強度行動障害。自傷や物を壊したりと他害する、知的障害と発達障害の重症な症状の1つ。
こんにちは、翼祈(たすき)です。
重い知的障害やコミュケーションが苦手なASDの自閉スペクトラム症を持つ人が、噛み付いたり物を投げたりの他害や、自傷行為をする、「強度行動障害」という症状をご存知ですか?
専門家によると、この行動を取っている人はしたい訳ではなく、本人が困っているからサインの表れで行動をしてしまうそうです。強度行動障害はなかなか施設に入所出来ない課題もありますが、常時介護の上で一人暮らしを始めた女性もいるそうです。
今回は「強度行動障害」について迫ります。
強度行動障害とは?
精神科的な診断名ではなく、かみつきやひっかき、頭突き、物を投げたり、ボールペンで人を突いたりなど直接的な“他害”や睡眠の乱れ、突発的にフロントガラスを肘で割るなどの“自傷行為”などが、通常考えられない頻度とカタチで現われている状態を指します。
重い知的障害に合わせ、コミュニケーションが苦手な人が陥りやすいなど自閉スペクトラム症の診断をされている人に多い傾向です。強度行動障害を持つ人は療育手帳を交付の人の1%程度(全国で約9600人=2016年)だと推計。全国的な数字はありませんが、鳥取大学の臨床親子学が専門の教授の鳥取県での調査結果では、2017年の療育手帳を持っている人の5538人中、144人(2・6%)が強度行動障害に当てはまりました。
強度行動障害を持つ多くの人は自宅で通所施設などを利用しながら生活したり、障害者施設に入所したりしている一方で、地域の精神科病院や、国立病院機構など専門家のいる医療機関に入院している人もいます。
専門家によれば「本当はその行動をしたくてしている訳ではなく、重い自閉スペクトラム症や知的障害などの特性によって自分の周囲の環境のミスマッチや意思疎通が困難で、当事者が何かに困っていることでのサイン」とも言われています。
治療に関しても、表面上に出て来た行動障害を分析し、検証して当事者に触れる必要があることから「患者の24時間の暮らしで接する多職種の人材が欠かせない」とされています。
参照:他害は「困った」時のサイン 強度行動障害、受け入れ事業者は増えず 西日本新聞(2020年)
施設にも入れず強度行動障害を持つ我が子に、介助する親は疲弊
自傷行為や物を壊すなど他害をするといった「強度行動障害」を持つ人は、全国に少なくとも2万5千人いるとされています。重度障害までなると常時介助が不可欠ですが、障害者支援施設側は人手不足や、他の入所者や職員の身の安全確保の為に入所を断られる事例もあります。
入所先が出来ず、在宅で息子の常時介助を続ける福井県福井市の夫婦によれば「24時間気持ちが落ち着かず、普通に暮らすことも難しくなりました。家だけで息子を支えるのはもう限界」と疲弊しています。
50代の夫婦の次男は2歳の時に広汎性発達障害(自閉症スペクトラム症)と診断を受けました。特別支援学校小学部6年の頃から強度行動障害の兆候が出現し始めましたが、特別支援学校在学中は比較的症状が落ち着いていました。
特別支援学校高等部を卒業後、建物から飛び降りを図ったり、物を投げつけたりする重度の症状が現れました。家の部屋の窓ガラスを割ってしまうので、両親は窓ガラスからアルミ板に替えました。
次男は、障害者総合支援法に基準した支援の度合いが最も重度な「6」。現在は週1回のショートステイと週4回の通所で、2つの施設を行っています。夜間は訪問ヘルパーが在中し介助に回ります。夫婦は「環境の変化に繊細なので、1日の生活リズムが変わらないのが理想的な過ごし方」と、障害者支援施設への入所を強く望んでいます。
知的障害者ら40人が入所している福井県勝山市の障害者支援施設「九頭竜ワークショップいずみの郷」は常に定員が満員です。次男と同じ頃に入所を望んだ強度行動障害の女性もいましたが、入所出来ず日中の通所で同障害者支援施設「九頭龍ワークショップいずみの郷」側は対応しています。
担当者は「もっと重度の強度行動障害の人を受け入れようとなると、施設の設備を完備しなければいけません。お金も職員もまだまだ必要な状況です」と苦しい胸の内を明かしました。
参照:息子が強度行動障害、在宅で介助「もう無理」 入所先見つからず…疲弊する両親 【地域のいま・みらい~衆院選ふくい】 福井新聞(2021年)
国や自治体は「入所施設から地域へ」とうたい、生活介護や自立訓練などの福祉支援サービスを活用し、障害者の地域生活移行を推進しています。それは、夫婦には遠い世界に見え、「自分たちが死んだら、息子はどうなるのか。行政には現実を知ってもらいたい」と訴えます。
常時介護で親元を離れ、一人暮らしする強度行動障害の女性も
医師の強度行動障害の見解
自傷行為や暴れるなど他害なども起こす強度行動障害。家族や障害者福祉施設だけでは当事者の介助が出来ず、長い間、精神科病院に入院を続ける人もいます。そんな強度行動障害の当事者に対し、「医療」はどんな役割をすべきなのでしょうか-。
強度行動障害の治療や支援に精通している佐賀県の国立病院機構・肥前精神医療センター療育指導科長の女性が、2020年10月に福岡市内で講演を開きました。
病院側も強度行動障害の当事者が社会で暮らす為の移行に備え、「医師が1人出来ることは限定的だ。通常から障害者福祉施設や教育など関係機関と太く提携し、生活全般を下支えする認識が大事です」と指摘しました。
国立病院機構・肥前精神医療センターの療育指導科長の女性の話では、強度行動障害の症状を軽くさせる医療を実行するだけでなく、「強度行動障害の当事者の自傷行為での失明や、キーホルダーなどを誤飲して開腹手術が必然になるなど、病院側と密に連携しないと命を落とすケースも少なくない」と言います。
障害者福祉施設での短期入所が困難な場合は、一緒に生活する家族や障害者福祉施設職員の限定的なケアのための短期入院も実施しており、病院側が「家族の介助や障害者福祉施設での対策が厳しい人々に向けたセーフティーネットの機能」を果たしていることは間違いないのです。
ただ精神科病院では、特に強度行動障害の当事者が重度になっている状態では、強度行動障害を薬で落ち着かせる薬物療法が代表的です。「薬を過剰摂取すれば、消化管の働きや呑み込む機能が悪化するなど副作用も懸念される」と言います。個別の部屋などで強度行動障害の当事者を24時間365日、行動を規制し監視する事例も珍しくはありません。
この事例に対し国立病院機構・肥前精神医療センターの療育指導科長の女性が強く訴えたのは、強度行動障害の当事者が問題行動を起こす前後の様子をよく調べ、本人の感情が安定しやすい様に部屋などの環境を改善させ、写真や絵のカードを用意して意思疎通を図る-など、障害者福祉施設などで既に行われている支援を医療に取り込む「非薬物療法」の必然性です。
参照:家族や施設では支えきれず…「強度行動障害」医療が果たすべき役割は 西日本新聞(2020年)
同国立病院機構・肥前精神医療センターには看護師だけでなく、保育士や心理士、児童指導員など多様なスタッフが所属。入院患者には一日の生活スケジュールに合わせて治療や薬の調整を行い、徐々に個室から出て、小グループでの活動など行動の場を広げていくようにしています。いずれも患者が「自宅や施設に帰ったときのギャップ」を回避し、スムーズに地域生活に移行できるようにする狙いがあります。
私にも強度行動障害の要素はあるかと、
私は引きこもりだった20代の頃、毎日イライラしていました。自分自身や自身の置かれている環境に不満があったからです。一度も自傷行為はした事はありませんが、怒りが爆発するとよくものに当たっていました。2階のベランダから扇風機や固定電話の子機、ゴミ箱など色んな物を投げて壊したり、よく踏んだり蹴ったりしても物を壊していました。私の場合、基礎疾患を引き起こした薬の前に飲んでいた薬の影響もあって、こういう行動を起こしていました。
働き出してから引きこもっていた時より自由もありますし、そういう物を壊す行動は無くなりましたが、今もあるとしたらストレスが溜まっている時、自宅のポストに届く、DMハガキや郵便物など、不要で期限の過ぎているものを、小さく破る癖はまだ抜け切れません。私もASDも持っているので、強度行動障害の要素は大いにあるかもしてません。
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