人間に生まれてよかったな。
死ぬのが怖い、と思うときがある。
怖くて、胸が苦しくなって、ドキドキして、息がしづらくなる。
彼のサラサラとした髪をなでながら、眠れなくなってしまったわたしは、こっそりアロマディフューザーのタイマーを延長する。
薄明かりのなか、しずかに寝息をたてる彼の横顔を見て、再び考える。
人間に生まれてよかったな。
高度な技術が使えるのは人間だけだ。
文明も、こんなに進化した。
わたしたちが不自由なく暮らせているのは、賢い人間という生物が生まれたおかげだろう。
医療が発達し、移動も簡単にできるようになり、情報ツールや、もっと簡単で身近なところでいうと、ゲームだってそうだ。
0から1を生み出す能力に長けている、人間ってすごい。
そして、人間には感性がある。
美しいものを見たら、全身に鳥肌が立ち、感動することができる。
悲しいと思ったら、胸がキュッと痛くなって、涙が溢れてくる。
愛おしいと思ったら、心がじんわり暖かくなって、胸がドキドキする。
死んだら苦しいのかな。
死んだ後、どうなるのかな。
この幸せを、手放したくないな。
そんな途方もないことを、延々と考える。
輪廻転生、という概念を持つのも、人間だけだ。
きっと、わたしたちがこれほどまでに心地よく、一緒に暮らせているのは、前世では知り合い、または家族だったのかな。
それとも、タマシイが分裂した?
それはどうかわからないし、スピリチュアル的なものにも詳しくないけれど。
きっと、来世でも会えるよね?
頬に伝う涙が乾く頃、わたしはようやく眠りについた。
彼の体温が、わたしを守るようにじんわりと背中を包んでいた。