記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

読書感想文「ガラスの海を渡る舟」【#読書の秋2021】

読書感想文。それは、わたしが小学生の時から避けてきた課題の一つだった。
どうも、勉強が苦手なわたしは、自由課題に手を伸ばさないタイプの子どもだった。


今思うと、言葉を扱う仕事をしているのになぜ?と疑問に思う方もいるだろう。
何を隠そう、わたしは「感想文」というのが苦手なのだ。


圧倒的語彙力のなさ。「すごい」ものを「すごい」としか表現できないわたしは、音楽の鑑賞の授業でも、美術の鑑賞の授業でも、教科担当の先生の首をひねらせた。


しかし、いつまでも苦手意識を持っていても仕方がない。これはnoteからの宿題だ。自分で自分のケツを叩き、課題図書を探すことにした。


引用元:note公式(https://note.com/info/n/nfa4d582e6903

じ…っと目を凝らしながら、課題図書をどれにしようか探す。どうせなら、読んだことのない本が良い。

目を皿のようにして一つ一つ確認する中で、一際わたしの目を引く作品があった。


「ガラスの海を渡る舟」

表紙が、とにかくキレイだと感じた。
本能が、惹かれていくのを感じる。

これだ。この本にしよう。


そうと決まれば行動は早かった。
今週の休日はゆっくりしよう、というはずだった予定をひっくり返し、そんなわたしに振り回されてもみくちゃの彼と本屋に行き、その本を買った。

しかし、購入したのもつかの間、忙しさにかまかけて本にはうっすらホコリが積もりかけていたが、ようやく読むことができたので、ここに感想文を書く。


久々に、じっくり時間を書けて本を読んでいった。



※ここから下は、本の内容のネタバレを含む可能性があります。







【あらすじ】
脆くて、同じものは一つもない。人生はまるで、ガラスみたいだーーーー。
みんなと同じ行動がとれず、他人から疎まれてしまいがちな兄の道(みち)。
落ちこぼれでも優等生でもなく、なんでも平均的にこなせるけれど、「特別ななにか」が見つからない妹の羽衣子(ういこ)。
祖父の遺言をきっかけに、ともにガラス工房を引き継ぐことになった。
相容れない二人の絆の行方とはーーー。
大阪・空掘商店街にあるガラス工房で兄妹が過ごした、愛おしい10年間を描く感動の物語。

ガラスの海を渡る舟-付属帯のあらすじより


序章から、もう既に引き込まれていた。
主人公は、いわゆる「天才」ではない側の人間として描かれていた。

数ページしかない序章で、主人公の立場や内情がありありとわかる。


この主人公は、わたしに似ている。
周りの多才な人間に囲まれ、劣等感を抱えながら生きてきた。
きっとそうだ、わたしと同じ匂いがすると感じた。

第一章で描かれる、主人公の幼少期。
母親に見てもらえない、という辛さや葛藤、そして祖父母の優しさに自分の涙腺もつい緩んでしまった。


そんななかでも。

「なんにでもなれる。どんなふうにもなれる。」

祖父の言葉が、わたしの鼓動と共鳴する。


親族間の会話も、妙に既視感のある描写だった。
主人公の母が理解のある方でよかった。

兄は、恐らく発達障害だろう。
他の人よりも、繊細で敏感な様子が描かれている。
そして、ふつうではないことでの生きづらさも。


ふつうではないとされる兄。
"しるし"がついた兄に嫉妬する主人公。

でも、ふつうってなんだろう。


そんな、ふつうではない兄の視点でも、物語は進んでいく。

兄妹が工房を継ぐことになったのは、この四十九日の後の一連の騒動からだった。
後を追うように、息を引き取る祖父。
工房を守り抜くのは、いつもガラス職人である祖父の1番近くにいた兄妹にしかできないことだった。


工房のリニューアルオープン時に、主人公の彼氏から花が届く。

『ピンクのガーベラ』

その文言に、胸がどきりとする。
この物語には、わたしとの共通項が多すぎる。

どんどん、このお話に引き込まれていくのを感じた。


主人公は、特筆した何がないと自覚している。
でも、才能を手に入れたい。母や祖父のように、才能で自分の世界を切り開いていきたい。
必ず見つける、という主人公のひたむきな思いに、ハッとさせられた。

特別な人間になりたい。
わたしもずっと、そう思っている。


天才的な兄を見て、主人公は自分に足りない部分を補うために、何かに取り憑かれたかのように修行を始める。
何に焦っているのか、と尋ねる師匠に、主人公はただこう返した。

『焦ってません』

嘘だ、絶対に焦っている。
焦っている人ほど、闇雲に熱中してしまうのだ。
紛れもなく、悪い方向に。

それはまるで、今の自分を見ているかのようだった。

『他人の良いところを認めるより、批判したり揚げ足とったりするほうが、ずっと簡単やな。優位に立ったような気分になれるけど、実際はその場にとどまったまんまや。でも、羽衣ちゃんは道を認めた。それができるやつは先に進める」

ガラスの海を渡る舟-第一章 骨

そうなのかな。うん、きっとそうだよね。
誰かを認められる強さは、自分も強くしてくれる。


と、思ったのも束の間、暗雲は立ち込めた。
冒頭から怪しいと思っていたが、やはり予想していた展開だった。

主人公の彼氏の言葉が、グサグサとわたしの心に突き刺さる。

『特別な人間に憧れた凡人』

きっと、わたしもそう見えているのかもしれない。
必死に、ものかきのフリをしているだけなのかもしれない。

周りからみたら、ただのものかきごっこをしている、ごく普通の一般人なのかもしれない。

泣き出しそうなわたしに、主人公の兄が立ちはだかる。
まるで、自分を守ってくれてるような言葉に、心が熱くなっていくのを感じた。

「(中略)けどぼくにとってはひとりひとりが違う状態が『ふつう』なんや。羽衣子はこの世のひとりしかおらんのやから、どこにでもおるわけがない」

ガラスの海を渡る舟-第一章 骨


一難去ってまた一難。
主人公たちが暮らす元祖母の家を、未だに狙っている叔父が現れる。
そこで、キーとなっていた骨壷が、壊れてしまった。

『大切なものが壊れてしまった』と涙を流す主人公。兄はここで"共感"の意味を知った。


ここから、ようやく2人の舟が進み出したのだ。


その先は、ぜひご自身で読み進めていただきたい。
世の中の動向も絡めた、素晴らしい作品だった。

きっと、無くしたものを見つけたり、迷っていたひとは道を見つけたりできる物語だ。


創作をしている人だけでなく、「なにものかになりたい人」なら絶対にぶち当たる壁を、すんなりと通過させてくれるような、そんなヒントが隠されている。

もちろん、「他人とは違う」という意識にさいなまれていた人にとっても、考え方の角度を変えてくれるような物語なのではないだろうか。


表紙に惹かれて買ったが、この本にわたしは選ばれたのかもしれない。
そう思うと、有意義な本に出会えてよかったと感じた。


みなさんも、年末年始のお家時間に向けて、一冊いかがだろうか。


参加させていただいた企画↓


※余談だが、新エディタがいよいよ導入され、より執筆しやすくなった。ウキウキで筆が進むこと進むこと。note公式さん、ありがとうございます。

いいなと思ったら応援しよう!