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従来のシステムと生成AIを分けるたった一つで重大な違い
「なんでさっきと違う答えになるんだよ!?」
AIに問いかけたことがある人なら、一度はこんな疑問を抱いたことがあるはず。
同じ質問をしているのに、返ってくる答えが微妙に違ったり、まったく違う視点からの回答になったりする。
従来のシステムならありえない話だ。
検索エンジンは同じキーワードを入れれば、基本的に同じ検索結果を返す。
業務システムも、同じ入力をすれば、決められたロジックに従って同じ出力をする。
そう、「再現性」があるのが当たり前。
だが、生成AIは違う。
同じ入力をしても、違う答えが返ってくる──それが生成AIの本質的な特徴なのだ。
「再現性がない」ことの意味
再現性がないとは、つまり「完全に同じ答えを出す保証がない」ということ。
これは、従来のルールベースのシステムとは決定的に異なる点だ。
例えば、電卓に「2+2」と入力すれば、絶対に「4」が返ってくる。
これはアルゴリズムが決定論的に動くからだ。
だが、生成AIに「未来の教育についてどう思う?」と尋ねると、今日と明日で違う答えが返ってくるかもしれない。
何なら、「2+2」の答えも4と言わな行こともあるかもしれない。
なぜか?
それは、生成AIが統計的な確率に基づいて「もっともらしい」答えを作るからだ。
AIの学習データには無数の文章が含まれている。
それらのデータをもとに、「この文脈ではこういう回答が最適だろう」と推測して返答する。
しかし、この推測プロセスにはランダム性が絡む。
そのため、同じ質問をしても、100%同じ答えになるとは限らない。
この「再現性のなさ」が、生成AIを使ううえでの最大の特徴であり、最大の難点でもある。
生成AIは「決定論的」ではなく「確率論的」
従来のシステムは、決まったルールに従って動く決定論的なものだった。
だが、生成AIは確率論的に動く。
簡単な例を挙げよう。
例えば、あなたが「天気の話をして」とAIに頼むとしよう。
1回目:「今日は晴れですね。こんな日は散歩にぴったりです。」
2回目:「最近、天気が不安定ですね。雨の日は読書がはかどります。」
3回目:「気象予報士によると、今年は例年よりも暑くなるそうです。」
このように、AIは「天気の話をする」という指示に従ってはいるが、同じ答えを出すわけではない。
これは、AIが確率的なモデルを使っているためだ。
過去の膨大なデータから、「この話題にはこういう回答が多い」という傾向を学習し、その中からランダムに最適なものを選んでいる。
だから、毎回少しずつ違う答えが生まれる。
「再現性がないこと」がもたらす影響
この「再現性のなさ」は、生成AIを業務に組み込む際に大きな課題となる。
① 一貫した出力が求められる業務には不向き
たとえば、財務報告書を作成するシステムを考えてみよう。
同じデータを入力すれば、毎回まったく同じ報告書が出てこなければならない。
だが、生成AIに任せるとどうなるか?
表現が微妙に変わったり、強調するポイントが変わったりする。
これでは業務の標準化が難しくなる。
② ユーザーの不信感を生む
人間は一貫性を求める生き物だ。
昨日「A」と言っていた人が、今日になって「B」と言い出したら、不信感を持つ。
AIも同じだ。
「昨日と違うことを言っている」となれば、信用されなくなる。
特に、カスタマーサポートやFAQの自動応答に生成AIを使う場合、この問題は深刻だ。
「この間は返品できるって言ったのに、今日はできないって言うの?」
こういうトラブルが起こる可能性がある。
③ しかし、創造性には強い
逆に言えば、「毎回違う答えが出る」ことを活かせる場面もある。
たとえば、アイデア出し。
同じテーマで何度も尋ねれば、毎回違った切り口のアイデアが得られる。
これは、従来のルールベースのシステムでは不可能なことだ。
また、文章生成やデザインの分野でも、ランダム性はむしろ強みになる。
同じプロンプトから異なるクリエイティブなアウトプットが得られるのは、生成AIの大きな利点だ。
生成AIをうまく使いこなすには?
では、「再現性がない」という特性を理解したうえで、どう活用すればいいのか?
① 確定的な業務には使わない
決まったフォーマットの報告書や、法的文書の作成など、「毎回同じ出力が求められる業務」には生成AIを使わないのが賢明だ。
こうした業務は、従来のルールベースのシステムに任せたほうが安定する。
② 温度(temperature)パラメータを調整する
多くの生成AIには、「温度」(temperature)というパラメータがある。
これは、ランダム性の度合いを調整するものだ。
温度が高いと、多様な回答が出る。
温度が低いと、より一貫性のある回答が得られる。
業務用途では、温度を低め(0.2〜0.3程度)に設定すると、より安定した出力が期待できる。
③ 人間が最終チェックをする
最も重要なのは、AIの出力をそのまま使わないこと。
生成AIはあくまで補助ツール。
最後は必ず人間が確認し、必要に応じて修正することで、より信頼性の高い結果が得られる。
まとめ:再現性がないからこそ、使い方を見極める
「生成AIは再現性がない」。
これはデメリットでもあり、創造的な使い方をすれば大きなメリットにもなる。
決定論的なシステムが向いている仕事と、確率論的なAIが活きる仕事。
この違いを理解し、適材適所で使い分けることが、これからの時代には求められる。
再現性がないことを嘆くより、その特性を活かす方法を考えよう。
それが、生成AIを「本当に使えるもの」にする鍵だ。