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【ビブリオバトル日本一がガチで30日間本紹介してみた】9日目『男子の本懐』

 みなさん、こんにちは!
 藤野美紀子です。

 さて、そろそろ自民党の総裁選が近くなってきましたね。

 ということで、今日はそんな「政治」に関する小説を紹介します。

 前回の記事も良ければご覧ください。




消えた政治家への信頼


 今回私が紹介するのは、城山三郎作『男子の本懐』です。

 さてさて、政治家と聞くとみなさんはどんなことをイメージするでしょうか?

 NHKの若者政治意識調査によりますと、
 アンケートに答えた3000人のうち、何やら4分の3を超える若者が「政治に満足していない」と答えたそうです。

 その理由を見てみると、
 「政党や政治家が信頼できない」「政治家の質が低い」「政治家に良いイメージがない」
 ・・・明らかに政治家への信頼がないようです。


 これを読んでいるあなたも、そう感じたことがあるのではないでしょうか?

 どんな政策を聞いても、どんなスピーチを聞いても、
 「本当に?」と疑ってしまう。
 自民党の派閥や裏金問題が明るみに出るにつれて、
 政治家への信頼という根幹が崩れつつあるのが現状です。


 そんな、「政治無関心」の人にこそお届けしたいのが今日の一冊。

 『男子の本懐』は、文字通り自らの命をかけて、日本の立て直しに奔走した2人の政治家の生涯を描いた小説です。


これが本当の政治家だ!


 この本の舞台は遡ること昭和時代。

 主人公は、ライオン宰相とも呼ばれた第27代総理・浜口雄幸。そして、その盟友・井上準之助のダブルキャストで物語は進んでいきます。


 当時の背景として、日本は第一次世界大戦後の慢性的不況に喘いでいました。その状況を脱するために、彼ら2人は「金解禁」という政策を遂行していくのですが・・・

銃撃直後の浜口元首相


 金解禁というシステムについてここで深掘りすることはしませんが、
 当時の国民への影響といえば「給料の削減」「生活水準の低下」「失業率の増加」という、まるで鬼のような政策であったわけです。


 そしてこの物語を語る上で大事なのが、
 この2人の政治家は当時、徹底的に叩かれていたということ。


 そう、つまりこの物語は、
 成功した政治家の華々しいストーリーではなく、
 野党、マスコミ、そして国民から大いに叩かれ非難され続けた2人の人生を描き切っているわけです。

*金解禁についてはこちらをご覧ください


これが面白い:100年後に政治をみるということ


 さて、政治に批判はつきものであるからこそ、
 (決して全員というわけではありませんが、)どうしても政治家は人気取りに走ってしまう嫌いがあるような気がします。


 しかし、この浜口元首相と井上元蔵相は、そういったポピュリズム(大衆迎合主義)と対極を貫いた政治家でありました。


 「今日の痛みに耐えて未来を良くするべきではないか」との言葉が端的に表すように、

 彼らが追い求めたのは目の前の賞賛や名誉ではなく、
 ただ国を良い方向へ持って行きたいという愚直な信念でした。


 
 この金解禁が断行されたのが昭和5年(1930年)ですので、今からおよそ100年前の出来事と言えます。


 ポピュリズムに走らず、野党やマスコミの批判に真正面から立ち向かい自分の信念を貫いた2人の政治家。
 その2人の本当の評価は、当時の国民の声やマスコミの記事だけで本当に見えるものなのでしょうか?


 100年の時をこえて見つめるあの時の政治というのは、
 今ニュースを眺めるのとは全く違った面白さがあります。

 それはこの本でしか味わえない唯一の旨味ではないでしょうか。


男子の本懐とは何か?


「まだ早いな。いずれは死ぬ命だ、国家のために斃るれば寧ろ本懐とするところが、しかし余の負うたる責任だけは解除してからでなければ申し訳がない。」

銃撃に倒れた浜口のセリフ(『男子の本懐』より)


 現代社会では薄れてきてしまった「政治に命を賭ける」という姿勢。
 それがこの本では浜口と井上という2人の人生を通して、徹底的に描かれています。


 どれほど批判されようとも、国を良い方向へと変えていく。それこそが政治家の本懐であるーー私はこの本のメッセージをそう受け取りました。

 政治や経済史に苦手意識を持っている方でも、
 この2人の生き様に胸を熱くすること間違いありません。


 政治家に全幅の信頼を持てない今だからこそ、
 政治に人生の全てを捧げた浜口と井上の生涯は心に迫るものがあるはずです。

 『男子の本懐』、ぜひ読んでみてください。


本の長さ:480ページ
出版社:新潮社
発売日:1983/11/25
ISBN-10:4101133158

 

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