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2024年1月読書記録 クンデラ、太宰、紫式部
1月の読了本は6冊。川端康成の『山の音』については別途感想を書く予定です。
廣野由美子『批評理論入門「フランケンシュタイン」解剖講義』・『小説読解入門「ミドルマーチ」教養講義』(中公新書)
十九世紀の英国女性作家二人の小説『フランケンシュタイン』と『ミドルマーチ』を題材にして、小説をどう読めばいいか解説する新書です。
noteで書いている読書感想文の参考にしたいと考えて読んでみました。自分でも実践している読み方もありましたが、より深くより幅広い読み方を教えてもらえました。読書の幅を広げたい方だけでなく、自分で小説を書いている方にもおすすめの作品です(小説とはどういうものか? という問いかけがなされているので)。
題材になった作品『フランケンシュタイン』はホラー小説の草わけですが、初期の作品だけに今読むと物足りない部分が多いなと思っていたんですね。書き足りない箇所や、練れていない箇所など。でも、足りない部分がある故に、自分に引き付けて多様な読み方ができる作品になっているのがわかりました(今話題の映画『哀れなるものたち』に『フランケンシュタイン』の影響があるように)。
『ミドルマーチ』の方は、当時の作家としては珍しいほどの教養人だったジョージ・エリオットが満を持して書いた大作です。作者の教養や知識、知見が惜しみなく投入された深い作品なのに、前に読んだ時には表面をなぞることしかできなかった気がします(ストーリー自体が面白いので、深読みすることなく、筋を追ってしまいがち)。廣野先生の新書を参考にして、再読したいです。
ミラン・クンデラ『冗談』(西永良成訳・岩波文庫)
クンデラは映画化もされた『存在の耐えられない軽さ』で有名なチェコの作家です。『冗談』は初期の作品ということもあるのか、最初のうちは内容がイマイチ把握できなかったのですが、過去の回想が始まると急に面白くなります。政治化した学生たちの内ゲバ(仲間内での争い)。主人公は殺されはしないのですが、代わりに徴兵されて炭鉱に送られる。チェコスロヴァキアでも、そんなことがあったんですね(中国を舞台にした、似たシチュエーションの小説を読んだことがあります。仲間内で吊し上げたりしているのは、大江健三郎さんの小説で書かれる日本の学生運動に通じるところもあります)。といって、政治的なことを書いた政治小説というわけではなく、人と人のわかり合えなさや何をもっても埋められない孤独など、普遍的なテーマが描かれます。
主人公以外の登場人物はやや類型的でしたが、プロットの構築が巧みで、映画との親和性も高そうな作家だと思いました。
青空文庫では、太宰治『ダス・ゲマイネ』を読みました。
私にとって太宰は「特に好きなわけではなく、違和感もあるのだが、なぜか読みたくなる作家」でした。夏目漱石と同じポジションだと思います。読みたくなるのに好きとは言えないのは、自己憐憫や陶酔癖などを「男はいいよね〜」と醒めて見ていたせいです。今思えば、「男」ではなく「太宰」だから許されることなのかもしれませんが。
ただ、青空文庫を読み進み、自然主義の作家や奇蹟派の作家による私小説≒「情けない自分をさらけ出す物語」を知った今では、作家としての太宰のうまさを実感しています。自分のダメな部分を惜しみなくさらけ出しているのに、嫌悪感ではなく、共感や同情を与えることができるのですから。感覚と美意識を研ぎ澄ました結果なのでしょうね。
今回読んだ『ダス・ゲマイネ』は、初期に書かれた小説です。後の小説のように作者の感情が昇華されてはおらず、剥き出しのまま文字になっている気がしました。憤怒や絶望、希死念慮など、作者が抱える澱みや暗さが四人の主要登場人物にそれぞれ注ぎ込まれているようでした。
私たちが思い浮かべる「太宰治」になる前の太宰を感じる作品でした。
『紫式部日記』(山本淳子編・角川ソフィア文庫)
去年の古典熱が高まった時期に購入した本ですが、大河ドラマの影響で紫式部や源氏に関心が集まっているこの時期に読むことになりました。自分では、大河を観ていないのですが…。『源氏物語』が好きで色んな現代語訳を読みあさっている割に、作者の紫式部の人となりについては何も知りませんでした。天才少女だったとか、中宮彰子に仕えたという程度。日記を読むと、時代を超えた人だったという気がします。感覚が現代なのです。
幕末の志士たちなんて、たかだか二百年前なのに死生観や価値観が私たちとは全く違います。戦国武将の言動にも、理解不能なものがかなりありますし。
でも、古代ローマのカエサルやマルクス・アウレリウスが書いた本を読むと、二千年前の人なのに通じ合える部分が多い。
それと同じで、日記から浮かび上がる紫式部の姿が現代の女性ーー華やかな仕事をしながらも、寂しさや孤独を抱える女性の姿と重なりました。
その反面、藤原道長の娘の出産なのに、僧を集めて祈祷するしか手立てがないという…当時の女性が出産時によく亡くなっていたのは知っていますが、日記を読むと、こんな不潔でいい加減な環境でも、お産を乗り越えた女性がいることが奇蹟に思えます。
宮中の女房たちの日常は、私が知っている美容部員さんの日常に似ているなあ。華やかだけど、大変な世界ですよね。
↓一部省略あり
それから、読了ではありませんが、潤一郎訳の『源氏物語』がPrime Readingに入っていたので、ダウンロードしました。月会費のあるKindle Unlimitedとは違い、プライム会員だと無料で読めるものです。
この訳は高校時代の愛読書だったのですが、今読むと、原文通りに主語がない長々とした文章なので、けっこう大変です。高校時代は古文の知識量がマックスだった時期なので、平気で読めたんでしょうね。今も、一昨年与謝野晶子訳を読んだ記憶があるので何とか読めていますが、源氏をよく知らない方だと、話がつかめないかもしれません。
Xでは角田光代さんの訳を推す方が多いので、初心者の方にはそちらをおすすめします。もっと手軽に読みたい方は、田辺聖子さんの翻案を。
谷崎訳は本当に美しい文章ですし、和歌等の解説もわかりやすい。それに谷崎の秘書だった方の話だと、源氏の訳に時間がかかったせいで、書く予定だった小説を書かずに亡くなってしまったのだとか。それを思うと、谷崎訳をおすすめしたい気持ちも強いのですが。
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