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読書感想 三島由紀夫 「潮騒」

 青春小説の金字塔と言われ、映画化も度々されたタイトル、また三島由紀夫の書籍は文庫だけでも2400万部以上を販売している中で、発行部数は1位の金閣寺に次ぐ2位がこの潮騒となっております。
初版は昭和29年6月10日新潮社より刊行
また、隠れたエピソードとして、三島本人はこの書籍が売れた事にショックを受けたという作品で、そちらに関しては後程ご説明させて頂きます。

新潮文庫異装版

舞台は三重県の伊勢湾に位置する歌島という社会から隔離された様な漁村での話し。この島は現在は神島という名前で、三島自身が泊まり込みでロケハンをして執筆しました。

あらすじ
漁師をしている新治と、事情により島に戻ってきた初江。若い二人の純朴な恋愛を、美しい島の情景と共に描いた青春小説。

舞台となった実際の神島

ポイント
①三島由紀夫作品の中で潮騒が唯一ほぼ全編ひとつの島内の描写である事と、最も解りやすい「美しい作品」と言える一冊です。
②作中に描かれる島内の各描写が実際に存在していて、三島の美しい文章での表現と実際の写真を見比べて、改めて美文さを楽しむ事が出来る。
③どろどろした部分や、醜悪な人間が基本的に登場せず、悲惨な場面や、死などの描写も無く、シンプルに言うと、終始「綺麗」な物語である事。

そして、終始綺麗過ぎる物語だからこそ、三島自身としては他のテキストと比べれば、いろいろな意味で深みを考えた時に、削いで表面的なものをあえて書いた物語であって、そういったところが、こんなに売れるとは、という思いに至らせたのでしょう。
しかし、ヒット作というものは得てしてそうやって生まれるものなのかもしれませんね。

そして、
ラストの一行だけ、最後の最後。
三島らしさが表れて、最高の終わり方をします。

 天才三島由紀夫本人がどう思ったとしても、この作品は紛れもなく名作で、これ以上の青春小説を私は他に知りません。

フランスの作家マルグリット・ユルスナールの批評を最後に引用させて頂きます。

三島の「黒い傑作」が『仮面の告白』、「赤い傑作」が『金閣寺』とすれば、『潮騒』は「透明な傑作」、それは「一般に作家がその生涯に一度しか書けないような、幸福な書物の一つ」である。

透明な傑作
三島由紀夫 「潮騒」

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