明花里小夜
短編小説をまとめた一つの作品です。完結済。
やっと秋らしい季節になってきましたね。 今回もお読みいただきありがとうございました。 今作は「高校の体育祭」を舞台にしました。 今まで”動きのある”小説を書いたことがなかったな、と思ったので挑戦してみたくて、そこから書きはじめたのがスタートでした。 執筆の過程で思い出したのは、 「学生時代の頃、どういうわけか自分のことを気にかけてくれた人がいたよな」ということでした。 陽キャだとか陰キャだとか、グループが違うとか、スクールカーストが上だとか下だとか、そんな学生
まるで水中に潜った時みたいに、周りの声がくぐもって聞こえる。自分の心臓の鼓動が、大きく鳴って、私の身体を内側から叩いている。緊張しすぎて、吐きそうだ。 目の前には運動場に引かれた白線。白線は巨大な楕円形に広がっていて、白線の外側には学校中の生徒が居る。 「次の走者はスタートラインに着いてください!」 体育委員の男の子に促されて、最終走者はスタートラインに着くためにコースの中に入っていく。私もコースに入ろうとしたら、別のクラスの女子生徒たちがインコースに陣取って退かない
今回もお付き合いいただきありがとうございました。 久しぶりに”真っ白な小説”が書きたくなって書きはじめました。 そうはいっても、書きはじめると「こうしよう」「ああしたい」と色々な展開が思い浮かんでいくもので、”真っ白”だからといって、必ずしも”真っ直ぐ”書き進められるものでもないのだな、と実感しました。 それでも、作中のキャラクターが物語を引っ張っていってくれて、書き上げることができました。 ”七月の青春感”が表現することができたと思います。 剣道部や写真を
「写真家が恋をした時どうなるか知ってる?」 私はいつしか先輩に言われた言葉を思い出した。 「そんなこと自分に起きるはずがない」と思っていた。 扉を開いて剣道場の中に入ると、女子剣道部のみんなが和気あいあいとした雰囲気で雑巾掛けをしていた。口々に、足が回らない、だとか、もう限界、と言いながらも、さすがは運動部といったところで、全員が道場の端から端まで、四つん這いの姿勢で床を駆けていく。私だったら、一往復も出来ずに倒れ込んでしまうだろう。 「おっ、金原ー!」 いおち
読んでいただきありがとうございました。 「六月」をテーマにして話を考えはじめました。そうすると、雨の日の放課後に教室で一人、本を読んでいる生徒が思い浮かびました。 その人はどんな人だろう? そこから話を広げていきました。 作中にも言及されているテーマ『本を読む意味』についてですが、人それぞれの哲学があると思われるので、あくまで作中の見解は一意見だと思っていただければ幸いです。 執筆を続けながら自分の記憶を遡っていきました。 高校生の時に学年の連絡事項を報告す
「ねえ、桜井さん。何読んでるの?」 声を掛けられた瞬間、自分の記憶がフラッシュバックした。 ”雨降りのくもり空” ”湿気と校舎のカビの混じった臭い” ”私に向けられた鋭い眼差し” 学生時代の苦い記憶が溢れ出しそうになるのを押しとどめ、意識を今に戻す。読んでいた本から視線を上げると、同僚の高本さんがひらひらと手を振った。 オフィスの休憩室では他部署の社員が携帯端末を見ていたり、テーブルで談笑していたりと、思い思いに過ごしている。かくいう私は部屋の端のテーブルで
お付き合いいただきありがとうございました。 今回は『仮入部期間』という場面設定を決めてから書き始めました。書き進めていくうちに物語の輪郭がはっきりしていったのですが、自分の好きな『青春』要素に、最近ぼんやりと考えていたことを加えました。 『親の影響』についてです。 人と会話していると、「この人、話が通じないな」と思うことがあって、もどかしい気持ちになる時があります。 その話題の一つが『親』についてです。 ”親は絶対的!”という態度を崩さない人がいます。親に苦
「では、最後の質問です」と記者が言った。 「やっと終わりだ」、と苦行から解放されることに安堵した。記者というのは退屈で同じような質問を繰り返す。プロ野球選手になってから、思い知らされたことだ。 どうせ「今シーズンの抱負は?」とか「今年の目標は?」とか、そんなところだろう。端から用意していたコメントを頭の中で準備した。 しかし、目の前の記者は想定していた質問と違ったことを聞いてきた。 「江出(えずる)選手の野球人生の中で、一番のターニングポイントはどこですか?」 「
今回も読んでいただき、ありがとうございました。 いつもとは趣向を変えて、サスペンスを書いてみました。それだけでなく、自分の好きな青春の分野を織り交ぜながら完成させました。 昔から、誰かの”特別”になるということは、椅子取りゲームで一つの椅子を取り合うようなかんじがしていました。 自分で音楽を止めるタイミングも、椅子を競う人数も決められないって、何だか納得いかないな、と。 そんな感覚を、テーマにして書き上げた短編です。 お付き合いいただきありがとうございました。
『桜が綺麗だから一緒に見に行かない?』 君からのメッセージが携帯端末に届いた時、待ち構えていたにも関わらず、私の胸は高鳴った。 今日も君に会える。心が弾んだ。 私は急いで身だしなみを整える。今日も君に”可愛い”と思われたいから。 自分の部屋を出て、玄関から母親に、お出かけする旨を伝える。母親が何か言い返してきたけど、聞き流して家を出た。 Side:茉央(まお) 時刻は午後五時を回っていた。駅からの道を歩いて公園にたどり着くと、満開の桜が私たちを迎えてくれた。春
春が近づく中、みなさん花粉や気温の変化など大丈夫でしょうか。 今回も読んでいただきありがとうございます。 『卒業』をテーマに書きはじめた今回の短編でした。 まずは自分にとって『学生時代』とはどういったものだったか、を紐解くところから始めました。 振り返れば『世界を白か黒かで分けるような時代』だったな、と思いました。 登場人物の夏鈴さんにはそういった思春期特有の”焦り”みたいなものを反映させたため、こういうキャラクターになりました。 「負けたら終わり」「勝てない
「私が先輩のことを殺したんです」 私の告白が、体育館の空気を揺らした。 どうせ今日で会うのが最後だ。そんな気持ちがあった。ずっと抱えていたやり場のない憤りを、私は先輩にぶつけていた。 彼女はいつもどおりの笑顔で私を見つめ返してくる。 その余裕綽々とした様に、私の怒りの火花が、散った。 我がバレーボール部の朝練は自由参加と取り決められている。そのため、強豪校でもない平凡なうちの高校で、熱心に朝練に打ち込む物好きな部員は存在しない。 私を除いて。 職員室を訪ねる
読んでいただきありがとうございました。 最初は叙述トリック的な小説を作ってみたい、と思い書きはじめたのですが、途中で、自分の思惑とはちがう方向に進んでいきました。 登場人物二人の境界線が曖昧になっていくのも、そのためです。 そういうエッセンスを交えつつ、登場人物二人の幸せを願いながら書いていきました。 書き進めていく中で書きたいものがカタチを作っていくのが、面白かったです。 ”登場人物が動く”なんて大げさなことは言えませんが、 ”こういうところに着地する”という書き心地を覚
何かの夢を見ていた。それがどういう夢か思い出せないことはいつも通りだった。 まどろみの中で、寝ぼけながら枕に顔を押し付けると、鼻をくすぐる匂いが、自分のものと違っていることに気づいた。その瞬間、焦りとともに意識が覚醒した。見渡すとやっぱり私の部屋ではなかった。 次いで頭に鈍痛が広がっていき、私は思わずベッドの中でうずくまる。視界も思考も、自分の感覚全部がぐるぐるぐるぐるして気持ち悪い。 頭痛い‥ここどこ?‥今何時?‥胃液が上がってくる‥変なことになってないよね?
「おーい!おつかれー!」 私が声を掛けても、美咲(みさき)は反応することなく鏡の中の自身の姿に集中して踊り続けていた。 ”ザー‥タンタタタン。シャッ。ジャッジャッ‥” スニーカーが地面のコンクリートを鳴らす音が空間に響く。止めるところは止める。リズムに乗るところは乗る。全身で”緩急”を操る美咲のダンスからは、いつも美咲自身の音楽が鳴っているのがわかる。 私は美咲の後ろに回り込んで、姿身代わりに使われている公民館の大きなガラス窓に映り込みにいった。すると、美咲は私に気
腕時計を確認すると時刻は午後八時を回っていた。デスク作業で凝り固まった背中が痛い。疲労感を覚えながら、俺は会社の屋上に置かれたベンチに腰掛け、缶コーヒー片手に、建物が立ち並ぶ街の夜景を脱力して眺める。視界の左には高くそびえる小綺麗なマンションがあり、そのマンションの陰になっている右手には小汚いアパートが建っている。 俺はこの光景を見るたびに、「資本主義ってえげつねえな」と辟易するし、「もう少し頑張って働きゃなきゃな」と尻を叩かれているような気持ちにもなる。それらが果たして