シェア
すっとこどっこい丸
2022年5月19日 02:00
赤坂駅で他人の不幸自慢を一通り聞いて僕は電車に飛び乗った静止から抜け出す車内で僕の意識は足元を貫通し線路上にある己の肉片に手を伸ばした。かつての肌色は内側から押し寄せた赤と混じり合いかつての体温は摩擦熱と鉄の冷たさに上書きされかつての輪郭は内部から荒々しく食い破られた。継ぎ目と呼ぶにはいささか乱暴な断面から微かに漏れ出すものは身体の内側に溜め込んでいた生命活動の名残
2022年5月7日 01:55
「何ソレ。マジウケる!!」アニメや漫画でしか聞いたことのない表現を忠実に再現する存在。その軽い言葉に少し怯んだ僕は,彼女たちの言葉が何でできているのか知りたくなった。僕の言葉は、小説と、詩と、少しの映画と、懐かしい音楽でできている。彼女たちの言葉は、きっと、他の誰かの言葉でできている。会話から会話を生み出すことが苦手な僕は、彼女たちが使う言葉を使いこなすことが出来ない。彼女たちの
2022年5月6日 00:25
『ちょっといいかな?』或る夕暮れ頭髪の紅い紳士が僕を呼び止めた紅髪の紳士など居るハズがない。けど僕には紳士と呼ぶ以外にその男の気品を巧く表すことができなかった。『ちょっと街まで行きたいんだ』紳士がそう言うので僕は彼を街まで送り届けることにした。この紳士の言う街とは、どのような場所を示しているのだろうか。それは頭の悪い僕には難しすぎる問答でだから僕たちは馬鹿みたいに道
2022年5月1日 13:53
活力に満ちた教授を尻目に僕は時計を見ていた。時計の意識はどこにあるのだろう。長針か、短針か。歯車か、文字盤か。電池だろうか。それとも、設計図だろうか。その機構を理解することができない愚かな僕には彼の活動を急かすことも疑うことも許されていない。何やら難しい話をしている教授は希望に満ちた優しい言葉を最後に添えた。僕らくらいの若造には丁度いい美談だった。顔を動か
2022年5月1日 02:43
車内は怪物の腹の中みたいに沢山の人が詰め込まれていた。そういう日に限って、電車は活発に振動する。その振動に同調した僕の肘が目の前の男の背中に当たった。男はこの窮屈な車内で、わざわざ振り返って僕を睨みつけた。その男ときたら、服もズボンも、バッグも靴も、全部青色だった。マスクまで青かったな。青く無い所といえば、髪の毛と肌くらい。つまり、持って産まれた部分以外はゼンブ青で統一していた