レポート:『愛、パワー&パーパス―人と組織の進化力を紡ぐ新たな物語』邦訳出版記念企画presented byクリスティアーネ・ソイス=シェッラー&NexTreams
今回は、ヨーロッパにおけるホラクラシー(Holacracy)実践の第一人者であり、私の恩人・友人であるクリスティアーネ・ソイス=シェッラー氏(Christiane Seuhs-Schoeller)のイベントに伺った際のまとめです。
世界的な組織コンサルタント、コーチとして活動されてきたクリスティアーネ・ソイス=シェッラー氏(Christiane Seuhs-Schoeller)は、自身のこれまでの取り組み中で開発してきた知見を一冊の本にまとめ、昨年出版しました。
今回のイベントは、クリスティアーネの書籍の邦訳出版が決定した記念企画であり、邦訳出版と合わせて行われるプログラムのアナウンスも行われました。
クリスティアーネとの出会い
ティール組織事例:ホラクラシー(Holarcacy)の探究・実践
2016年9月19日~23日に開催された『NEXT-STAGE WORLD: AN INTERNATIONAL GATHERING OF ORGANIZATION RE-INVENTORS』。
ギリシャのロードス島で開催されたこの国際カンファレンスは、フレデリックラルー著『Reinventing Organizations(邦訳名:ティール組織)』にインスピレーションを受け、新しいパラダイムの働き方、社会へ向かうために世界中の実践者が学びを共有し、組織の旅路をサポートしあい、ネットワーク構築を促進することができる場として催されました。
いち早く日本人として参加していた嘉村賢州、吉原史郎といった実践者たちは、この海外カンファレンスの報告会を開催することとなります。
2016年9月19日~23日に開催された『NEXT-STAGE WORLD』の報告会は、2016年10月19日に京都、10月24日、25日に東京にて開催され、嘉村賢州、吉原史郎の両名は組織運営に関する新たな世界観である『Teal組織』について紹介しました。
※日本におけるフレデリック・ラルー『ティール組織』出版は2018年1月24日。
これ以降、当時私が参加していた特定非営利活動法人場とつながりラボhome's viは『ティール組織』探求を始め、同年2016年11月以降、『Reinventing Organizations』の英語原著を読み解く会も始まりました。
また、2017年6月以降はhome's vi自体をティール・パラダイム的な運営へシフトするため、『ティール組織』で事例に挙げられていた組織運営法であるホラクラシー(Holarcacy)の導入を行う運びとなりました。
当初は、NEXT-STAGE WORLD以降、嘉村らとコミュニケーションしてきたメンター、ジョージ・ポー氏(George Pór)にご協力いただき、またミーティング・プロセスの伴走はホラクラシー(Holarcacy)の実践を深めていた吉原史郎さんに参加してもらうことで進めていきました。
私自身は2017年7月以降、ホラクラシー(Holacracy)のファシリテーターとして実践を積み始めました。
これ以降、私にとっての新しいパラダイムの組織づくりの探求は、ホラクラシー(Holacracy)を軸に進んでいきます。
ホラクラシー(Holacracy)とは?
ホラクラシー(Holacracy) とは、既存の権力・役職型の組織ヒエラルキー(Hierarchy:階層構造)から権力を分散し、組織の目的(Purpose)のために組織の一人ひとりが自律的に仕事を行うことを可能にする組織運営法です。
フレデリック・ラルー『ティール組織(原題:Reinventing Organizations)』にて事例に取り上げられたことで、役職に伴う階層構造型の組織から、自律的な運営を行う組織へと移行するための方法・哲学として国内においても実践事例が増えつつあります。
ホラクラシー(Holacracy) は、2007年、Holacracy One(ホラクラシー・ワン)社のブライアン・J・ロバートソン(Brian J Robertson)と、トム・トミソン(Tom Thomison)により開発されました。
Holacracyの語源は、アーサー・ケストラー(Arthur Koestler)が提唱した Holon(ホロン:全体の一部であり、 且つそれ自体が全体性を内包する組織構造)という概念に由来します。
ホラクラシーを導入した組織では、組織の全員がホラクラシー憲法/憲章(Holacracy Constitution)にサインして批准することで、現実に行なわれている仕事を役割(Role)と継続的に行なわれている活動(Accountability)として整理し、 仕事上の課題と人の課題を分けて考えることを可能にします。
ホラクラシーにおける組織構造は『Glass Frog』という独自開発された可視化ウェブツールを用いて、以下のようにホラーキー(Holarchy)なサークル図によって表されています。(可視化ツールは他にもHolaspiritというサービスも国内では多く活用されています)
ホラクラシーを実践する組織において仕事上、何らかの不具合が生じた場合は、それをテンション(tension)として扱います。テンション(tension)は、日々の仕事の中で各ロールが感じる「現状と望ましい状態とのギャップ、歪み」です。
このテンションを、ホラクラシーにおいてはガバナンス・ミーティング(Governance Meeting)、タクティカル・ミーティング(Tactical Meeting)という、主に2種類のミーティング・プロセスを通じて、および日々の不断の活動の中で随時、不具合を解消していきます。
ホラクラシーについては、日本人初のホラクラシー認定コーチであり新訳版の解説者である吉原史郎さんの以下の記事及び、新訳版出版に際してホラクラシーのエッセンスについて語られた動画にもご覧ください。
クリスティアーネ・ソイス=シェッラー氏について
その頃に、海外の実践者を日本に招聘して学びを深めようという機運も高まっており、その中で出会ったのが、今回の企画の講師でもあるクリスティアーネ・ソイス=シェッラー氏(Christiane Seuhs-Schoeller)です。
2017年11月、ホラクラシーワン創設者トム・トミソン氏(Tom Thomison)、ヨーロッパでのホラクラシーの実践者であるクリスティアーネ・ソイス=シェッラー氏(Christiane Seuhs-Schoeller)らを招聘したワークショップのスタッフとして参加し、この企画以降、クリスティアーネと私とのご縁が続いていくこととなりました。
2018年8月、クリスティアーネが来日し、彼女がホラクラシー(Holarcacy)実践から得た学びをもとに独自に発展させて開発していた『Language of Spaces(ランゲージ・オブ・スペーシズ)』を紹介してくれることとなったのです。
Language of Spaces(ランゲージ・オブ・スペーシズ)とは、ホラクラシー(Holacracy)をヨーロッパに導入した先駆者の一人であるクリスティアーネ・ソイス=シェッラーの、豊富な運営実践およびコンサルティング経験に基づいて開発されたコーチング手法であり、フレームワークです。
私は、この『Language of Spaces(ランゲージ・オブ・スペーシズ)体験プログラム』に、事務局と一部コンテンツ担当、また、クリスティアーネと同じホテルに滞在していたことから、彼女の会場までのアテンドを担うことになりました。
毎朝4時に目を覚ましては英語の勉強とプログラムの知見の予習・復習を行い、ホテルから会場までタクシーでクリスティアーネを送り迎えをしていた数日間。
不慣れながらも英語でコミュニケーションをおこなっていたのですが、限られた時間の中でどうしても十分に自身のアイデアや想いを伝えたり、受け取ったりができなかったように思え、その時は本気で悔しく感じられました。
そのことをまた彼女にも伝えたのですが、
と、温かい涙ながらに伝えてもらい、自分は本気で英語とホラクラシー(Holacracy)に関して向き合うことを決心しました。
この時の体験は、私がその後、私は2019年9月にホラクラシー(Holacracy)の開発者ブライアン・ロバートソン(Brian Robertson)が講師を務める5日間のプログラムにジョインする際の原動力となりました。
ホラクラシー(Holacracy)という組織運営法に出会ったことがきっかけで、私はさまざまなラーニング・コミュニティやプロジェクトチームの一員として組織の仕組みづくりの実践経験を積み重ねてくることができただけではなく、人間的な成長もさせていただけたように感じています。
現在の私は、これまでの知見と自然の知恵を活かす組織づくり、コミュニティづくりを生業としており、今回、本当に久しぶりにクリスティアーネと再会することが叶いました。
LoS以降のクリスティアーネの歩み
ホラクラシーが開発されて以降、海外のホラクラシー(Holacracy)実践者の間では、さまざまな葛藤も生まれていました。
「一人ひとりが組織と、自分自身の目的(Purpose)に向かって自律的に働いていくためには、どのような法人形態や契約に基づいて運営していくことが望ましいのか?」
「従来のホラクラシー(Holacracy)では扱い切れていない人間関係をどう扱えばいいのか?」
「自律性、主体性が求められる組織や社会において、自分自身にどう向き合ったら良いのか?」
このような問いのうち、前者2つについてより構造的に、そして起業や経営視点を中心に発展させた1つが、トム・トミソン氏(Tom Thomison)が紹介してくれているThe For-Purpose Enterprise(目的志向企業)であり、
このような問いのうち後者2つ、内省や自己探求、セルフ・リーダーシップ開発に特化して発展させたものが、Language of Spaces(ランゲージ・オブ・スペーシズ)と言えるかもしれません。
Language of Spaces(ランゲージ・オブ・スペーシズ)開発以降、クリスティアーネはより内面の変容にフォーカスしたインナーワークに注力するようになります。
そのような中で新たに生み出されたのが、次世代型組織を実現する試みの一つ、「シンビオティック・エンタープライズ™(共生型企業:Symbiotic Enterprise SE)」です。
こちらは、クリスティアーネがホラクラシー(Holacracy)に基づいて自己組織化組織を実践し、数多くの導入・運営支援をコンサルタント&コーチとして行なってきた10年以上の経験および、Language of Spaces(ランゲージ・オブ・スペーシズ)を統合して生み出された包括的枠組みです。(紹介文を引用させていただきました)
このシンビオティック・エンタープライズ™(共生型企業:Symbiotic Enterprise SE)についてクリスティアーネが語る動画が、こちらです。
また、クリスティアーネとして初の単著となる『New Stories of Love, Power, and Purpose』が、2022年7月に出版されました。
今回のウェビナーは、現在、邦訳が進んでいる本書の出版決定記念企画であり、出版と合わせて開催される秋以降の長期プログラムへの招待としての意味合いもありました。
愛、パワー&パーパス:人と組織の進化力を紡ぐ新たな物語
今回のイベントは、日本におけるクリスティアーネのパートナーであり、長年の協働関係を築いてきているNexTream合同会社主催で開催されました。
以下、今回のイベント中に語られた内容についてまとめていければと思います。
執筆の背景:Self-Organization(自己組織化)
クリスティアーネは10年以上にわたる「新たな仕事(The New World of Work)」の世界と自己組織化(self-organizations)との関わりについて探求してきました。
自己組織化(self-organizations)とはさまざまな意味を取って解釈される用語ですが、クリスティアーネは自己組織化(self-organizations)を以下のように定義しています。
クリスティアーネは、ビジネスを組織化する従来の方法は、継続的に成長せよと言う命令によって動かされており、その結果、人類と地球の資源がますます搾取されると言います。
これは、韓国出身ドイツ在住の哲学者ビョンチョル・ハン(Byung-Chul Han)が提唱した『疲労社会(Müdigkeitsgesellschaft)』および、『ハッスルカルチャー(hustle culture)』に通じる洞察です。
『疲労社会(Müdigkeitsgesellschaft)』とは、現在の新自由主義(ネオリベラリズム:neoliberalism)に基づいた資本主義社会を指して表現した言葉です。
英語表現では、『The Burnout Society(燃え尽き症社会)』とも称されます。
政治経済上のイデオロギーの一つである新自由主義には、「達成主義(achievementism)」「能力主義(meritocracy)」が内在されており、新自由主義化が進んだ社会においては『ハッスルカルチャー(hustle culture)』が醸成されます。
ハッスルカルチャーにおいては、人々は飽くなき成長、成果、成功といった過剰な活動・変化の加速へと駆り立てられ、時に燃え尽き、うつ状態に陥るなど心身を疲弊させてしまいます。
人々は新自由主義、ハッスルカルチャーによって「できること」「肯定的な感情」「成果を生み出すこと」に無意識のうちに絡め取られ、「あえてしないこと」「否定すること」「無為に過ごすこと」を抑圧してしまいます。
以前、知性発達学者・加藤洋平さんの新著『成人発達理論から考える成長疲労社会への処方箋』の出版記念企画に参加したことがありましたが、加藤さんもまた、現代社会を指して同じような問題提起をされていました。
なお、クリスティアーネ自身は、この絶え間ない成長と搾取のプロセスの中核には、パワーオーバーの物語(the story of power over)があると述べています。
そして、私たちは自己組織化することで、自然の原理とプロセス、宇宙の進化のダンスに同調し、生命の網(the web of life)に奉仕するよう行動できるようになるとお話しされていました。
本書の構成:2つのパート
また、本書には2つのパートがあるとクリスティアーネは話します。
1つは、愛(Love)と力(Power)の統一と、そこから行動することに関する学びの旅の物語について。
もう1つは、ジャーナローグ・プラクティス(The JournaLogue Practice)という、深い変容を支えるセルフ・コーチングの実践法についてです。
ジャーナローグ・プラクティス(The JournaLogue Practice)の実践は、深い内省(self-reflection)と内観(introspection)および、自分自身、私たち自身、生命の網との新しい関係性を発展させるための実践法です。
ジャーナローグ・プラクティス(The JournaLogue Practice)の実践は、最も愛に満ちてパワフルな自分自身の表現、自分自身のパーパスの顕現(manifest)、生命の網への奉仕、より健やかで充実した人生を送ることを助けてくれます。
ジャーナローグ・プラクティス(The JournaLogue Practice)に関する情報は、以下のクリスティアーネのページもご覧ください。
次のステップは?今後のプログラム開催予定
イベントの最後に、今後についてのアナウンスがありました。
今後、邦訳書籍の出版と合わせて、ステップ1〜ステップ3のプログラムを来月8月以降、開催予定とのことです。
現在、公開されている情報は以下をご覧ください。
【ステップ1】「愛」「パワー」「パーパス」〜深い変容をめざす新たな定義
【ステップ2】人と組織の進化力 〜自己組織化とセルフマネジメント
【ステップ3】ジャーナローグ〜愛に溢れたパワフルな自分としてパーパスを体現する
さらなる探求のための参考リンク
いのちがめぐりだす組織へ――『[新訳]HOLACRACY(ホラクラシー)』の監訳者まえがき全文公開
新訳版『ホラクラシー(Holacracy)』監訳者・吉原史郎さんのまえがきです。出版社である英治出版のご厚意で全文公開をしてくださっています。
Reinventing Organizations
『ティール組織』著者であるフレデリック・ラルー氏による、『ティール組織』解説の動画シリーズです。クリスティアーネの取り組みもまた、『Reinventing Organizations』に端を発した世界的な新しい組織づくり・働き方に関するムーブメントの中で生まれてきているため、前提知識として押さえておきたいところです。
ホラクラシーに人間性を―ランゲージ・オブ・スペーシズが切り開く新境地
2019年5月に英治出版オンラインにて紹介された際の記事です。ホラクラシーおよびランゲージ・オブ・スペーシズに関して、ティール組織解説者・嘉村賢州さんと、Nextreamsのメンバーである桑原香苗さんが対談されています。
RELATIONS:ホラクラシーの安定した実践までの長い旅路
令三社・山田裕嗣さんによる、RELATIONS株式会社のケース記事です。RELATIONS代表の長谷川さんは、自社のホラクラシー実践に行き詰まった時に、クリスティアーネをはじめとする海外の実践者からアドバイスを受け、それ以来クリスティアーネともご縁があるというお話をイベント当日にしていただきました。
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