葉隠れ書房

古書店「ビブリアの部屋 葉隠れ書房」店主 茅ヶ崎市菱沼一丁目 主に純文学を取り扱っています。 本にまつわる話しと自筆の短編などを掲載しています。 三島由紀夫生誕100周年の為、取材依頼を頂く事が増えてきました。 私のFacebookMessengerかLINEにてご連絡下さい。

葉隠れ書房

古書店「ビブリアの部屋 葉隠れ書房」店主 茅ヶ崎市菱沼一丁目 主に純文学を取り扱っています。 本にまつわる話しと自筆の短編などを掲載しています。 三島由紀夫生誕100周年の為、取材依頼を頂く事が増えてきました。 私のFacebookMessengerかLINEにてご連絡下さい。

最近の記事

自筆短編 「テラス3番席の彼」

テラス3番席の彼 石畳にレンガの建物が並ぶ通りにあるその店は、 小さな赤い絨毯の敷かれたステージがあった。 そこにはグランドピアノが置かれている。 珈琲の香りと煙草の煙。 そして奏者の弾くカーペンターズのclose to youがゆったりとした時の中で流れている。 ウエイトレスの咲希はテラス席の客をみている。 同僚が声をかける。 「テラス3番さんまた来てるわね。あなたのお気に入りの」 咲希は作り笑いだけを返して、また仕事に戻った。 その客はベージュのコートに紺色のマフラーを

    • 「令和黒蜥蜴」後日憚

      令和黒蜥蜴          後日憚 先代の黒蜥蜴が炎と共に空へと昇っていった。 その数日後。 葉隠れ書房の店主はいつもの様に店に来ると、 扉の前に段ボールが置かれていた。 何も頼んではいないはずなので不思議に思いながらもそのまま店先で開けてみたところ、 そこには江戸川乱歩全集がぴっしりと収められていて、さらに不思議に思った。 その本の上に一枚のレター用紙が添えられている事に気づいて、手に取ってみる。 私の愛する素敵な古書店の貴方へ 「突然のお手紙失礼致します。私ちょっ

      • 「令和黒蜥蜴」あとがき

        脱稿しました~。 自身のnote一覧を見返したら11日間で、 「令和黒蜥蜴」1.2.3と外伝的な4、そして最終回の5と、割りと一気に書いていた事に気づきました。 全部いつも通りに短めの短編ですが、初の連作にチャレンジしてみて、なかなか文章を書くお勉強になったなと感じてます。 そしてこのあとがきを書いている時は本編とは違い随分と気が楽なものだなと思うものですね。 今回はテーマが「黒蜥蜴」という事で、言わずと知れた江戸川乱歩の名作小説にして三島由紀夫が戯曲化し、美輪明宏が長年演じ

        • 自筆連載 「令和黒蜥蜴」5終章

          令和黒蜥蜴-幻の跡- それからも黒蜥蜴一味は引き続き表のビジネスを行いつつも、本来の生業である悪事も共により一層精力的に動き廻った。 至高の宝石を盗みに海外へ渡る事もここ数年で何度もあった。 他にも現金を強奪したり、詐欺を働いたりと種々様々な悪事を行ってゆく中で、 美岐はとても良く働いた。 時には黒蜥蜴の代わりを務めるほどの役割を与えられてもそれを純然とやり遂げる姿は、主である黒蜥蜴も舌を巻く程であった。 そして何より彼女は美しかった。 例の狂乱のナイトショー。 それに二

          筆休めに 「黒蜥蜴の休日」4

          黒蜥蜴 葉隠れ書房に行く 黒蜥蜴行きつけの洋服の仕立屋が横浜にあり、その店の帰り道の車内。 いつもの様にリムジンの後部座席に座る黒蜥蜴。そこからN県の邸宅へ帰る道中であった。 運転手が珍しくこんな事を言ってきた。 「黒蜥蜴様。ここから10分程行ったところに葉隠れ書房という最近開業した古書店がございます」 黒蜥蜴はこう返事をした。 「新しい古書店?最近は閉店の記事ばかりの中珍しいわね」 「はい。なんでも三島由紀夫に特化した古書店だそうでして、様々な媒体で記事が出ております」

          筆休めに 「黒蜥蜴の休日」4

          自筆連載 「令和黒蜥蜴」3

          令和黒蜥蜴三幕-誕生- 夜中にリムジンの車内。 女性歌劇団の男役の様な凛々しく精悍なスリーピースのダークスーツの男と、ぼさぼさの髪によれたシャツにメガネの女。 この不釣り合いな二人が、並んで後部座席に座っている。 しかも車内で美岐はマスクを被っている為、一体どこを走っているのか全く検討がつかない。 黒蜥蜴は隣でどこかへ電話をかけている。 「貴方今お電話宜しい?、ええ、今夜は駄目よ、今とっても楽しいデート中。いいわ、近いうちにね。それでね、替え玉のやつをまたお願いしたいの、い

          自筆連載 「令和黒蜥蜴」3

          自筆連載 「令和黒蜥蜴」2

          令和黒蜥蜴二幕-狂乱と闇への誘い- 都内某所 ライブハウスにて 暗がりの中青や紫の照明が回る様に当たっていて、300人程が蠢き、踊り、歌っている。 ステージでは流行りのDJがターンテーブルを操りながらその群衆を煽っている。 その後は女のジャズシンガーが現れて演奏に合わせて伸びやかに歌う。 酒を飲み、絡み合う男と女、立ち見やソファー席やカウンターと奇妙に入り乱れた広いフロアは熱を帯びていく。  時刻は24時を過ぎる頃、 おそらく最後の余興、この集まりの最後の、最高潮にして終わ

          自筆連載 「令和黒蜥蜴」2

          自筆連載 「令和黒蜥蜴」1

          令和黒蜥蜴 一幕 ここはY県某所の湖畔に立つコテージ。 最近流行りの近隣の民家から距離を取った、占有地の小路を入った先に佇む一棟貸切の建物。 森の静寂の中一軒ぽつりと灯りが煌々と光っている。 見上げると光る砂を散らした様な一面の星空。 都会のそれとは全く違う輝く夜空だった。 コテージの前に広い芝庭がありいくつかの木々に吊るされた照明が辺りを明るくさせている。 そこで若い男女のグループがバーベキューに興じていた。 コンロに付いて立ち焼き物を皿に盛り仲間に手渡している者や、談笑

          自筆連載 「令和黒蜥蜴」1

          自筆短編 「砂に埋もれた神話」

          砂に埋もれた神話 考古学の権威である中原重六さんは私の父方のおじいちゃんの兄にあたる大叔父で、私が幼い頃に何度か重六さんのおうちに行った事があった。 重六さんの家は伊豆高原にあって、私達は東京から車で向かう道中の海沿いの道が大変気持ち良く感じたのを覚えている。 私の記憶では8歳の頃と12歳の時で二度ここに来ている。 重六さんは以前は都内で大学の客員教授をされていたり学会や研究で伊豆の自宅にはほとんど帰らず生活をしていたので私達の家へは時々きていました。よく遊んでくれたり話し

          自筆短編 「砂に埋もれた神話」

          自筆短編 「二階堂の幻 序章」

          二階堂の幻 序章 目の前に浮かぶ光の球体。 僕はそれを追い、そして手を伸ばす。 拳を何度握ってもそれを掴む事が出来ない。 それは幼い頃は夢にみていた。 朝起きると自分の掌を広げてみる。 そこに光はなかった。 それから、叶えられた物事があった時、 叶えられず泣いた時、 同じ夢をみたんだ。 それがいつしか寝ている時ではなく、 生活の中でフラッシュバックの様な感覚であの情景が、光に手を伸ばし、掴もうとして掴めない、 その映像が突然浮かぶ様になったのはいつからだろう。 人の醜さ

          自筆短編 「二階堂の幻 序章」

          人間考察 「言葉と肉体」

          言葉と肉体 ある作家が度々この言葉を口にしていた。 それは「言葉と肉体」 その作家は、私は言葉が先に来て、後から肉体が来た。そう言っていた。 私の場合は肉体が先に来た。 少年時代から運動をして過ごしてきて、後から言葉が入ってきたのだと思う。 最近事情があり毎日いわゆる肉体労働をして日々を過ごしていると、言葉が置き去りになっている様に感じる。 以前ほど言葉がすらすら出てこなくなるのを実感する。 この、ある作家は、言葉の後に肉体を手に入れた後はすぐに世を去った。 私が問いたい事

          人間考察 「言葉と肉体」

          自筆短編 「恋の疾走」

           恋の疾走 あれは眩しい陽射しのもと、 駆け抜けた若い日の、輝きに満ちた一日だった。 全寮制の高校、隔離された生活。 毎日ひたむきに日々を生きていた。 そして、僕は恋をした。 その恋は苦しかった。 数日二人で過ごした後は、数えきれない程の手紙を送り合った。 ある日あの子への手紙に、 「会いにゆくよ」 そう書いた。 僕は夜中、全てが寝静まった後に、 窓から飛び降りて、山の中をひた走った。 あの子の姿を追いかけて山の中を走り、 舗装された道に出てからもひたすら走り続けた。

          自筆短編 「恋の疾走」

          自筆短編 「姥捨山の健」

          姥捨山の健(たける) 健がここにきたのは四年前 昭和十八年 父が他界して、母親が新しい男を家に連れてきた。 その男が僕に日増しに暴力を振るう様になってきて、包丁を突きつけられた時に、もうここを出ようと、そう思った。 それは十三歳の時だった。 蓄えを引き出しにかくしていたのを知っていたので、そのお金を少し盗んで家を出た。 僕は電車で一時間先にある仲の良かった従兄弟の家へ向かった。 初めは叔父さんと叔母さんも事情を話すと優しく迎えいれてくれたが、三日目の夜、電話で誰かと喧

          自筆短編 「姥捨山の健」

          さよなら 「修ちゃん」

           修ちゃんとの出会いは、私の会社がラーメン店の4軒目の出店に際して求人を出した時に応募をしてきてくれたのがきっかけでした。  面接の時に彼は鬱病でありアルコール中毒で、しばらく通院していて、そろそろ立ち直ってきたので、工場の派遣アルバイトを辞めて、以前は8年程働いていたラーメン業界に戻りたいとの事でうちに応募をしてきた面接が始まりだった。 私は、正直なところ、優秀とは思えなかったが、彼に純粋さを感じて採用した。 勤務が始まってからも、要領が悪く、作業も遅く、物覚えも悪かったが

          さよなら 「修ちゃん」

          自筆短編 「丘の上の少年」

          丘の上の少年 僕はいつもこの丘から、未来とか、世界とか、 そんな知らないものを眺めていた。 僕がこのサナトリウムにきたのはまだもう少し小さい時だった。 昭和20年 今日8月5日で15歳になった。 小さなお菓子にロウソクを立てて、 サナトリウムの人達が祝ってくれた。 ここには図書室があって、 本がたくさんあるので、 僕は毎日本を読んで暮らしている。 僕のお気に入りはトーマスマンの「魔の山」だ。 僕もいつかここを降りてハンスと同じ様に戦争に行くのだろうか?そんな事を考えたり

          自筆短編 「丘の上の少年」

          息抜きに 「続 軟禁古書店」

           続 軟禁古書店  茅ヶ崎の住宅街に、 ひっそりと佇む「葉隠れ書房」 ここに入り、本を読み始めると、 それを読み終わるまで軟禁されるという。 いや、監禁されるという。 そんな不思議な古書店があった。 ここは茅ヶ崎市菱沼一丁目。 店内にて、夜21時を回った頃。 まだ店の明かりは灯っており、テーブルで読書をしている女子大生がいる。 園子は本を置き、 「あの、私そろそろ帰らないと親が心配すると思うんですけど。」 カウンターに座る店主横田も一度本を閉じて、 「たしかに、女

          息抜きに 「続 軟禁古書店」