シェア
星が降るという重大発表に人々は恐れ慄いた。遠くに流星群を眺めるくらいなら綺麗で済むが、…
冬の夜気はきんと音がしそうなほどに冷えていた。 昼は晴れていたが、午後三時過ぎにみぞ…
霧の朝駆けは馬も嫌がる。 夜半に冷え込んだ街道は朝方には濃霧に包まれていた。視界を遮…
「秋」と「本日は晴天なり」、どちらを選びますかと男は言った。 その男に会ったのは去年…
厄介な感情を持て余したまま右手を吊革にぶら下げていた。とっぷりと更けた夜の中を行く電車…
夕焼けは晴れ朝焼けは雨。 これ、ことわざなんだってと、万葉は言った。 へえ。じゃあ明…
電話の声は、確かに遠ざかっているのだ。 毎日話していたら気が付かないくらいの速度で。 星と星が離れていくように、互いが少しずつ離れいずれ小さくなっていく。日増しにそんな寂しさを感じている。一日に一センチずつ離れたら、一年で三メートル以上離れる。おそらく十年前は、一日に一ミリ程度だった。 それが今はどうだ。時に加速がついている。 いつまでも一緒にいられないことは最初から分かっていた。この世に生を受けてから何もかもが瞬きする間に通り過ぎていく。まるで明日が来るのが当たり
「風の色鉛筆」というフォークグループとして、三人で活動していたことがある。当時はフォー…
「月」の色恋沙汰は、もう聞きたくない。 そう思って決意した。 「月」の、癖もなくす…
懐かしい痛みだわずっと前に忘れていた 頭の中で松田聖子の声で再生された『SWEET MEMORI…
レモンから揚げ、と私は言った。 レモンから揚げ?と、夫がリピートし、語尾を上げる。 「…
うどんが食べたいときみが言ったから今日はうどん記念日、というわけではないけれど、突如う…
ラムネの音弥、知っとるか、とオッサンは言った。 オッサンというのは、別にぼくの叔父さ…
紫陽花女がいる、という噂が、どこからともなく広がった。 昭和の口裂け女のことは、子供のころ見たオカルト系のバラエティでだいたい知っているが、紫陽花女なんて初めて聞いた。 紫陽花女は6月の雨の日、一眼レフのデジタルカメラを携えて現れるという。割とカジュアルな格好で、バックパックを背負っていて、足元はスニーカーで、軽快な足取りで寺社の階段を昇り降りしては、紫陽花の写真を何枚も何枚も撮るのだという。 それだけなら別に害がないではないかという人があるが、もちろん噂が立つほど