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温泉なんて嫌いだ、と彼は言った。

来月の三連休、温泉にでも行こうよ。

途端、彼は苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。そして絞り出すように「温泉なんて、熱いだけだから嫌いだ」と言った。

そんな彼と、玉造温泉へ来た。
日本海を見たい彼と、温泉地へ行きたい私。希望が合致した旅先だった。

宿に着くなり、「では」と分かれて大浴場へ向かう。
温泉が嫌いだとはいえ、さすがに一度は入るのか、と青い暖簾をくぐる彼を見送る。


夕食は、島根牛の寿司、ノドグロ、松葉ガニに舌鼓を打った。
お腹をさすりながら、身体の芯に温泉の温もりを感じる。

あの熱い湯が恋しくなり、温泉籠に手を伸ばした。
そこには、すでに温泉籠をもつ彼がいた。

「もう一回、行ってくる」

あ、私も、と慌てて足並みを揃えた。


翌朝、布団の中でまどろんでいると、いそいそと大浴場へと向かう彼の背中をみた。

彼は一晩で、温泉と袖摺れの関係になったらしい。

口元が、にやり、と緩んだ。

私は暖かい布団を鼻まで被り、引き続き惰眠を貪ることにした。

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にわのあさ
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