[詩] 野良猫
朝、鏡を見ると
黒い猫と目が合った。
猫は静かに
僕と僕の間を
何食わぬ顔して通り過ぎた。
余りに警戒しないので
悪戯に水をかけたら
猫は色を失ってしまった
大学に行くため
僕はバイクに乗る
冬場はエンジンのかかりが悪い
時の経過が暖気を奪うためである。
大学に着くまでに
僕は4回
猫を撥ねた。
どの猫もケタケタと嗤っており
縁石を枕にして
そのまま眠りについたようだ。
大学に着いた僕は
自販機で水を買った。
ついてきた猫に分け与えることを考えて
硬貨を一枚
余分に捨てた。
単調なノートの隅で
猫が徘徊している
鼻歌なぞを携えて
随分と楽しげな様子だ。
窓の方に目をやると
折り重なった建築と樹冠の隙間から
少しだけ空が見えた
雲一つ無いのに
やけに奥行きがハッキリしている。
僕が座る位置から少し離れたところで
僕の猫が誰かと会話している。
どうやら僕の話をしているようだった。
彼等の視線がこっちに向きそうだったので
僕は逃げるように教室を後にした。
ヘッドライトに晒されて
僕は影を吐き出した
影はぐるぐると僕の周りを周回した後に
小さな分身を残して
また足元へと帰っていった
残された分身は黒くて小さな猫となり
僕はそいつを雑木林まで見送ることにした。
別れ際に
猫は僕を見据えて「捨てる気なの?」と聞いた。
「鬱陶しいから」と答えると
「人付き合いって難しい」と言った。
「人付き合いとかやめときな。人じゃないんだから。」
僕はそのまま帰路についた。
風呂に入った後
煙草を吸いにベランダに出ると
猫が待っていた
「ただいま」と言うので
僕は「おかえり」と言った。
僕は集中力が無いです。
事あるごとに僕の作業を邪魔してくる「不毛な空想」を,鬱陶しく思う一方で,どこか放っておけない。
そんな感情を書いたつもりです。
因みに,この詩の少しストーリー仕立てな所は,マーサ・ナカムラさんの詩に影響を受けています。
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