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1906「うたの日」選評

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2019年6月1日〜7日に実施した「うたの日」の選評企画です。
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記事一覧

6/7「うたの日」選評

題『鹿』
あまくものスクランブルを見下ろせば往き交う傘の鹿の子文様
/芦刈由一

雨のスクランブル交差点を見下ろして、人々のさす傘を鹿の子文様に見立てた歌。現代的な景を和柄に喩える力加減が心地よい。「あまくもの」は「雨雲の」「天雲の」の二通りに読むことが可能で、前者は雨が降っていることを述べる。後者はもともと「たゆたふ」などにつく枕詞で、傘が往き交う様子を導くはたらきをすると同時に和柄のイメージと

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6/6「うたの日」選評

題『シーツ』
夢でさへ会へないひとだ 六月の朝のひかりにシーツを剥がす
/桔梗

情念と行為が一字空けで並べられた歌で、わかりやすい構成。決して会うことのできないひとのことを「夢でさへ会へない」とするのも、斬新さには欠けるが手堅い表現。いいと思ったのは、最後「シーツを剥がす」で締めることで、「六月の朝のひかり」に出てしまいがちな押し付けがましさのようなものを消すことに成功している点。ひかりを浴びて

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6/5「うたの日」選評

題『寂』
サイリウムあるだけ折って屋上にかつて遊園地だった記憶
/はね

「寂」と書かずに「寂」を伝えることを試みている点がまず好印象。その上で、「屋上に」の「に」がいいと思う。「は」や「で」ではなく「に」としていることで、「屋上」を対象として尊重するような思いが感じられる。屋上の昔の賑わいを偲ぶ行為として「サイリウム」を折る。生活の記憶の中の「屋上」はきっと作中主体よりも大きくて、しかし今の「屋

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6/1「うたの日」選評

題『結婚』
舟だっておもう、からこそ、こわれたらきみは直ちに逃げてください
/山口綴り

今の時代にあった倫理の歌だと感じた。(「結婚」という題を含めて読むことになるが、)「結婚」を「舟」に喩えている。この喩自体さほどの強さを持っているわけではないが、「からこそ、」と続けるところにぐっと惹きつけられる。倫理が更新されていくのが目に見える形で理解でき、未来の自分がどうなってしまうかわからない時代にお

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6/2「うたの日」選評

題『植物』
大勢が行方不明になった家でせっせと桜の木を植えるひと
/かんぬきたくみ

面白い。家に住んでいた人が大勢行方不明になったのか、訪れる人が大勢行方不明になったのか。桜の木って何本もぽんぽん植えられるようなものじゃないし、この「せっせと」は(複数本植えるのだとしても)一本に対する働きぶりなのだろう。この桜の木が、次の行方不明者を生んでしまうんではないか、そういうことをこの「ひと」は考えてい

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6/3「うたの日」選評

題『両』
両断のグレープフルーツ香り立つ あなたはもっと怒るべきです
/森下裕隆

「両断」は真っ二つにすること。真っ二つにされたグレープフルーツから、「あなた」の態度へと話をつなげる。「あなた」は怒ってしかるべき状態にあるにもかかわらず、作中主体からは煮えきらないように映る。きっと「怒る」というのは「両断」することなのだろう。それは、怒る対象を、であると同時に、自分の態度を、ということでもある。

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6/4「うたの日」選評

題『哲学』
お別れの桜さらさら目を覚まし蛍となりぬ哲学の道
/袴田朱夏

初句二句の「お別れの桜さらさら」がいいと思う。続く「覚まし」とともに「さ」の音で心地よいリズムをつくっている。また、ア段の音を中心に進行しており、冒頭の「お別れ」に悲しい印象を残さないはたらきをしていていい。時間の経過/季節の移り変わりを風物の変化で表現することはよくあると思うが、桜が目を覚まして蛍になるというのは少し面白い

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