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短編 第二集

40
日常の隙間に入り込む、切なくも儚い存在
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#小説

種を飛ばす日 #シロクマ文芸部

 星が降るという重大発表に人々は恐れ慄いた。遠くに流星群を眺めるくらいなら綺麗で済むが、…

吉穂みらい
1か月前
68

おしくらまんじゅう #シロクマ文芸部

 冬の夜気はきんと音がしそうなほどに冷えていた。  昼は晴れていたが、午後三時過ぎにみぞ…

吉穂みらい
2か月前
66

朝霧の怪 #シロクマ文芸部

 霧の朝駆けは馬も嫌がる。  夜半に冷え込んだ街道は朝方には濃霧に包まれていた。視界を遮…

吉穂みらい
3か月前
58

本日は晴天なり #シロクマ文芸部

 「秋」と「本日は晴天なり」、どちらを選びますかと男は言った。  その男に会ったのは去年…

吉穂みらい
3か月前
72

紙一重

 厄介な感情を持て余したまま右手を吊革にぶら下げていた。とっぷりと更けた夜の中を行く電車…

吉穂みらい
4か月前
108

童謡少女 #シロクマ文芸部

 夕焼けは晴れ朝焼けは雨。  これ、ことわざなんだってと、万葉は言った。  へえ。じゃあ明…

吉穂みらい
4か月前
79

遠ざかる星

 電話の声は、確かに遠ざかっているのだ。  毎日話していたら気が付かないくらいの速度で。  星と星が離れていくように、互いが少しずつ離れいずれ小さくなっていく。日増しにそんな寂しさを感じている。一日に一センチずつ離れたら、一年で三メートル以上離れる。おそらく十年前は、一日に一ミリ程度だった。  それが今はどうだ。時に加速がついている。  いつまでも一緒にいられないことは最初から分かっていた。この世に生を受けてから何もかもが瞬きする間に通り過ぎていく。まるで明日が来るのが当たり

風の色鉛筆

 「風の色鉛筆」というフォークグループとして、三人で活動していたことがある。当時はフォー…

吉穂みらい
5か月前
83

Luna☽ #シロクマ文芸部

 「月」の色恋沙汰は、もう聞きたくない。  そう思って決意した。  「月」の、癖もなくす…

吉穂みらい
5か月前
63

のうぜんかつら #シロクマ文芸部

 懐かしい痛みだわずっと前に忘れていた  頭の中で松田聖子の声で再生された『SWEET MEMORI…

吉穂みらい
5か月前
96

アジール #シロクマ文芸部

 レモンから揚げ、と私は言った。  レモンから揚げ?と、夫がリピートし、語尾を上げる。 「…

吉穂みらい
5か月前
73

うどん記念日【#白4企画応募】

 うどんが食べたいときみが言ったから今日はうどん記念日、というわけではないけれど、突如う…

吉穂みらい
6か月前
94

ラムネのオトヤ #シロクマ文芸部

 ラムネの音弥、知っとるか、とオッサンは言った。  オッサンというのは、別にぼくの叔父さ…

吉穂みらい
8か月前
42

紫陽花をんな無限ループ #シロクマ文芸部

 紫陽花女がいる、という噂が、どこからともなく広がった。  昭和の口裂け女のことは、子供のころ見たオカルト系のバラエティでだいたい知っているが、紫陽花女なんて初めて聞いた。  紫陽花女は6月の雨の日、一眼レフのデジタルカメラを携えて現れるという。割とカジュアルな格好で、バックパックを背負っていて、足元はスニーカーで、軽快な足取りで寺社の階段を昇り降りしては、紫陽花の写真を何枚も何枚も撮るのだという。   それだけなら別に害がないではないかという人があるが、もちろん噂が立つほど