わたしたちは永遠に分かり合えない。
「もう奥さんとは冷え切っていてさ〜、結婚なんて人生の墓場だよ」
とある夜の社交場で、武勇伝を語るかのように男性が言う。
彼の心中はこうだ。あわよくば、目の前の女性の寄せて上げて2カップは盛れてる胸元を1タッチできたら。
あわよくば、一夜を共にできたら。
仮にどれだけ足繁く通っても、シャネルの何かをプレゼントしても、目の前の女性を手に入れることはできない。そんな事は分かってる。 店が閉店したら他のキャスト同士で悪口の1つや2つくらい言われることだって。
でも、その空間にいる時だけはせめて夢を見続けたい。とっておきなハプニングが起きるかもなんて、期待し続けたい。
そんな男性が家に帰ると、実は奥さんにデレデレで「会社の接待はもうこりごりだよ」なんて言いながら、ちゃっかり膝枕してもらっていたりね。
だけど、女だって他者に対しての「あわよくば」は数え切れないほどある。
あわよくば、条件のいい人と結婚できたら。
あわよくば、仕事を辞めて彼のサポートに専念できたら。
母親だって、我が子への愛情は見返りを求めず無条件で愛することは前提にあるけれど、あわよくば…くらいは許されるだろう。
あわよくば、優しい子に育って欲しい。 生活に困らない程度の職種には就いてほしい。 将来介護をしてなんて言わないし、老人ホームの費用も必死に働いて貯める。けど、老人ホームにてたまにの面会と事務手続きくらいはする良心のある子に育ってほしい。
男のあわよくばはいつだって「下心」で今しか考えていなくて、 女のあわよくばは、いつだって「堅実」で未来を考えている。
女性がしつこい位におっぱいと発言する時、それは赤子への栄養が足りているか心配で頭を抱えているのに対して、男性は性的にとらえる。
どうしてこうも男と女は平行線で交じり合わないのだろう。
きっと、これが『性差』なんだろうか。
男性が生理の問題を心の底から理解できないように、女性は男性特有の問題を理解できない。
けれども、長く時間を過ごす人とは多少なりとも互いに寄り添いたいなとは思う。
だけど、理性が働かず、道を踏み外す人には
理解しようなんて、歩み寄ろうなんて思わなくていい。お人好しにはならなくていい。
それでも、男と女は基本的には平行線だけど、交差点のように一瞬だけ互いの性差を理解して混じり合う時はあるはずだ。
マンハッタンの交差点のように、誰もがその場に立ちすくして、全くの共通点のない人間同士が互いの違いを受け入れらえた、そんな瞬間が…
◇
先日夫がノロウィルスに罹った。
原因は私が作ったブリの煮付けが生焼けだったから。(夫よ、すまん…!)
私と子はブリが苦手なので、自分が食べないからとつい調理が雑になってしまった。反省…
夫は吐き気で起き上がれない為、わたしが出勤前にドンキに駆け込んだ。
うどん、アクエリアス、ゼリー、アイスの実、フルーツ、これだけあればどれかはストラクするだろう。
特にアイスの実は、わたしも胃腸炎や悪阻の時に何度も助けられた。
わたしの手料理が原因という罪悪感もあり、できる限り看病して出勤した。
◇
「あ、食べてない」
帰宅後、冷蔵庫を見るとアクエリアス以外は全て手をつけられていなかった。
夫は吐き気で布団の中でうずくまっている。返事をする気力もなさそうだ…
「ねぇ、騙されたと思って、アイスの実を食べてみな。楽になるよ?」
わたしは冷凍庫からアイスの実ぶどう味を取り出し、1つだけ手のひらに乗せて夫に差し出した。 夫が布団から顔を出しては、アイスの実を手に取り、半信半疑のままポンと口に入れた。
「やっば、これ神だわ。あー生き返る」
そう、アイスの実は体調不良の者にとって、
魔法の実なのだ。
「そういえば、はるちゃん、妊娠中はアイスの実よく食べてたね」
「いやー、参った。吐き気があると何もできない、悪阻もこんな感じなのかな」
再び布団に潜りながら、ボソッとつぶやいた。
「確かに、悪阻はノロウィルスの吐き気に似ているかもしれない。しかも牡蠣に当たったバージョン」
「ノロウィルスは数日間の期間限定だけど、悪阻は数ヶ月、人によっては出産まで。アイスの実すら食べれなくて入院する人もいるからねぇ」とわたしは答えた。
「えっ!?これが数ヶ月、生き地獄じゃん」
「そう、地獄なの。だから妊娠中、夫に邪険に扱われたら、一生根に持つ人の気持ちも分かるでしょ?」
「うん。これは、根に持つわ」
わたしは夫とこの会話で初めて悪阻の辛さを分かってもらえたようで嬉しかった。
もちろん夫は妊娠中、彼なりに優しく接してくれた。
けど、自分は仕事でクタクタでになって帰宅すると、妻はひたすら横になっている。
時に余裕がないときは、「悪阻とはいえ、横になるだけっていいよね、俺は仕事してるのに」なんて思う日もあったと思うのだ。
というか、私が男だとそう思うだろう…。
人間って完璧じゃないから。
だからこそこの会話のやりとりは、基本的には平行線な男と女である私達が交差した瞬間でもあった。
夫が女性特有の問題を理解してくれた。これによって夫は同僚や身近な人に対しても、悪阻で辛そうな人がいれば配慮が変わったり、 電車で乗り合わせた妊婦さんにも気遣えるだろう。
だったら、私も夫に歩み寄ろうか。互いの性差に寄り添おう。
う~ん、何がいいだろう…?
あ、これはどう??ほんの少しのお礼としてね、
あなたの好きなグラビアアイドルを、
わたしも愛してあげる。
わたしは 心の中でそう呟いた。