マガジンのカバー画像

珠玉集

729
心の琴線が震えた記事
運営しているクリエイター

#文章を書く

掌編: 霧にいた二十年

 霧の朝を車内で迎えた。 二十年記念日は雲海を見ながら過ごしたい、 そんな夫の要望で日付が変わる頃には家を出て、車内で眠っていた。  目覚めると辺りは霧の中。ほんの数メートル先が幕を張ったように不透明。対向車のヘッドライトも白味がかってマイルドな光を射す。 めくる風景は山林で、枝がない真っ直ぐな杉が整然と緑を成していた。 「もうすぐ着きますよ」  夫は正面を見たまま、私の起きた気配で声をかける。 「山ってもっと鬱蒼としているかと思いました」 ドリンクホルダーから取るミルク

正直、創作に嫌気がした人へ

 頭や理屈で判っていても、 心が受け入れないときがある。  なんの慰めにもならないけど、 気分が換気できればと思い、書いてみる。  わたしはコロナ禍にある頃、 二軒のクラブから雇われママとしてスカウトされた。理由は聞いてない。聞いても忘れた。  その頃は皆さまもご存知のように、飲食店は大打撃に遭う最中。 「いつまでも世間は閉じてない。 やがて再開する日が来るので、そのときにお願いしたい」とのことだった。  雇われが付いても、ママ。 一体どんな仕事で、なにを、と実社会

【閲覧注意】ブスの受難

ブスに生まれると大変なんですよ 皆さま、ご存知でしたか? この、わたしが身をもって ブスの受難を説明しますね まずね、生まれた時から可愛い写真がないの 笑っているし、幸せそうですが 顔が残念で、服だけ際立つんですわ 制服は可愛かったんです ですが、なにせ顔がね 青春時代を送っても、ブスはモテません こんなブスに欲情する人はいません ブスですから 性格の悪さは顔に出ると決めつけられます わたしから言わせれば ブスをよりブスにしてるのはどう考えても周りの 人間で、物

短編: 理想と生きる体感

 木の実と葉っぱをお土産にし、食べずに飾っておくことにした。    飼い主のタツジュンとハムスターの僕は、秋の暖かな日差しの中、田舎へ向かった。  都会の喧騒を離れ、自然の息吹を感じる瞬間、心が解き放たれるようだった。  車窓から見える緑は絵画のように美しい。  田んぼに到着し、畦道で遊んでいると、 僕はリスたちに出会った。  最初は警戒していた彼らは、僕が持っていたドライマンゴーに興味を示し、徐々に近づいてきた。  リスの目は好奇心に満ち、僕は彼らにそれを差し出す。

短編: 僕が田んぼに来て思うこと

 金色に錘が付いているような、 僕は初めてお米の実を見た。 野原と同じ匂いがして、風は吹いても音がない。 「これがご飯になるの?」  ハムスターの僕は、穂の中へ白い粒があるぐらいにしか考えてなかった。 「そうそう、脱穀して玄米から更に白米にして」  飼い主のタツジュンは人間だから普通のことでも、僕には意味が分からない。  ダッコク、ゲンマイ、ハクマイ。金色の粒には過程があるのだけは承知した。 「ねぇ。田んぼってどうなってるか、見ていい?」  畦道に下ろしてもらった僕は、

短編: ももまろの『アリとキリギリス②』

←前編  私はてんとう虫。  アリやキリギリスとも良好な関係を保ちながら野原で生活しているつもり。 しかしアリのキリギリスへ示した態度に幻滅した。  アリは勤勉よ。仲間で女王アリを支えているのは野原の住民なら理解している。 私たちはアリへ口出しをしない。 アリの生き方だもの。  私が思うのは、キリギリスは怠け者と悪口を言われたけど、キリギリスは3〜4ヶ月しか生きられない。  あの音色だって、生まれつき出せる音ではなく、苦しい身体の変化を何度も繰り返し、やがて演奏ができ

ももまろの 『アリとキリギリス』

 秋も深まり、キリギリスは演奏を止め、どこか日の当たる場所が近くにないか探していました。  重い身体で足取りも危うげなキリギリスは目を閉じて休憩していると、大量のアリに囲まれ、 キリギリスには心当たりのない悪口を言われます。 「キリギリスは我々にエサを求めるな!」 「夏の間、遊んでんじゃないよ!」  アリはキリギリスが無抵抗なのを良いことに、様々な悪口を言い出します。 そして、 いかにアリは勤勉で優れているか語り始めます。  キリギリスは仲間の、冬眠できるクビギリスか

短編: 紙の黒い付箋

 この付箋を貼れば必ず不幸になる。 手元にある黒の付箋は減ることがなく、悪魔は気まぐれにすれ違う人の背中へ貼っていく。  悪魔は人間だった頃、無関心な社会に見捨てられ、孤独と絶望で腐り果てたのち、他者の不幸を楽しむようになった。  朝の混み合う駅で、傘を真横に持つ男の背中に貼りつけたり、長蛇の列に割り込む女へ貼ったり、なるべく悪魔は罪悪感のないよう、人としてどうかと思う人間に付箋を貼る。  悪魔は付箋を貼った人の未来まで見越せない。 紙の付箋だからいつまでも背中に着いて

愛や哀しみ、つながりを示すもの

風の色合いを思い浮かべると、 毎年花粉の時期に訪れる黄色の濃淡が目に浮かぶ。 2月になると森を囲むようにその色が帯となり、 自然がわたし達に警告を発しているかのようだ。 天気予報を見れば、眼球は刺すような痛みが募り、 「ゴールデンウィークまで続くのか」 不安がよぎる。 今では一年中、花粉症に取り憑かれ、 風が吹くたびに気管支へ色合いを感じる。 強風が吹く日、 雨が同じ方向へ流れる様子を眺めるのは、 子どもの頃から好きだった。 戸籍上、2歳だった。 叔母が膵臓がんで亡く

短編: 好きになってもらうこと

 懐かしい校舎の窓枠には、鉄筋が交差するバツ印が目につき、耐震構造になっている。    まるで人が生きていく間に身につけた教訓や知恵が具現化したようだ。 性格そのものは変わらないと言われても、やはり微々たるモデルチェンジをしているのではないだろうか。  二十年ぶりに帰った故郷。子どもの頃、友達と遊んだ空き家は、今も変わらず蔦に包まれていた。  どんぐりの木はやたらと大きくなり、当時は空き家の中で持ち寄ったマンガを読んでは、秘密基地を持つ優越感に浸っていた。  黄色い日差し

わたしの目線で語ります

センシティブな内容ですので ご覧いただくにあたり 自己責任でお願いいたします わたしが書くものは非常にデリケートであり ですが、デリカシーはないです いちいち警告や注意書きをしなくとも 「ももまろはそういったキャラクターだ」と 認識していただけると幸甚に存じます 『源氏物語』はエロティックであり 『平山夢明』はグロテスク 石原慎太郎や夢野久作に警戒心を抱く人もいるでしょうが、わたしは彼らと同じく自身の記事へR指定を入れるつもりはありません 日常生活では、親切に 「これ

人間関係と自己探求の狭間で

わたしは挫けながら生きている ビジネスの場では虚勢を張り、鋼のメンタルに変身する二重人格の持ち主でも 振り返ると仕事では多くの人と関わり コンプライアンス部門も兼任していたため 業務に関するトラブルを解決することが多く 毎日のように残業が続いていた その結果 ストレスから逃れにくい環境にいたが 当時の悩みは今より少なかったように思う 意地悪な先輩を除けば、人間関係は良好で 他人に振り回されることも少なかった 自己中心的だった私は 常に自分自身をライバル視し 負けたくな

簡単に粉砕しがちな心

流れ星に自分の願いをかけることはなかった 動体視力が良いせいか 流れ星を見つけるのが得意だった まだ視力が良かった頃 数人で流星群を見に行った際 私だけが次々と流れ星を指差し 「流れ星名人」と呼ばれた しかし、一度も自分の願いを呟いたことはない チカッと光る流れ星が 大きな弧を描くのに、声が出せない 人の幸運を願うのだから 本気を出していないと疑われそうだが 私は本気で呟いていた 次に流れ星を見たら 自分自身の願いを言おうと決めた 自己憐憫に囲まれた自分を解放したい

ひとめぼれしたワードだよん

noteでスタエフが流行っているとかいないとか