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#ショートストーリー
「直感」文学 *傷心と言葉*
「そんなに落ち込むことなんてないじゃないか?たかが一人の女に振られたくらいで。女はいくらだっているだろう?なあ?そう思わないか?そのうちのたった一人との恋仲が終わったくらいでなんになるって言うんだよ。そんなの考えるだけ無駄。落ち込むなんて正真正銘の馬鹿だよ。それなら早く次の相手を探すために街へ出ろよ。それでナンパだってなんだって、とにかく新しい繋がりを作ればいいんだよ。ほら、よく言うだろ?女を忘
もっとみる「直感」文学 *泣きっ面に彼*
泣き腫らした朝はとても嫌い。
だって目のまわりがパリパリとはりついて、真っ赤に染まり、たんこぶみたいに腫れてしまっているんだもの。
いつになったらこんな朝を終えることが出来るんだろう。それはもう私にどうこう出来る問題じゃなくて、ただそれが止むのをひたすらに待つしかない。
泣いているのは、マサキのせい。
だってあいつが、私を幸せにしてしまうから。だってあいつが、私を愛してしまっているから
「直感」文学 *サヨナラ、また来年*
晴れた春の日。どこまでも青空。綺麗だった桜は、「サヨナラ」と示すように散っていた。
「ああーいい天気!」
私は大きな声で、両手を空に伸ばした。
「大声出すなよ、恥ずかしいだろ」
と彼は言う。
いいじゃない。こんなに天気がいいんだもの。そりゃ、大声だって出したくなるし、両手だって伸ばしたくなる。こんなに開放的に、自分をさらけ出せる日なんてそんなにないんだから。
「まあでも、本
「直感」文学 *どうしても、その場所で。*
イチヤが轢かれたその場所には、枯れ切った花が置かれ、もうその場所全てが枯渇しているように思えた。
もちろん、イチヤの存在までも。
「もう10年も前になるのか……」
一緒に来ていたトウヤは、しみじみとそんなことを口走る。
「俺たちは随分と大人になっちまった」
そう自分で言っていると、なんだか変な感覚に襲われる。
俺らはあれから10年の時を経たけど、イチヤはあの時のままなのだ
「直感」文学 *泣かないで*
なぜか不思議と涙が溢れるのに、どうしてか笑えてきてしまうのだった。
「笑いながら泣くなよ。気持ち悪いって」
君はそう言いながら、私をゆっくりと抱き寄せた。
「何か悲しいことでもあったのか?」
彼は私がどうであれ、泣いていたって、笑っていたって、いつだって優しい。
涙に理由なんてなかった。ただ、彼と会えたそれだけが、なんだか嬉しくて私の涙を誘っているだけ。
「泣かないで」
「直感」文学 *ただそこにある意味のないもの*
呼吸が追いつかない。
どうしてこんなにも苦しく、それでも私は走り続けているのだろう。
早朝4時の空の呼吸はとても穏やかなものだった。そして、とても静かだった。
辺りには音のかけらも落ちていない。ここにあるのはただ、私の息を吸う音と吐く音だけだった。
こんな時間に、こんなに息を切らして、どこまで走っていくのだろうか。夢中で、夢中で。
「信用ってきっと、継続出来ないんだよ。本当に
「直感」文学 *秒針の音*
何もない部屋に、秒針の音だけが響いた。
どうしようもないのは、誰のせいでもないし、誰のおかげでもないから。
だけど今ここで秒針の音なんか聞いていると、私はなぜだか寂しい気持ちになったりして。
いろんなものから逃げるようにして、ここまで来た。
それは私が望んでいたはずなのに、今はどうして悲しくなってしまうのだろう。
秒針の音は、嫌なくらいリアルに時間の流れを感じさせて、私の身が
「直感」文学 *子供の仕草*
最初に断言しておきたいのだけど、僕は別に幼女趣味があるとか、そういった類の人間ではない。
それらの人を批判するつもりはないけれど、僕という人間をそのくくりの中に入れられてしまうのは多少なりとも心外だった。
だからあくまで、僕は偶然にもある女の子に目を奪われただけに過ぎない。幼女、と言ったってその子は制服を着ていたから小学生ではない、もしくは物凄く子供じみた中学三年生かもしれない。高校生では
「直感」文学 *指先の調べ*
ピアノの音はどうしてか、僕をずっと底の方に追いやってしまう。
それは決して悪い意味じゃない、むしろ僕が望んで落ちていっているようにも思えるのだから、不思議なもんだ。
「どうだった?」
僕の彼女の麻友(まゆ)はピアノが弾けて、家に大きなグランドピアノがあった。「別にうちが裕福な訳じゃないのよ。この家にはずっと昔からあるんだって。このピアノが」と彼女は言ったけど、その家の大きさを見れば、彼女
「直感」文学 *りとぅん*
夢中な頃の中にいて、いつまでも忘れていられたらいいのにさ。
まあ、そんな簡単なことじゃないって分かってる。だから今僕はここにいるんだからね。
それでもいずれは消えてしまうんじゃないかって不安もあるんだな、これが。全てはすれ違いの中から生まれて、……そう、それはただすれ違いの連鎖の中で、ただのすれ違いだった、なんてことに帰着して、ああ……、ただそれだけだったんだ。なんて思うのは自分でもなんだか
「直感」文学 *幸せにおいて*
黒い蝶をみた。
漆黒の羽に埋もれるのは、その影を表すようで、汚らしいものも全て呑み込んでしまった結果のように思えた。
「人はきっとさ、歳を重ねる度に、いろいろな汚いものを吸収していくんだよね。だから人は段々と黒くなっていくんじゃないかな」
そう言っていた彼とは1年も前に別れてしまったけど、不意にそんな言葉を思い出した。
「汚い、って言っても悪い意味だけじゃない。それは今後生きて行くために必要
「直感」文学 *絵心の夢*
昔から絵が描けないのは、僕の悩みの一つとしてべったりと体に張り付いている。
……なんて悲しいのだろう。とても悲しいものだ。
思い描くものが描けないという苦しさが分かる人には分かると思うけど、分からない人には分からないのかもしれない。
分からない人になりたかった。
ずっと、分からない人になりたかった。
それでも僕には絵心がない。昔からずっとない。
……いや、一度。
一瞬でも
「直感」文学 *雨と混じった、甘い匂い*
雨が窓を叩く音でうっすらと目を開けた。
灰色の空がカーテンの隙間から、うっすらと見える。内側から見えるのはゆっくりと伝う雨の水滴だった。
優しい肌寒さを感じる。
きっと外はこの部屋の中よりも、もっともっと冷たいのだろう。
だけど、目を覚ました時から、しきりに私の鼻をつつくのは、随分と甘い匂いだった。
「ユキー!もう起きたのー?もう、日曜だからっていつまでも寝てないの!」
「直感」文学 *ふたり暮らし*
彼女のサエコと住み始めて、一ヶ月が経とうとしていた。
まあ、予想できていた通りの、さして面白みのない二人暮らしだけど、それはそれで僕自身は満足している。
サエコがどう思っていて、どう感じているのかは分からないけれど、
これが現実……、というか日常、ということなのだろう。
「本当にさ、当たり前になるんだよな。家にいることがさ、もうなんていうかさ、トキメキ?みたいなやつ?……ってか、