相次ぐ募集停止、定員充足率の急速な悪化――未曽有の危機が訪れている私立大。しかし、その危機はすでに予測されていたはず…。では、特別部会の使命とは
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新シリーズは、主幹研究員の奥村直生が文部科学省中央教育審議会の大学分科会で現在審議進行中の「高等教育の在り方に関する特別部会」を追いかけます。
※「中央教育審議会」については、小学校教員のための教育情報メディア「みんなの教育技術」by小学館にて詳しくご紹介されています。
この特別部会で挙がる数々のテーマや議論の方向性は、日本の高等教育の未来に多大な影響を及ぼすものであり、大学をとりまく全ての関係者にぜひ注目していただきたいのです。
そのため、特別部会の審議がひと段落するところまでお伝えしてまいります。
激辛の語り口になるかもしれませんが、核心に迫っていきたいと思いますので、皆さまどうぞシリーズの最後までお付き合いください。
――“待ったなし”の苦境
このところ、私立大学における学生募集の惨状が、にわかにクローズアップされ、徐々に世間の注目を集めるようになってきています。
昨年の恵泉女学園大(東京都)、神戸海星女子学院大(兵庫県)、今年に入ってからは高岡法科大(富山県)、そして、短期大学でも続々募集停止が発表されています。
2023 年度の入学者募集において、私立大学の53%が入学定員割れに陥ったことを日本私立学校振興・共済事業団が発表し、メディアでも大々的に取り上げられたことは記憶に新しいところです。
私ども代ゼミ教育総研でも、私立大の募集停止に関連したレポートや、収容定員の充足率悪化についての分析レポートを発信しました。
2024 年度の学生募集によって定員充足率がどうなったのかについては、まだ全容が明らかになっていませんが、18 歳人口減少が進行しているなか、一段と厳しい状況に追い込まれる私立大学が増えることはほぼ間違いないところでしょう。
私立大学にとっては、まさに待ったなし、の切羽詰まった状況なのです。
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――18歳人口の減少は急に始まったのではない!
では、なぜ、このようなひどい状況になってしまったのでしょうか。
もちろんこうなった主たる原因は、入学者のメインである “18 歳の人口減少”にあるというのは、どなたも認めるところでしょう。
でも、考えてみれば、そもそも 18 歳人口が減るということは、(少々皮肉を込めて申し上げるならば)少なくとも 18 年前、あるいはもっともっと前からわかっていたのです!
急に今、始まった話ではないのです。
つまり、現在危機的状況だ、と世間を賑わせていますが、
なるべくしてなった予定通りの“危機”なのではないでしょうか。
では、なぜこうなるまで、放っておかれたのか?
なぜ、未然に防げなかったのか?
あるいは、
なぜ、危機を防ぐべく、然るべき人たちや組織が、動かなかったのか?
それとも、動けなかったのか?
逆に、単に読みが甘かっただけなのか・・・
そうした、いくつもの疑問が沸々と湧いてくるのです。
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――危機、そして、そこに至った背景
この連載シリーズのタイトルを「私立大学の本当の“危機”とは」としたのは、人口減少に端を発する私大の危機そのもの、そして、そこに至った背景には何があるのか、言い換えれば“危機”の本質は何なのか、を探ってみたい、という意味を込めています。
私立大学が我が国の将来にとって、本当になくてはならない存在であるのならば、存続し続けるために何が問題になっているのか、何をすべきなのかーー
そうしたことを考える上で、参考になる重要会議がちょうど現在、中央教育審議会(以下、中教審)の方で行われています。
中教審・大学分科会の下に置かれた「高等教育の在り方に関する特別部会」(以下、特別部会)。
この特別部会で、未曾有の危機に直面した大学の将来の在り方はどうあるべきか、という喫緊の問題をテーマに、有識者の方々が集中審議を重ねています。われわれはそこでの議論を横からウォッチしながら、私立大学における危機を考えてまいりたいと思います。
私立大の行方はどのように議論されていくのか?
私立大の未来はどうなっていくのか?
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――国立大学費値上げ論ばかりに注目!?
実は、現在、国立大学の学費を値上げすべきか、について大きな論争が沸き起こっています。事の発端となった慶應義塾大学の伊藤塾長による国立大学の学費の値上げ論は、3 月 27 日に行われたこの特別部会で発言されたものなのです。
この国立大学費値上げ論は、その後、東京大学が来年度からの学費値上げを検討しているとの報道、さらに国立大学協会による「もう、限界です」との声明も加わり、大きく世間を騒がせているわけです。
<令和6年6月7日一般社団法人国立大学協会理事会>
国立大学協会声明——我が国の輝ける未来のために――
特別部会は、こちらの国立大学費値上げ論ばかりがやたらに目立っている感もありますね。この伊藤塾長の提案には、歴史的観点で見ると奥深いメッセージが潜んでいて大変興味深いのですが、これについては後日あらためて触れることにして、この特別部会が突如、設置されることになった経緯を簡単に見ておきましょう。
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――「急速」な少子化がきっかけ
これは、昨年(令和5年)9 月 25 日に、盛山文部科学大臣が中教審に対して「急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について」という諮問を提出したことから始まっているのです。
<文部科学大臣より中教審への諮問 令和 5 年 9 月 25 日>
急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について
諮問が行われた時期は、冒頭申し上げた通り、私立大学・短大の募集停止ラッシュが始まり、定員充足率の悪化が顕著になってきた時期と重なるのです。
諮問のタイトルにあるように、「急速」な少子化が特別部会の設置のきかっけであることがわかります。
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――急遽、設けられた「特別」部会
少子化の時代にあることは誰でもわかっていたはずですが、「急速」とついたのは、想像以上にその勢いに衝撃を受けた、というニュアンスが伝わってきますね。
つまり想定外だった、ということを認めているわけです。
文科省としては、18 歳人口の減少によりここまで甚大な影響が出ることを想定していなかった・・・そこで、緊急で何とかしなければいけない、という話になり、急遽設けられた。
だから、「特別」部会なのですね。
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――質の向上が中心だった「グランドデザイン答申」
諮問の文面にもありますように、文部科学省は、2018 年の中教審による「2040 年に向けた高等教育のグランドデザイン答申」に基づき、学修者本位の教育への転換や教学マネジメント指針の策定や大学設置基準等の改正等、高等教育の質を高めるための取組を行ってきた、とのことです。
つまり、“質向上”については様々な取り組みを行った、というわけです。
逆に言うと、定員割れや充足率の悪化により、大学そのものが立ち行かなくなる、という非常事態は、その時点では、“そこまで“想定していなかった、ということになります。
ですから、特別部会では、18 歳人口減少を中心とした状況の大きな変化に対応した新たなミッションに対しての、方向性を見出す、ということが課せられたというわけです。
次回からは、特別部会に課せられた宿題に対して、どのような成果が上がっているのか、具体的な審議内容をフォローしながら確認してまいりたいと思います。
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