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ワンファクターモデル経済学が明らかにする経済・経営の全貌

去年の記事を新たに総まとめして描く。ワンファクターモデル経済学とインテグラル理論を使うことで社会経済の仕組みを明らかにすることができる。

経済学で分かっていることおさらい:長期的には生産性がほぼ全てだ

経済の教科書では「長期的な豊かさは生産性によって決定される」ことが示されている。この生産性は、最長期的に見れば、金融政策、財政政策の量、失業率、インフレ率、国債発行額などでは決定されず、技術水準という中身で決まる。

経済学は生産性の学問。「イノベーション=技術=生産性」である。

逆に言えばいくら金融緩和や財政出動をしようが、金融引き締めをしてゾンビ企業を淘汰しようが、財政再建をして投資を促そうが、イノベーションが起きなければ生産性は上がらない。投資額が増えてもイノベーションが起きなければ生産性は上がらないし、投資額が同じでもイノベーションが増えれば生産性は上がる。一般的には適切な量の規制を整えることで、起業や新規事業を起こしやすい体制を作りイノベーションを促進するものと言われている。

経済学にとってのイノベーション「どういう制度や国の支援策を出してイノベーションを起こすか?」

経済学はイノベーションを制度、仕組み、政策のほうから捉える学問だと言える。マクロ経済学は国全体を扱い、ミクロ経済学は個々の業界なども
見ていくが、制度側からの切り口である。

経営学は基本的にどうやって企業がイノベーションを起こすか?の学問

一方で、経営学は企業側からの目線で、どうすればイノベーションを起こし、生産性を上げ、企業が利益を出し、生き残っていくことができるかを考える学問だ。しかし、長期的な視点がイノベーション・生産性にあることは、経営学も経済学も同じだ。

経営学のイノベーション「どういう経営戦略や組織・人事を作ることでイノベーションを促進するか?」

経営学では知の探索と知の深化を使って、知識を集める。知の探索は新規事業など新たな知識を取り入れることであり、知の深化は自身の事業について深めていくことだ。この二つのバランスがイノベーションには必要だが、基本的に企業は知の深化に偏ってしまうため、知の探索を推進する必要があると言われている。

イノベーションは知の探索が支えている。国は知の探索を促すように政策を決める。

そして、知の探索を支えるのは労働時間である。

労働時間が長すぎれば、企業の中で知識が凝り固まってしまうため、企業は仕事自体を知の探索を加える(20%チャレンジ制度、コンサル企業、スタートアップ企業)必要がある。しかし、全ての企業がそれはできないので、全体でみれば労働時間を下げることで、外から知識が取り入れられるようになり、イノベーションを起こし、生産性を上げることができるという形だ。

「労働時間→知の探索→イノベーション→技術→生産性」という関係。この関係が経営学と経済学の中心になる。

この関係から導き出されるのがワンファクターモデル経済学だ。

ワンファクターモデル経済学:労働時間が生産性を決定する!!

生産性と相関関係のグラフを調べると、強い相関関係があるのは大学に対する政府支出と、労働時間だけになる。

政府債務と経済成長率は負の相関関係はあるがかなりばらついている。


一方で労働時間と、生産性の関係はかなり収束性が見られる上に、労働時間が短い国についてはノルウェー、ルクセンブルク、アメリカ、アイルランド以外は相当収束している。この4国を外れ値とすれば、その時点でかなり直線的な関係になる。

様々な生産性と関係する指標と比べても、労働時間と生産性の関係は非常に直線的である。労働時間を減らすことは生産性を上げることと同じなのだ。
中長期的には影響があるが、最長期的には影響が薄いと言われている国債と比べても、歴然とした関係があることが分かる。

そして、1600時間あたりで生産性が急上昇しているように見えるが、これは男性が年労働時間1300時間~1560時間で最高のパフォーマンスを発揮することに対応している。

幸福度は各国でばらついているが、労働時間が短い国で幸福度が低い国はない。労働時間が1600時間を下回る辺りで幸福度も急上昇すると見られる。

2ファクターモデル:ノルウェー、ルクセンブルク、アメリカ、アイルランド(今はアイスランドも含む)がなぜ例外なのか、アメリカの格差の原因も明らかである。

これらの国は、外国資本比率が非常に高く、海外との資本交流が活発である。アメリカはアイルランドと、日本を足して2で割ったような状態にあるため、格差が激しい。アメリカは海外資本交流が活発な地域だけが大きく成長し、これが格差と分断の原因になっている。

海外から知識が積極的に入ってくることがこの上振れの理由である。

ワンファクターモデル経済学:労働時間が生産性を決定するが、海外資本交流が極端に高い国だけは限定的に上振れる。

アルゼンチンがかつて先進国であり、先進国でなくなった理由も明らかである。アルゼンチンは、かつて極端に海外資本比率が高い2ファクターモデルであったため、限定的に生産性が高かったが、この状態を解消してしまったため、先進国でなくなってしまったのだ。

ワンファクターモデル経済学は、日本の長期停滞の原因を的確かつ明確に説明

1600時間を下回るあたりで生産性は急上昇するが、それまでは生産性ののびはゆっくりである。このため、元々の労働時間が長かった日本は労働時間が1600時間を下回るまでは停滞する。しかし、労働時間は減っているので、先ほど説明した労働時間と生産性の直線的な関係が根底から覆らない限り、日本はいずれ、ドイツやフランスに近い生産性まで高めることができる。

・各国のGDPの上げる方法「10位まで説明」

アメリカ「内陸部の労働時間を減らして格差縮小」
アメリカは1ファクターモデルと2ファクターモデルが混ざった状態にある。1ファクターモデルの内陸部と、2ファクターモデルの海岸沿いで生産性格差が拡大している。このため、1ファクターモデルの内陸部については労働時間を減らして1600時間の壁を超えることで、格差と分断を防ぐことができる。アメリカの労働時間は1700時間程度なので1600時間の壁を超えるのは遠くない。移民の流入が活発なことから、海外からの短時間労働者を内陸部に対して積極的に受け入れることで全体的な格差を縮小することができる。一方で西海岸は2ファクターモデルで国際資本交流が非常に活発で生産性が高いので、生産性的な問題はない。それ以外の問題に意識を向けやすい。

中国・インド「労働時間が長いので先進国の罠は回避できない。2ファクターモデルの香港・マカオなどの特区を拡大することが望ましい」

中国・インドは労働時間が長すぎる(2000時間以上)なので、労働時間を短くする方向で成長する場合、日本以上に長い間経済成長が停滞してしまう。両国とも人口が多いので労働時間を1600時間以下にできた場合、世界覇権を確実に取れるが、労働時間が長すぎるのでこれの達成にはあまりに長い時間が掛かる。それまでに国際競争力を保つ場合は、2ファクターモデルである経済特区の力が必要になる。しかし、労働時間を減らさなければ格差はさらに拡大してしまう。いずれ労働時間を1560時間以下に下回ることを目標に経済成長政策を立てていくとよい。

日本「1600時間の壁は目前。働き方改革、労働時間の上限規制をさらに厳しくすることで労働時間を減らし、まずは失われた30年から脱却する。出生率も労働時間が減れば上昇するので、これを最優先。少子化問題などを以降は中心的に見ていく」

日本の労働時間は最新のもので1600時間程度とみられる。1600時間の壁の基準となる労働時間は1560時間。この計算でいけば、あと2.5%労働時間を減らせば、日本の生産性は急上昇する。2024年に建設業の労働時間規制も入るので、毎年1%程度労働時間が減っていることを加味すればあと数年で失われた○○年という状態からは抜ける。

岸田政権はそれが分かっているのか、所得倍増計画を打ち出しているが、1600時間の壁を超えると、時間当たり生産性は1.5倍くらいにはなるようだ。しかし、それは知の探索が進んだからであり、政策による影響はメインではない。それを適切に理解することが今後の日本に必要になる。ただ、労働時間が減っている以上いずれ生産性が上がるので悲観する必要はない、というのはありがたいメッセージだ。

オーストラリアは2021年→2022年の一年で時間あたり生産性が10%上がっており、今でも存在していることは確かなようだ。

ドイツ「1600時間の壁をすでに超えているので、労働時間が短くなるほどむしろ一人当たり生産性は下がってしまう。短時間労働者の労働時間を伸ばして格差縮小を図る必要がある」

労働時間が短すぎると、逆に知の深化ができないので一人当たり生産性は下がってしまう。企業から見ればその分従業員を増やせばいいだけなので利益を減らすことはない(企業の競争力は時間当たり生産性で決まる)が、賃金の低下を招いてしまうので、ドイツは労働時間が1600時間の壁を越えているのに減り続けている以上いずれストライキなどで社会問題が起こると見られる。これに対応して、短時間労働者の労働時間を伸ばせるかがドイツ経済の鍵となる。

イギリス「1600時間の壁を登っている最中。労働時間を減らして生産性を上げることで、政局を安定させる」

イギリスは日本よりわずかに労働時間が短い。1600時間の壁を登る状況なのに目下の経済状況は良くない。このため、生産性を高めて増税などの政策が通しやすい環境を作る。壁を越えた国では増税などをしても生産性は収束しているため影響を受けにくくなっている。その分インフレを抑えるための通常の金融引き締めや、増税がしやすくなっている。

フランス「1600時間の壁を越えていて、格差も小さいため、生産性以外の問題を中心に取り組める」
フランスは正規雇用労働者の労働時間が短いため、短時間労働者との労働時間格差が発生しておらず、格差は先進国の中でも特に小さい。1ファクターモデル的にはかなり理想的な状態にある。このため治安改善など別の社会問題に対応することができる。

イタリア「1600時間の壁を登っていないが生産性が上振れていた国のため停滞してしまった。日本と同様、1600時間の壁を登ることが課題」

イタリアは日本よりも生産性の成長率は低下していた。イタリアは1ファクターモデルのかなり被害者的な国ではある。日本は元々時間当たり生産性はOECD20位代であり、今スロベニアなどに生産性が抜かれているのも1600時間の壁の影響である。同様にイタリアは労働時間を減らすことができなかったので、1600時間を越えた国に次々と抜かれてしまった。今後追いつくには1600時間の壁を登る必要がある。状況は日本に近い。

カナダ「かつては2ファクターモデルだったが、1ファクターモデルになった国。しかし、もとの労働時間が短かったのでアルゼンチンのように先進国でなくなるほどではなかった。1600時間の壁の途中にある国なので、方針はイギリスに近い」
カナダはかつてアメリカの影響から2ファクターモデルであり、非常に高い生産性を誇っていた。しかし、2ファクターモデルから外れつつあり、生産性の成長は停滞してしまった。しかし、元々の労働時間が短かったので日本のような大きな問題になるほどの停滞はせず、逆にそれがゆえに労働時間の削減は見逃されてきた。1600時間の壁を越えたオーストラリアに状況が近いので、生産性はかなり上げやすい国である。

韓国「2ファクターモデル化に大成功。しかし、2ファクターモデルの崩壊に備えて労働時間を減らす必要がある。労働時間も急激に減っているので、生産性的な方針は合っている」

韓国は世界的に見ても大企業が経済に占める影響が大きく、サムスン、SK、LGなどはアメリカ企業などの海外が持つ資本比率が非常に高い。サムスン電子の主要株主はCapital Research &Manegment co.が3.95%、ヴァンガードグループが1.67%を持っているなど、それが見て伺える。さらにLINE、ロッテなど半分、日本企業である会社の影響も大きく、スタートアップエコノミーも海外ベンチャーに依存。実質的に外資企業が国を支える状態にあるので、2ファクターモデルとなった。これにより、生産性では大成功し、日本の生産性を越えて、高い成長率を誇っている。しかし、人口がアイルランドなど他の2ファクターの国と比べて多いので今後も2ファクターで安定するかは疑問。というわけで、労働時間を減らして保険を掛ける必要がある。韓国、台湾、中国経済特区、シンガポールが経済成長できた理由も2ファクターモデルにある。しかし、これはアルゼンチンの例が示すように盤石ではない。

1ファクターモデル経済学は新時代の経済理論だ。「経済・経営学界のインテグラル理論」として今後使うことができる。

このようにあらゆる国家について、経済状況を説明できるだけでなく、その国が次にどうすればいいのかさえも明らかにしてくれる。国が急成長を遂げるには2ファクターモデル化が望ましい。これができる可能性があるのは、ポルトガル、オランダ、ベルギー、スイス、デンマーク、エストニア、ラトビア、リトアニアなどが候補になる。日本は2ファクター化はできないので、労働時間を減らすしかない。

これが示すのは経営学界で常識になった知の探索・知の深化理論が、マクロ経済学にも応用できるということ。それだけだなく、労働時間がこれを決めているという部分。あらゆる生産活動のどのレベルにおいても、この理論が活用できると言う示唆はあまりに大きいと思う。個人レベルなら、長時間労働するなら知の探索を労働時間に組み込め、という自己啓発的な話になるし、経営者レベルならば「労働時間を減らして知の探索を進めることでイノベーションを起こし、ESを高めて利益を追求する」という話になり、国家レベルのマクロ経済学ならば「多くの国にとって働き方改革こそが真の成長戦略である」というメッセージを出すことができる。さらに、労働時間を生産性決定における最重要な要素として計量経済学に導入することで、あらゆる経済活動の計算などがしやすくなる。

そして、個人レベル~マクロ経済学レベルまでデータが揃っているのが何より強い。個人レベルは慶応大学の研究結果があり、業界レベルと、国家レベルの相関関係はネットで得られる。全ての道は「労働時間→知の探索→イノベーション→技術→生産性」の一本道に通ずるのだ。

1ファクターモデルが明らかにする経済・経営の全貌とはこの一連の流れのことなのである。




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