yuchan

84才のじいさんです。

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最近の記事

おばあさんの台所

2000で紡ぐ物語 12 魚屋さんの軽四が息を弾ませるようにして坂をあがって来てきゅっと家の前に止まった。 レンガ敷きの庭を魚屋さんがズンズン入って来る足音がして玄関の戸を開けるなり 「奥さ~ん、お魚どうですか~」  静かな家に大声が響き渡った。 「はーい、直ぐ行きます」    台所でその声をいの一番に聞きつけて、僕はチョッピリ緊張した、と言うのも買った魚を先ず預かる係なのです。  みんながゆっくり休んでいても停電以外はいつも動き続けているとても働き者で、家で起こることは夜

    • ぼくは自転車に乗りたい!

      2000字で紡ぐ物語 11 「自転車に乗りた~い」 ブツブツと乗れないくやしさを夢でつぶやいていた。 「パパ転げないように後ろを持っていて!」 ペダルを踏むとハンドルのぐらつきは止まってスーツと走り出した。 はじめはうまく走っていたのにパパの手が離れているのに気付くといきなり体が固くなって、ふらついて左へ傾いた。 「あっ、ころげる」と大きな声が出て目が覚めた。  みんなと一緒にスイスイ走りたい。 パパに頼っていてはダメだ。 一人で走るのだから自分の力で乗れるようにならなけ

      • 僕のスマホ

        2000字で紡ぐ物語 ➓  僕はおやつを食べて冷蔵庫のヨーグルトをコップに注いでこっそり飲もうと、そっと忍び足で踏み出した時、お母さんの呼ぶ声にビックリしてテーブルに置いたスマホにペチャットこぼしてしまった。大変だ。中へ染み込んで使えなくなってしまう。慌てて布巾で拭き取った。それでも気掛りで、もう一度手に取って目に近づけてよく調べた。汚れは見当たらなかった。安心した。  スマホは今ボクの一番大切な宝物だ。  宿題をすませてマーちゃんと電話でカブトムシの自慢話をした。認めては

        • とちの木の精霊

          2000字で紡ぐ物語  お日さんがぼくの眠い瞼を、「おはよう、もう朝ですよ」と優しく開けてくれようとしたけれど直ぐ目をつむって、もう一眠りしようと布団を引き寄せた。 でも気になって壁の時計を見るとまだ六時だ。やはり一眠りしよう、起きるには早すぎる、と瞼を閉じた。すると 「いい天気ですよ、元気よく起きましょう」と声がした。 いくら寝ぼけていてもママの声でないのは直ぐわかった。誰か知らない人が泊まっていたのかな、いや泊まっている人などいるはずがない、ではあの声は、と考えていると

          健康見張り番:私は体重計!

          2000字で紡ぐ物語 ❼  私は何時も洗面カウンター横のお風呂の脱衣場の隅で門番のようにじっとしている。 この家はもうとっくに三人の子供達も独立し、別棟の両親も亡くなって、老夫婦の二人住まいである。僕の耳には何時も空き部屋ばかりで掃除が大変だ、大変だ、と言う声が聞こえてくる。 そう言いながらも毎日取り立ててする事も無いから、必ず週に一、二度は掃除機の音を響かせ、私をポンと足で蹴って、定位置を少しずらして、居場所をきれいにしてくれる。私の体型は胴回り一辺三十センチの四角形で、

          健康見張り番:私は体重計!

          一人ではではない

          2000字で紡ぐ物語 ❻   一人ではない  冬の海辺のヤシの防風林、波が打ち返す砂浜、それに続く防波堤、さらに長くのびた突堤も人影はまばらだった。  苦しくなって海面に顔を出した。護岸の大きな捨て石の水際に黒いかたまりがポカッと現れて消えた。一瞬仲間の鵜が帰って来た、と思ったが、自分の何倍もある鵜などいない。恐ろしさが波紋のように広がって、小さなハートがギシギシとうずいた。お母さんはどこへ行ってしまったの。みんなはどうしているの。もう十分大きくなっているからって魚を追い

          一人ではではない

          心のボール

          2000字で紡ぐ物語  心のボール  明け前の鎮守の森に太鼓が響き御神輿が威勢のいい掛け声で周りの人を祭りの渦へ誘い込む。人垣に遮られて見えない。大人の足をかき分けながら前へと分け入って、一番前に出た。首を一杯後ろへそらして見上げると神輿の頭飾りがゆれていた。  大きくなったら法被を着て鉢巻きして、足袋はだしで・・・と空想していると神輿はだんだん離れて行った。周りの人もまばらになって、気付くと母さんも姉さんもいなかった。  どうしよう、と立ち上がって周りをきょろきょろ見回

          心のボール

          笑いの元素 アクアマンとサンソマン

          2000字で紡ぐ物語 ❺      笑いの元素     アクアマンとサンソマン  ゆるやかな坂道を登っていくと、じっと僕の方を見て、微笑みかけているような花に出くわした。思わず手にすると、フワーッと香りを出して私を包み込んでしまった。その感触は幼い日の母の胸の温もりに似ていた。花をたくさん摘んで、家じゅうに飾った。何時もけんかの絶えなかった家族なのに、どうしたことかみんな笑顔になって、不思議なくら仲良くなった。  一つ思い当たることは花の香りが家に溢れていることだった。

          笑いの元素 アクアマンとサンソマン

          こふぐのフーちゃん

          2000字で紡ぐ物語 4️⃣  暖かい晴れた休日の岸壁沿いは釣り人が一杯だ。多くの釣り人が子供の陣取りゲームのように一人で竿三本分の釣り場を確保していた。ぼくは釣り好きの父に連れられて月に一度はいい釣り場を求めて早めの時間帯に出かけた。釣りは大好きだ。しかしいつも近場の釣り場なので、たまには海峡大橋を渡って初めての釣り場へ連れて行って欲しいけれどまだ実現したためしはない。  今日もいつもの岸壁から竿を突き出して魚が餌をつつきに来るのを静かに待っていた。すると父さんより先に僕

          こふぐのフーちゃん

          金魚の心臓マッサージ

          2000字で紡ぐ物語 庭の片隅で直径四十センチほどの瓶に6匹のメダカと1匹の金魚を飼っている。  暖かい日なので、濁り始めた水替えをする気になった。  小さな網で魚をすくってバケツへ移し替えて、瓶の水をいきなり庭へい出し、底の砂をへひっくりかえして、ホースの水を勢いよく吹き付けながら手もみ洗いをした。      水苔や中の鉢も汚れを落として、砂を戻し、ホースを瓶に放り込んで水が一杯になるのを待って、金魚とメダカを驚かさないように静かに澄んだ水に戻すと、ここは我が家だ、と言わ

          金魚の心臓マッサージ

          "時間列車"

          2000字で紡ぐ物語   人生に終わりが来るなんて考えもしなかった。 時間は限りなく続くと思っていた。 最近時間の崩れて行く音が、ガラガラと大きく聞こえ始めた。一方自由な時間は使い切れないで溢れるようになってきた。時間をせき止める手段はない。では消え行く時間をどうすれば、と思案している時ふらっと出かけた図書館の魅力にはまってしまった。 そこは物語やあらゆる国々の知識や文化の果実がぎっしり詰まった楽園だった。次々と借り出して読みふけった。周りから今更手遅れだからいい加減にす

          "時間列車"

          2000字で紡ぐ物語シリーズ 1️⃣

            私はピアノ私はピアノ。  手の指は八十八鍵、足はキャスター付き。でも鍵は自分で叩けない。足も自分で動けない。人間様のなすままに、置かれた場所で終日じっとしている身です。  生まれ故郷の工場を車に乗って運ばれて着いた所は楽器店。お店で時々客がピンポンと居眠りは駄目ですよ、と私を軽く叩く。  ある日四人の親子がやって来た。  子供は可愛い女の子。  妹は店へ入るやスキップで、並んだピアノを小さな指で叩いて、耳を傾け、音はどこから出てくるの、と不思議そうに首を振り振り又叩く、

          2000字で紡ぐ物語シリーズ 1️⃣

          初めてのnoteです

          毎日この写真の海浜公園まで4.5kmを自転車で往復しています。 真珠湾攻撃の前年1940生まれの84才の老人です。 ウクライナやガザと同じような悲惨な惨状も経験しました。 空襲警報に慄き、時限爆弾の爆発に震える毎日でした。 父は出征していて居らず、姉弟が心細い母にすがりつくようにして暮らしました。 終戦の翌年小学校へ入学しました。校舎は焼けて無く軍の被服廠での2部授業だった。戦後の荒波に揉まれながらも70才まで働いた。以後は毎日日曜日の生活になって時間がたっぷり出来たので図書

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