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旅する日本語展二〇二〇

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旅する日本語展二〇二〇の投稿コンテストに応募したものと、まとめ
運営しているクリエイター

#エッセイ

「旅する日本語展二〇二〇」へ

「旅する日本語展二〇二〇」の11語を書き終わったのでまとめました。 旅に出たい気持ちがふわ…

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旅をするのは、

古い商店街を抜け、トンネルをくぐり抜ける。 途中、広島へと向かう電車が頭上を駆け、轟音が…

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温泉なんて嫌いだ、と彼は言った。

来月の三連休、温泉にでも行こうよ。 途端、彼は苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。そして絞…

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琥珀の女王

「いらっしゃい」 お好きな席へどうぞ、と促された。 テーブル席の木製椅子に座る。 カウン…

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白無垢の花嫁

わあ、と歓声が響いた。 遠く、朱塗りの廻廊に白無垢の花嫁が見える。 広島湾に浮かぶ宮島。…

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四季

春。 硝子の抜け落ちた窓枠から、対岸の桜が見える。 散らばった瓦礫の隙間から、新しい命が生…

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白髪と老松

まっすぐな砂浜に荒々しく打ち付けられるたび、波は白い泡を吐く。 海岸沿いに並ぶ松の木。 その一本に近づく。 隣には、昨年夫となった人がいる。 重なった根は、その波打つ太さで、己を地面へと縫い付けていた。 下から見上げると、枝という枝が憤怒していた。節々が上を向き、針のような刺々しい葉を天へ向けている。 荒ぶった毛筆で線を引いたような幹は、雷に打たれたのか、長く深い彫りを幾重にも刻む。 ごうごうと唸る風にも、頑として動じない。 びりびりと圧を受けた。 その立ち姿は、う

その緑は、深碧となる。

二日目は生憎の雨だった。 「小雨が降っていても行ける場所はありますか」 昨日の夕食も、こ…

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白白明け、朱の鳥居

明け方の京都は肌寒かった。 参道に並ぶ店も、ぴしゃりと閉ざされていた。 陽も昇らぬうちに…

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熱情を前に、静寂。

ざり、ざり、ざり。 砂利道を歩き、鬱蒼と茂る木々に囲われた古民家に着いた。 古いガラスがは…

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