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公開から5年。あえて今「君の名は。」について語る
今観てもこの予告はすごい。観に行きたくなるもんな。
一般層を意識したアプローチ
この作品の大ヒットで一躍エンタメ界のトップランナーに躍り出た監督の新海誠。
この作品の直後は宮崎駿の後継者だなんだと言われていたが、元々深海監督の作品は王道ど真ん中という感じではない。
彼の作品は、初恋を忘れることのできない男性の琴線に触れるものが多い。
ただ、女性に受けるかと言われると甚だ微妙だった気がする。
女性は上書き保存とはよく言ったもので、男と比べたら昔好きだった人のことなんてそこまで覚えてやしないだろうし(全員が全員そうとは言わないけど)。
その点、本作は新海監督の過去作と比べると女性も楽しめるような仕様となっている。
そもそも主人公も男女一人ずつだし、運命の恋を思わせるようなヒロイックな描写も多い。
この辺はヒットメーカーである川村元気がプロデューサーに名を連ねていたことが寄与しているのかな。
また、ヒロイン・三葉の住む田舎の風景や落下する彗星、もう一人の主人公・瀧の住む東京の大都会を美麗な映像に起こすことで独特のノスタルジックさを生み出し、既存の深海誠ファンよりも更に幅広い年齢層の観客をうまく取り込むことに成功している。
キャスト陣の驚くべき演技力
主演の神木隆之介は、"中身が女子に入れ替わった男子"を完璧に演じている。
個人的に神木くんが俳優として覚醒したのは「霧島、部活やめるってよ」以降と考えているので、そこから初めてとなる声の演技が聴けてよかった。
しかし、「サマーウォーズ」と比べるとめちゃくちゃ上手くなってるよなあ。
その他、驚いたのは上白石萌音、谷花音、成田陵の三名。
当時まだ実写作品でも代表作がなかった上白石萌音は神木くんと並ぶことに相当プレッシャーがあったと思うが、本職の声優も真っ青な演技を披露。ポテンシャルの高さを証明した。
谷花音ちゃんは演技がうますぎてエンドロール見るまで全く気づかなかった記憶。
成田陵に関しては先日の「竜とそばかすの姫」レビューでも書きましたが、本当に声の演技がうまいです。
多分演者とキャラクターデザインは最もかけ離れていたと思いますが、違和感ゼロのナイスキャスティング。
名シーンは音楽と共に
この作品と言えばRADWIMPSの音楽だ。
「前前前世」が流れる部分は物語の始まりを感じ、否が応でも胸が高鳴る。
曲に対応する映像(瀧・三葉の入れ替わったら日常をダイジェストで見せる)も素晴らしいが、楽曲自体の出来がめちゃめちゃ良い、という方が大きいかも。
RADWIMPSは青臭いイメージがあり聴かず嫌いしてた部分があったが、今回書き下ろされた4曲はすべて(「前前前世」「スパークル」の2曲は特に)メロディが全体的に非常にキャッチーであり、どの部分を切り取っても印象に残るし、深海作品特有の美しい画とマッチする。
作画と曲作りの過程で、とんでもない密度のすり合わせを繰り返しているのだろう。爆発力のあるサビは15秒のCMに合わせてもよし、映画でフルで聴いても時も興奮できる。
終盤付近、大人になった瀧と三葉が電車でお互いを見つけるシーンも良い。
最後の実際に出会うシーンよりも、こちらの方が個人的に印象的でした。
深海監督の作品は、写実的な背景も含め現実世界を想起させる力が強い。自分が乗る電車と並走する電車の中を見てしまうというのは、誰もが経験あることなのではないだろうか。
そんな日常にああいう出会いがあれば素敵だなあと、素直に感じれたシーンだった。個人的にはあのまま終わっても良かったんじゃないかなと思う。
あと、自分の手に書かれた「すきだ」という文字を三葉が見るシーン。
あれはもはや反則でしょう。あの画と音楽があったらそりゃ泣くって。
女性に抱いた幻想とご都合主義展開は好きじゃない
確かに良くできている作品なんですが、どうしても嫌な部分を見つけてしまうのが私なんですよね。
偏見かもしれないけど、新海監督の作品ってどうも女性に幻想抱いてる感が強い気がする。
大人になった三葉(25歳)のでっかい星のネックレスとか、OL風の女性がつけるにはマジでセンスがないと思った。
ググってもそんなこと書いてる人誰もいなかったから気にしてる人いないのかもしれないけど。
他にも三葉(中身は瀧くん)が奥寺先輩の制服にした刺繍がダッセえとか。
あんなんで喜ぶ女子っているんだろうか。
あとは、新海誠史上初と言っていいレベルのハッピーエンドもあんまり僕には合わなくて。
エンタメ大作としてそれはいいと思うんですが、タイムパラドックスを扱う作品で完璧なハッピーエンドは都合が良すぎる気がした。
特に本作は震災を想起させるシーンがあるだけに、余計に。
タイムパラドックスを扱った作品で僕が最も好きなのは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」か「バタフライエフェクト」なのだが、この二作品がハッピーエンドでも許せるのには理由がある。
「BTTF」はマーティ一家の人々とその知り合いの運命しか変わっていないし、「バタフライエフェクト」は全員が全員幸せなハッピーエンドではないからだ。
今作は瀧と三葉の2人だけでなく、村全体500人の人命まで左右されている。
彗星が落ちてしまった世界線でも震災を経たからこそ得たものもあると思うし、それをまるっとなかったことにするのはどうなのかと思ってしまった。僕がひねくれてるんだろうか?
実際の二人の年齢差
後半のネタバレになるが、実際の三葉は瀧よりも3つ年上。
瀧よりも奥寺先輩に年齢が近い、ということだ。
個人的にはここも腑に落ちないのである。
もちろん女性の方が3つ上のカップルなんてザラにいるから、全然この二人の恋愛は成り立つ。
けど、劇中この二人はあくまで同い年の時に出会い、同い年のお互いを好きになっている。そこからの3歳差って大きくない?
お互いのことをはっきりと覚えていないからあり、ということなのかもしれないけど。
既に社会経験がある三葉をいかにも精神的に未熟そうな瀧が支えれるのかとか、ガキっぽいネックレスつけてるし精神年齢は変わらないかな、とか余計ことを考えてしまった。
色々言ったものの、エンタメ作品としては会心の出来
などと御託を並べたものの、ストーリー・映像共にメチャクチャ良くできている作品であることは間違いなく、今作が現時点での新海誠の最高傑作だろう。
今までバッドエンドが多かったのがハッピーエンドを迎えたというのも感慨深い。
個人的には、新海監督らしい味があるバッドエンドも好きだけど。僕も初恋に囚われし男の一人なので。