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「旅する日本語展二〇二〇」へ

「旅する日本語展二〇二〇」の11語を書き終わったのでまとめました。
旅に出たい気持ちがふわふわするので、書き留めます。

はじまり

10月末、羽田空港×noteの「旅する日本語展二〇二〇」のコンテスト開催が発表されました。
その言葉をひとつひとつ、声に出して読み上げたのを覚えています。

初めてnoteに触れた(といっても半年ほど前ですが)時の気持ちを思い出しました。
儚げで、凛としていて、時に荒々しく、けれど、心はまっすぐ美しく。
私がnoteに持っているイメージって、そんな感じです。



旅を思い出すのは、どんな時だろう。

カレンダーをめくると、赤い文字が並んだ連休を見たとき。
スマホの写真フォルダを、なんとなく見返したとき。
テレビ番組で、美味しそうな郷土料理が流れたとき。
仕事の帰り道、夕焼けを見たとき。

ふとした時に「楽しかったなあ」と思い返すけれど、少ししたら別のことを考え出して、ふっと消える。

私にとって旅の思い出って、風が吹けば飛んでいってしまう、ぼんやりとしたものでした。


記憶が薄れそうなほど遠い昔の旅。


だったはずなのに。

今、このコンテストを書き終えて、終わったはずの旅をもう一度楽しめる魔法をかけてもらった気がしました。



あ、と思ったのは、ひとつ目のお題を書き終えたとき。

【生一本】佐賀県・有田焼き絵付け

「生一本」と見て、すぐに有田焼きの窯元のことを思い出しました。
そして、じっくり、私がたどった過去の視点を、できるだけその時と同じ速度で思い返しました。

前日に降った雪が道路を濡らして、寒さに磨きをかけていたとか。
駐車場の横に生えていた雑草が、腰の高さまで伸びていたな、とか。
あの、古民家の戸が固くて、ぎいぎいと音を鳴らしてしまい、ふふ、と笑ってしまったな、とか。
と、その瞬間、ビリビリ、と張り詰めた空気を感じて、びくりと肩が跳ねたな、とか。
艶やかな薬液が塗られた直後、スウっと乾くあの感じだとか。
そして、ひと作業終えた窯元が、土のたくさんついた手で、有田焼きの陶器へ温かいお茶を入れて、「よく来たね」と笑ってくれたな、とか。
お茶を受け取ると、左手の親指に、爪を半分隠すくらいの薬液がついていたなあ、とか。
それを見て、職人さんってかっこいいなあ、と思ったこととか。


ふつふつと湧き上がってくる記憶。
その記憶を横から見たり、後ろから見たり、上から見たり。
だんだんと色づいてくる記憶を見返して、私は胸が高鳴って仕方がありませんでした。



ここからは、400字に入らなかった思いとかを。
自分の備忘録を兼ねさせていただきます…。

【弥立つ】香川県・金刀比羅宮

母と行った香川県。
母は、旅行前から、金毘羅宮へ参拝したいと鼻息を荒くしていました。
当日、あの天まで続く階段を前にして、棒立ちになる50代の母。
「これ、お母さんには無理じゃろ…」という母に、「大丈夫大丈夫、無理だったら戻ればいいし、引っ張ったげるけ!」とエールを送り、登り始めました。
参道には、母よりも歳を重ねたであろうマダム達がたくさんいらっしゃいました。そんなマダム達を見て頑張れたそうです。
久しぶりに繋いだ母の手は、細くて、なんだか思っていたより頼りなくて、涙が出そうになりました。
母視点で、こう思ってくれていたらいいなあ、という話。



【已己巳己】京都府・伏見稲荷大社

幻想的な千本鳥居を誰もいない時間に見たくて、早朝に参拝したときの話。
伏見稲荷大社へ伺うのは3度目でしたが、人の話し声も、足音もせず、ただ木々の葉がカサカサと音を立てるあの空間は忘れられません。
コン、と鳴かれたのは想像ですが、進む方向かわからなくなりそうなのは本当。
帰り道、黒猫が柱の陰から飛び出してきて、少しついて来てくれたのがとっても可愛かったです。この黒猫のことは、文章を書きながら思い出しました。写真を撮ったはずなのに、どこを探しても見つからなかったのが残念です…。
毎度のことながら、狐の絵馬に願い事を書いて帰りました。



【催花雨】京都府・瑠璃光院

初めて夫と京都へ行ったときの話。
社会人になりたての頃です。少し背伸びして予約した宿の、とっても感じの良い、歳下のコンシェルジュさんに教えていただいた瑠璃光院。
チェックインの時に、少しだけお互いプライベートなお話もしたりして、今でも顔を思い出せます。
瑠璃光院は、あの有名な特別展示(2階)ももちろん良かったですが、1階の暗い部屋が額縁になり、ぽおっと庭園が輝いて見える光景は、ずっと目に焼き付いています。
縁側へ行くと、雨に濡れた土の匂いと、草の匂いが入り混じって、なんとも言えない日本の香りになっていました。
一面の苔は雨粒できらきらと輝いていて、緑色がより深くなっていました。
小雨が、庭園をより美しくしている、とすぐにわかって、あのコンシェルジュさんに心の中で何度もお礼を言いました。アンケートへバチバチにお礼を書き連ねました。お元気だったらいいなあ。



【睦ぶ】静岡県・三保松原

おごそかで威光があって、とにかく圧倒された光景でした。
広い海岸、威厳ある姿で立つ松の後ろに見える富士山。
目に入るもの全てに力があるので、もっと歳を重ねて心静かにこの景色を見ると、もっともっと深く心に刺さるのだろうなと思いました。
海岸も、あんな広く残っている場所は見たことがありませんでした。
近くで松を見て、そして海を見て、遠くに見える富士山を黙って見つめてしまう。いつまでも繰り返しそんなことをしていました。



【萌芽】北海道・ニセコアンヌプリスキー場

中学校の修学旅行。
1日目の朝、むくれた顔で初心者教室へ向かった運動嫌いの友達が、教室を終え戻ってくると、にこにこしていたので、他の友人と良かったね、と言い合っていました。
夕食の後、部屋に戻ると「明日のスキー楽しみ〜」と浮ついていたので、なんだなんだと布団をくっつけ、チョコレートやスナック菓子を献上しつつ聞かせてくれました。
自分と同じ、スキーをしたことのない男子が、カニ歩きで助けに来てくれたと。
「私より全然下手なんよ!なのにさ〜、優しいなあと思ったんよね」と笑っていて、とっても可愛かったなあ。
持って来たUNOを放り出して、その日は話ばかりしていました。



【寧静】広島県・原爆ドーム

広島を訪れてくれる観光客の皆さんは、やはり夏が多いのでしょうか。
1945年に被曝した広島。
当時は50年は草木も生えないと言われていたそうですが、今、この広島の地は四季を感じることができます。
春は桜を楽しみ、夏は陽炎の向こうに見える緑を感じ、秋は落ち葉を踏み、冬には枝から落ちる雪を見ます。
寧静、という言葉。
意味を見て、すぐに広島を想いました。
この平和が続くよう、祈り、行動し続けます。



【色節】広島県・厳島神社


厳島神社の回廊は、涼しい海風が通る夏に歩くのが好きです。
1度だけ結婚式に参列しましたが、とってもとっても、素敵でした。
白無垢の純白、回廊の朱色、瀬戸内海の青、そこに柔らかい陽の光と、影が交差してとても美しいです。
大好きな宮島、毎月1〜2回は足を運んでしまいます。
紅葉の時期になり、やっと観光客の皆さんの足が戻りつつあります。
閉じてしまったお店が、幾つもあります。何度も通っていた、あの天丼屋の店主さんと、おばちゃんは元気かな。行くたびに前を通っては、再開を願っています。



【喉鼓】大分県・グリーンスポット

旅先でコーヒーを飲むのが好きです。
大分県別府市にある「グリーンスポット」さん。
ここへ行くことを一番の目的として、別府へ行くこと3回、というほど好きです。
レンタカーを借りて、ゆるい坂道の住宅街を抜けて行きます。
1回目、結婚前に夫とふたりで伺いました。琥珀の女王の美味しさに感激して、目を見開きながら、黙ってたくさんうなづいていた夫。お互いお代わりをして4杯いただいて帰りました。プカプカとタバコをふかしていたおじさまが、雑誌や新聞を読んでいたのを覚えています。
2回目、結婚してからまた夫とふたりで伺いました。HPで何度もメニューを見て、それぞれ心に決めたメニューを鼻息荒く注文しました。私は琥珀の女王、夫はカフェ・ド・ジュニア。結局、お互いの飲み物が美味しすぎて、私はカフェ・ド・ジュニア、夫は琥珀の女王をお代わりをしました。
3回目、娘が生まれて1歳になってから伺いました。事前に、子どもを連れて行っても大丈夫かを確認した上(この頃禁煙になっていました)、旅館と新幹線を抑えました。もう、私たちふたりの中で別府旅行は「グリーンスポット」さんありきのものになっていました。1日目、2日目と連日立ち寄ったためか、店主さんと奥様に話しかけていただいて嬉しかったのを覚えています。
ご存知の方も多いお店だとは思いますが、感動をくれる素敵なお店です。
別府旅行の際には、ぜひ足をのばしてみていただきたいです。
色々と落ち着いたら、いの一番に伺う予定の旅先です。



【袖摺れ】島根県・玉造温泉

大学生の頃、夫と初めて行った温泉旅行。
それまで、何度温泉旅行に誘っても「温泉なんて、熱いだけだから嫌いだ」と頑なにNOと言っていた夫。
どうやら暑がりで、お風呂のあと温泉の熱ですぐに汗をかいてしまうのが嫌だった様子。修学旅行以外では、10年近く温泉に行っていないと言いました。
仕方ないと諦めていましたが、夫が「日本海を見たい」と言ったのをきっかけに玉造温泉へ泊まりました。
そして見事、玉造温泉がその鉄壁の心を打ち砕き骨抜きにしてくれたため、夫は温泉大好きになりました。感謝してもしきれません。
今では温泉地に行くと、私よりも大浴場へ向かう回数が多いです。



【気散じ】広島県・尾道市

どこの旅が、というよりも全ての旅は「気散じ」だなあと思いながら書きました。
コロナウイルスで旅を制限されて悲しむ人々を見て(私も含め)、不要不急ではないはずの「旅」が、多くの人の中で大切なものだったんだと気付かされました。

私の地元、広島県。
尾道は近場の観光地として何度か遊びに行っていますが、毎回新しい出会いがあります。
千光寺へ登る、あの急な坂道だってそうだなあ、と思いながら書きました。
早朝、夕方。
晴れの日、雪の日、雨の日。
春、夏、秋、冬。
誰と、どんな話をしながら。
景色はいつだって違いました。

娘と夫と、3人で尾道へ行った時、真剣な顔で一段ずつ登る娘の手を取って、こんな尾道は初めてだなあと思いました。



旅は、いつでも新しい物語をくれました。
自分の中に眠るその物語を、もう一度読み返せた企画でした。
とてもとても、楽しかったです。

そして、たった数文字で、たくさんの感情、情景を想像させる、美しい日本語。
改めて、日本語っていいな、漢字って美しいな、と思いました。


素敵な企画を、ありがとうございました。



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にわのあさ
すごくすごく喜びます!うれしいです!