葉って、扇みたいに見えない? 中国か

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三日坊主のクレーター【毎週ショートショートnote】

三日坊主のクレーター【毎週ショートショートnote】

「よお、五郎さん。何やってんだ、もうすぐ日が暮れるぜ」

雨上がりの田んぼの畦道に座って煙草をふかしていた五郎は、ひょいと振り返った。

「何だい、五郎さんの田んぼ、あちこち穴だらけじゃねえか。猪が山から下りてきて掘りでもしたか」

五郎はぷっと煙草の煙を吐き出した。

「いや、猪じゃねえ。うちの孫だ」
「孫? ああ、都会から遊びに来てたっちゅう坊主かい」
「田んぼが珍しいのか、散々泥遊びしよって

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ほんの一部スイカ【毎週ショートショートnote】

ほんの一部スイカ【毎週ショートショートnote】

「さ、これで舞踏会へ行っておいで。ちゃんと12時までには城を出るんだよ。でないと魔法が消えちまうからね」

「ありがとう、おばあさん。じゃあ行ってきま……何これ、冷たっっっ!」

馬車に乗り込んだシンデレラが、座ったとたんに悲鳴を上げた。

「あー……ちょいと魔法が足りなかったかねえ」

魔女は杖でぽりぽりと頭を掻いた。

「いやね、店に行ったらカボチャが売り切れてたもんで。仕方ないからスイカを使

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