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夢百日(ゆめひゃくじつ)

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鬼が来る

鬼が来る

 三谷とは小学校の時によく遊んでいたけれど、中学に入ってから何となく疎遠になった。別段けんかをしたというのではなく、クラスが別れて交友グループが違ってしまったのである。そうして自分は三谷が懇意にし始めた城戸があんまり好きではなかったから、三谷にも余分に距離を置くようになった。
 高校に入るとまた、学校帰りに三谷の家へ遊びに行ったりするようになった。三谷と自分は違う学校に入ったから、どういう弾みでそ

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巨人山車

巨人山車

 仕事でP市へ行った。
 用件を片付けたら直帰することにしていたから、駅前の飯屋で食事をした。ついでにビールも飲んで、店を出るともう日が暮れていた。
 駅前の通りを法被姿の人たちが歩いている。どこからか太鼓の音が聴こえてくる。今日はこれから祭があるらしい。そう思って見ると、飯屋の入口にも祭のポスターが貼ってあった。山車も出て、随分大掛かりな祭をやるらしい。

 少し散歩をして帰ることにして、古い町

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修羅珈琲

修羅珈琲

 所用でQ市に行ったら、突然町内放送が流れた。
「緊急連絡です。ご通行中のみなさんは至急近くの建物へお入りください。ご自身の家でなくても構いません。至急、近くの建物の中へお入りください」
 放送は何だか間延びした調子だけれど、一緒にサイレンも鳴り始めた。どうも尋常ではないらしい。道の両脇に五メートル間隔で並んだ回転灯が全部ピカピカ光っている。この回転灯は何なのか前々から気になっていたけれど、こうい

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魚

 出張先で宿を取ろうとしたら、いつものビジネスホテルが満室で取れなかった。よそもみんな満室のようだ。どうも何かのイベントがあるらしい。普段であれば事前に予約しておくのを、今回はうっかり忘れていたのである。
 スマホからあちこち探して、五駅先にようやく空室を見つけたので、急いで予約を入れた。
 ホテルの名前に何だか覚えがあるようだと思ったら、十年前に本を借りた所だとわかった。その当時、自分の母校の図

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老人と川

老人と川

 結婚して間もない頃、住み始めた街を一人で散歩した。
 妻には地元でも自分には知らない街である。思い付くまま適当に歩いていたら、長い登り坂に出た。登った先にはショッピングセンターがあるらしい。
 坂の右側は住宅街で、左は崖になっている。崖の下は大きめの川が流れている。
 坂を少し登ったところへ十人ばかりの人集りができていた。見ると、その中に義父もいる。義父はアディダスの黒いキャップをかぶって、サン

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犬と戯れる

犬と戯れる

 どうかしたはずみに、人から仔犬を預かることになった。先方ではくれるというのを、飼えるかどうか暫く試しに預かってみることにしたのである。
 犬を入れる箱がないからタオルに包んでカバンに入れた。そうして電車に乗って帰ってきたけれど、自分は体調不良でそのまま寝込んでしまった。
 翌日、熱が高いようだから、行きつけの医院で検査をしてもらった。以前コロナにかかった時もそうだったけれど、別室で随分待たされる

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蛙おばさん

蛙おばさん

 家の周りに田圃が多いから、近頃は夜寝ようとすると、外から蛙の声が随分聞こえる。
 蛙という生き物は気持ち悪くて好きじゃないが、夏の夜に蛙の合唱を聞くのは好きだ。郷里の家も寝る時には賑やかに聞こえていたから、何だか幼い頃に戻ったような不思議な心持ちになる。そうして人生の最後についてぼんやりと思いを巡らせる。
 気付いたら子供に戻っていて、日が暮れるまで外で長田や飯田やヨシコさんと遊び、晩ごはんの後

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卒塔婆ランド

卒塔婆ランド

 商談前に地下街のカレー屋に入った。新しくできた店らしい。カウンターとテーブル席が三、四席ある。少し遅めのランチだったせいか、お客はまばらである。よくわからないまま『レッドインディアンカレー』を頼んだら、帰りに店のおばさんがクーポンをくれた。
「これどうぞ。レッド頼む人、好きだから」
 見ると無料クーポンである。先刻出て行ったお客には渡していなかったから、レッドインディアンカレーを頼んだ者だけの特

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猫の正体

猫の正体


その一 子供の頃、近くの公園で遊んでいたら猫が寄ってきた。茶色のトラ猫だった。
 随分人に馴れた様子で、にゃぁにゃぁ云って甘えてくる。頭を撫でてやると喜んで、ますます甘える。そうして撫でているうちに、どうかした弾みで顔が外れた。猫はお面を着けていたのである。
 お面の下から、知らないおじさんの顔が何も云わずにこちらを見ていた。
 自分は走って家へ帰った。

その二 大学時代に一度、ダニエルと一緒

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家路

家路

 祭りの会場へ行ったら、まだ準備の途中だった。早すぎたらしい。
 会場は、第二避難所と呼ばれる空地である。何かあった時は校庭へ避難する、そこも危険な場合はこの空き地へ行く、と小学校で教わった。その名残で、大人になってもそう呼んでいる。
 会場の傍に火事で焼けた家があった。焼けた家のそばで祭りをやるのは何だか変な気もするが、持ち主の都合もあってそのままになっているのだろう。こればかりは仕方がない。

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屋上、春夏秋冬

屋上、春夏秋冬

 新井の見舞いで、呉市の総合病院へ行った。彼には高校時代に随分世話になった。まさかこの年で病を得るとは思いもしなかったから、土居から聞いた時には驚いた。
 驚いたと云えば、高校時代の新井は見るからに悪そうな面構えだったのに、土居から見せられた写真は何だか真っ当な男前になっていた。新井だと云われたからそんなふうに見えたので、黙って見せられたら知らない人だと思ったろう。事によると土居のやつが別人の写真

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フライングヒューマノイド

フライングヒューマノイド

 スカイダイビングをすることになった。飛行機に乗って空高く上がり、パラシュートを背負って飛び降りる遊びである。人は高い所から飛び降りたら死ぬものなのに、わざわざそんなことをするのは、実に正気の沙汰と思えない。それでももう空の上で、飛行機の扉は開いているのだから、飛び降りざるを得ない。

 パイロットが一人とスタッフが一人、どちらも黒人でサングラスを掛けている。スタッフの分のパラシュートはないから、

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ショッピングモール、旧友

ショッピングモール、旧友

 ショッピングモールの楽器店へ行くと、スタッフが店内の一区画で機材をセッティングしている。これからアマチュアバンドがスタジオライブを始めるらしい。
 ちょうどいいタイミングなので少し待って観てみたら、チャラい容姿の若者らが現れて、ニルヴァーナの曲を演奏しながらピョンピョン飛び跳ねだした。
 お世辞にも上手くない。聴いている方が恥ずかしくなるタイプのやつで、ずっと観続ける義理もないからじきに退出した

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駅ビル、旧友

駅ビル、旧友

 大きな駅ビルではないけれど、電車の乗り場がわからない。それで先刻からエスカレーターで上がったり下がったりしながら、ビルの中を歩き回っている。

 三階は飲食フロアらしい。だからといって改札がないとも限らない。それで端から端まで歩いてみるが、やっぱり改札は見当たらない。
 四階はフロア丸ごと一つの店になっている。炉端焼きの店らしいが、具合の悪いことにエスカレーターの真ん前が店舗入口で、さっきからエ

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