「直感」文学 *どうしても、その場所で。*
イチヤが轢かれたその場所には、枯れ切った花が置かれ、もうその場所全てが枯渇しているように思えた。
もちろん、イチヤの存在までも。
「もう10年も前になるのか……」
一緒に来ていたトウヤは、しみじみとそんなことを口走る。
「俺たちは随分と大人になっちまった」
そう自分で言っていると、なんだか変な感覚に襲われる。
俺らはあれから10年の時を経たけど、イチヤはあの時のままなのだろうか。
まだ中学生だった、あどけなさの残るあの笑顔のままなのだろうか。
「イチヤはいいな。ずっとあの時のままでいられるんだから」
俺がそう言っても、トウヤはその言葉には応えなかった。応えるかわりに、こちらを向いてただ静かに笑っていただけだった。
寒さの染みる1月は、もうすぐそこまで来ている。
吐く息は白く、耳はもう既に麻痺しているようだった。
「また来年な」
そう言いながら、俺たちはその場所を離れていった。
僕たちは未だに信じられないのだ。イチヤが事故で死んだなどということを。
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