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読書感想文「ガラスの海を渡る舟」【#読書の秋2021】
読書感想文。それは、わたしが小学生の時から避けてきた課題の一つだった。
どうも、勉強が苦手なわたしは、自由課題に手を伸ばさないタイプの子どもだった。
今思うと、言葉を扱う仕事をしているのになぜ?と疑問に思う方もいるだろう。
何を隠そう、わたしは「感想文」というのが苦手なのだ。
圧倒的語彙力のなさ。「すごい」ものを「すごい」としか表現できないわたしは、音楽の鑑賞の授業でも、美術の鑑賞の授業でも、教科担当の先生の首をひねらせた。
しかし、いつまでも苦手意識を持っていても仕方がない。これはnoteからの宿題だ。自分で自分のケツを叩き、課題図書を探すことにした。
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じ…っと目を凝らしながら、課題図書をどれにしようか探す。どうせなら、読んだことのない本が良い。
目を皿のようにして一つ一つ確認する中で、一際わたしの目を引く作品があった。
「ガラスの海を渡る舟」
表紙が、とにかくキレイだと感じた。
本能が、惹かれていくのを感じる。
これだ。この本にしよう。
そうと決まれば行動は早かった。
今週の休日はゆっくりしよう、というはずだった予定をひっくり返し、そんなわたしに振り回されてもみくちゃの彼と本屋に行き、その本を買った。
しかし、購入したのもつかの間、忙しさにかまかけて本にはうっすらホコリが積もりかけていたが、ようやく読むことができたので、ここに感想文を書く。
久々に、じっくり時間を書けて本を読んでいった。
※ここから下は、本の内容のネタバレを含む可能性があります。
【あらすじ】
脆くて、同じものは一つもない。人生はまるで、ガラスみたいだーーーー。
みんなと同じ行動がとれず、他人から疎まれてしまいがちな兄の道(みち)。
落ちこぼれでも優等生でもなく、なんでも平均的にこなせるけれど、「特別ななにか」が見つからない妹の羽衣子(ういこ)。
祖父の遺言をきっかけに、ともにガラス工房を引き継ぐことになった。
相容れない二人の絆の行方とはーーー。
大阪・空掘商店街にあるガラス工房で兄妹が過ごした、愛おしい10年間を描く感動の物語。
序章から、もう既に引き込まれていた。
主人公は、いわゆる「天才」ではない側の人間として描かれていた。
数ページしかない序章で、主人公の立場や内情がありありとわかる。
この主人公は、わたしに似ている。
周りの多才な人間に囲まれ、劣等感を抱えながら生きてきた。
きっとそうだ、わたしと同じ匂いがすると感じた。
第一章で描かれる、主人公の幼少期。
母親に見てもらえない、という辛さや葛藤、そして祖父母の優しさに自分の涙腺もつい緩んでしまった。
そんななかでも。
「なんにでもなれる。どんなふうにもなれる。」
祖父の言葉が、わたしの鼓動と共鳴する。
親族間の会話も、妙に既視感のある描写だった。
主人公の母が理解のある方でよかった。
兄は、恐らく発達障害だろう。
他の人よりも、繊細で敏感な様子が描かれている。
そして、ふつうではないことでの生きづらさも。
ふつうではないとされる兄。
"しるし"がついた兄に嫉妬する主人公。
でも、ふつうってなんだろう。
そんな、ふつうではない兄の視点でも、物語は進んでいく。
兄妹が工房を継ぐことになったのは、この四十九日の後の一連の騒動からだった。
後を追うように、息を引き取る祖父。
工房を守り抜くのは、いつもガラス職人である祖父の1番近くにいた兄妹にしかできないことだった。
工房のリニューアルオープン時に、主人公の彼氏から花が届く。
『ピンクのガーベラ』
その文言に、胸がどきりとする。
この物語には、わたしとの共通項が多すぎる。
どんどん、このお話に引き込まれていくのを感じた。
主人公は、特筆した何がないと自覚している。
でも、才能を手に入れたい。母や祖父のように、才能で自分の世界を切り開いていきたい。
必ず見つける、という主人公のひたむきな思いに、ハッとさせられた。
特別な人間になりたい。
わたしもずっと、そう思っている。
天才的な兄を見て、主人公は自分に足りない部分を補うために、何かに取り憑かれたかのように修行を始める。
何に焦っているのか、と尋ねる師匠に、主人公はただこう返した。
『焦ってません』
嘘だ、絶対に焦っている。
焦っている人ほど、闇雲に熱中してしまうのだ。
紛れもなく、悪い方向に。
それはまるで、今の自分を見ているかのようだった。
『他人の良いところを認めるより、批判したり揚げ足とったりするほうが、ずっと簡単やな。優位に立ったような気分になれるけど、実際はその場にとどまったまんまや。でも、羽衣ちゃんは道を認めた。それができるやつは先に進める」
そうなのかな。うん、きっとそうだよね。
誰かを認められる強さは、自分も強くしてくれる。
と、思ったのも束の間、暗雲は立ち込めた。
冒頭から怪しいと思っていたが、やはり予想していた展開だった。
主人公の彼氏の言葉が、グサグサとわたしの心に突き刺さる。
『特別な人間に憧れた凡人』
きっと、わたしもそう見えているのかもしれない。
必死に、ものかきのフリをしているだけなのかもしれない。
周りからみたら、ただのものかきごっこをしている、ごく普通の一般人なのかもしれない。
泣き出しそうなわたしに、主人公の兄が立ちはだかる。
まるで、自分を守ってくれてるような言葉に、心が熱くなっていくのを感じた。
「(中略)けどぼくにとってはひとりひとりが違う状態が『ふつう』なんや。羽衣子はこの世のひとりしかおらんのやから、どこにでもおるわけがない」
一難去ってまた一難。
主人公たちが暮らす元祖母の家を、未だに狙っている叔父が現れる。
そこで、キーとなっていた骨壷が、壊れてしまった。
『大切なものが壊れてしまった』と涙を流す主人公。兄はここで"共感"の意味を知った。
ここから、ようやく2人の舟が進み出したのだ。
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その先は、ぜひご自身で読み進めていただきたい。
世の中の動向も絡めた、素晴らしい作品だった。
きっと、無くしたものを見つけたり、迷っていたひとは道を見つけたりできる物語だ。
創作をしている人だけでなく、「なにものかになりたい人」なら絶対にぶち当たる壁を、すんなりと通過させてくれるような、そんなヒントが隠されている。
もちろん、「他人とは違う」という意識にさいなまれていた人にとっても、考え方の角度を変えてくれるような物語なのではないだろうか。
表紙に惹かれて買ったが、この本にわたしは選ばれたのかもしれない。
そう思うと、有意義な本に出会えてよかったと感じた。
みなさんも、年末年始のお家時間に向けて、一冊いかがだろうか。
参加させていただいた企画↓
※余談だが、新エディタがいよいよ導入され、より執筆しやすくなった。ウキウキで筆が進むこと進むこと。note公式さん、ありがとうございます。