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【書籍紹介】『私発協働のまちづくり―私からはじまる子どもを育む地域活動』

京都は花園大学の深川光耀さんから『私発協働のまちづくり―私からはじまる子どもを育む地域活動』をご恵贈いただきました。ありがとうございます!

2000〜2010年代の京都市では、市民の主体的なまちづくりを推進する事業(京都市未来まちづくり100人委員会等)が実施されていましたが、その頃からのご縁や関連する取り組みが書籍としてまとめられ、手元に届いたことがとても嬉しいです。

今回は、本書に関して関連しそうなテーマも合わせてご紹介できればと思います。

『私発協働』とは?

本書によると『私発協働』とは、 「<私>から始まり、まわりをゆるやかに引きつけ、共に力を発揮し合うことを通じて『公共の幸福』に導く一連のプロセス」を指します。

私発協働』の概念は建築・都市計画の観点からまちづくりに取り組んできた延藤安弘氏によって提唱されたものであり、2001年以降の書籍の中で触れられるようになりました。

また、あるインタビューの中で延藤氏は以下のようにも述べられています。

現代社会は、人の生活をどんどんパーソナル化し、一人でも生きられるという利便性の仕組みや技術的機器がたくさんありますが、どんな状況になっても、人が生きる豊かさの原点は、他者との関わりの中にある――「私」というのは、周りによって豊かに育てられている存在だと思うんです。そういう意味で、いかに個人的に閉じこもっていようと、一人で過ごすことができようとも、真の豊かさは、周りとのつながりがあってこそなんです。

延藤安弘さん かしこい生き方のススメ

災害時の避難体制の確立、社会的孤立、貧困などの地域課題に対し、地縁組織、行政職員、NPOなどが活動に取り組んできましたが、個人の関心や動機から活動に取り組む実践者がいかに『私発協働』のプロセスを通じて地域課題の解決を実現していけるか?どうすればそのような状況をつくりだせるのか?が本書『私発協働のまちづくり―私からはじまる子どもを育む地域活動』のテーマです。

『私発協働のまちづくり―私からはじまる子どもを育む地域活動』

『私発協働』と『マイプロジェクト』

この『私発協働』を初めて知った時ふと浮かんだのは、慶應義塾大学SFCの井上英之研究室で生まれたという『マイプロジェクト(マイプロ)』です。

現在、マイプロジェクト(マイプロ))は教育、探究学習、ソーシャルアントレプレナーシップ育成など様々な現場で実践されており、「これだ」という明確な定義はありません。

国内の主たる実践団体は、それぞれ以下のように定義しています。

マイプロジェクトは、身の回りの課題や関心をテーマにプロジェクトを立ち上げ、実行することを通して学ぶ、 探究型学習プログラムです。大切にしているのは、小さくても実際に起こす「アクション」と、プロジェクトに対する「主体性」です。 不確かな時代だからこそ、高校時代に正解のない問題に向き合い探究することで、 未来への創造力が育まれます。

探究の経験を全国の高校生へ 全国高校生マイプロジェクト

マイプロジェクトとは、「主体性」をもって、つくりたい未来に向けて「アクション」を行っていく、学びのプロセスです。

そのプロセスを通して自分自身の興味関心の発見や、他者との協働、社会の価値発見・創造に向かう姿勢が育まれます。

全国高校生マイプロジェクトアワード|マイプロジェクト

また、井上英之さんはあるインタビューの中で以下のように語られています。

まずは、何でもいいんです、自分がずっとやってみたかったこと、今、気になることをプロジェクトの形にしてもらう。身近にある気になることでいい。世の中や地域のことでもいい。それを“やってみる機会”を自分にあげる。

そのプロセスで、いろんな自分に出会い、気付きます。何より、他者にも出会っていきます。実際の経験のなかから、自分が本当に欲しい未来は、こういうことだったんだと気付いて、プロジェクトを変更することもよくあります。やってみるなかから、やり方も進化していきます。

『マイプロジェクト』は、プロジェクトそのものの成功だけが目的ではありません。プロジェクトを通じて、自己理解を深め、そこから他者や社会への理解をすすめ、自分の人生や社会に対して、地に足のついたオーナーシップを感じ取ってもらう。
(中略)
『ソーシャルイノベーション』は、自分の日常にその縮図があることに気付くことがとても大切です。どんな身近なことを扱ったプロジェクトでも、そこには“代表性”があるんですよね。たとえば親子関係に悩む人は、世界にすごい数いますよね。新しい方法を見つけたら、世界を変えられるかもしれない。変化の可能性って、僕たちの足元にあるんです」

自分の人生に対してオーナーシップを持つ。
それが他者理解につながるから【ゲスト 井上英之さん / 編集長インタビュー 02】

また、上記のような考え方は、井上さんがスタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版(SSIR-J)を立ち上げる際に執筆された文章の中にも見られます。

『私発協働』と『ソース原理』

『私発協働』を知った時に連想されたもう一つが、ソース原理(Source Principle)です。

ソース原理(Source Principle』とは、イギリス人経営コンサルタント、コーチであるピーター・カーニック氏(Peter Koenig)によって提唱された、人の創造性の源泉、創造性の源泉に伴う権威影響力創造的なコラボレーションに関する洞察を体系化した知見です。

国内においては『ティール組織(原題:Reinventing Otganizations)』著者のフレデリック・ラルー氏(Frederic Laloux)によって初めて組織、経営、リーダーシップの分野で紹介されたことが契機となって広がったソース原理。

その中で語られているのが、あるアイデアを実現するために、最初のひとりがリスクを取って活動を始め、その結果、周りに協力者や資源を惹き寄せ、コラボレーションを実践していくソース(Source)という存在です。

1人の個人が、傷つくかもしれないリスクを負いながら最初の一歩を踏み出し、アイデアの実現へ身を投じたとき、自然に生まれる役割を意味するソース(Source)ですが、一歩踏み出して始める活動は、社会を変えるような大きなプロジェクトに限りません。

The role emerges naturally when the first individual takes the first vulnerable step to invest herself in the realisation of an idea.

Tom Nixon「Work with Source」p20

An individual who takes the initiative by taking a vulnerable risk to invest herself in the realisation of a vision.

Tom Nixon「Work with Source」p249

自身の研究課題を決めること、就職を思い立つこと、ランチを作ること、休暇の予定を立てること、パートナーシップを築いていくこと等もまたソース(Source)としての活動であり、日常生活の様々な場で誰しもが何かのソース(Source)として生きていることを海外の実践者たちは述べています。

We take initiatives all the time: deciding on a particular course of study, going after a certain job, starting up a business, planning a special dinner. I can initiate a friendship or partnership, change my housing situation, make holiday plans, decide to have a child. Or I might step forward to join a project sourced by someone else.

Stefan Merckelbach「A little red book about source」p17

2022年10月に出版され、国内で初めてソース原理(Source Principle)について紹介する書籍となった『すべては1人から始まる―ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力(英治出版)』は、日本の人事部「HRアワード2023」書籍部門にて入賞を果たすなど、その注目を高めつつあります。

『私発協働』による『まちづくり』

以上、『私発協働』から連想された『マイプロジェクト(マイプロ)』、『ソース原理(Source Principle)』についても紹介してきました。

ただ、本書はそういった私発(「わたし」から始まる)の活動の中でも『公共の幸福』や『地域で子どもを育む活動』、『地域の複数のセクター・関係者との協働』といった点によりフォーカスが当たっているのではないかな…というのが読み始めた時の見立てです。(読み進めていく中で、それも明らかになってきそうな気がします)

神戸、福岡、京都など複数の実践も事例として紹介されているので、上記のようなテーマに関心のある方は是非、手に取ってみてください。

さらなる探求のための参考リンク

書籍感想文 深川光耀「私発協働のまちづくり」

マイプロって何? はじめての方へマイプロジェクトを説明してみる

レポート:ソース原理基礎講座番外編『A little red book about Source』著者ステファン・メルケルバッハ講演会


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大森 雄貴 / Yuki Omori
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