話し言葉は関西弁…お雑煮文化は?
親戚や隣近所の人が寄ることを「よびし」と言い、
お正月に親戚などが寄ることを「正月よび」とここらへんでは言います。
残念ながら若い世代には、馴染みのない言葉になってきています…。
その「正月よび」でいただくお雑煮、この町(滋賀県多賀町)の傾向がなんとなく分かってきました。
「どんなお雑煮を召し上がりますか?」
滋賀県多賀町は、平野部から山間部まで40ほどの集落があります。
鈴鹿山系を境に三重県と岐阜県に接する町です。
10年ほど前から、年に4集落ずつ民俗聞き取り調査をしているなかで、
年中行事の食では、「どんなお雑煮を召し上がりますか?」と伺ってきました。
少しずつデータが集まってきましたので、昨年11月末に、胡宮神社社務所で、「正月よび あなたの雑煮は?」の展示をしました。
10年間で聞いてきたことを集計してみたら・・・。
話し言葉は関西弁。文化も京都寄り。
関西のお雑煮は丸餅白味噌、関東は角餅すまし汁と聞きますが…。
お雑煮も白味噌で丸餅が多数と予想していました。集落やとなり近所で同じ傾向があるのでは?と予測していました。
しかし、
聴く人によってバラバラ、しかも白味噌を使うお家が少ないのに驚いたのです。
お餅の形はハマグリ?
集計してみると、丸餅が約5割、角餅が3割でした。
あとの2割が「ハマグリ」??。
はじめて「ハマグリ」と聞いた時は、貝の「蛤」と勘違いしてしまいました。
親指と人差指を合わせて丸にしたくらいのひと口サイズ、小さいお餅のことをハマグリと言うそうです。切るのは縁起が悪いので、小さく作るそうです。なぜお餅がハマグリと呼ばれるのか??海の無いこの地の謎です。
家族円満に過ごせるように丸餅にするというお家もありました。
お正月のお餅の準備には、よもぎが入ったコワ餅、ダンゴを必ず準備されるお家もあります。これは、もち米の他にうるち米の団子粉が入っています。よびし通信no.26に詳しく作り方を書きました。
お餅の調理方法は?
お雑煮に入れるお餅の調理方法は、焼くのが約7割と多数でした。煮ると答えられた方は、雑煮の中に入れて直接煮ると、別で煮ると二通りあります。
また、お雑煮の調理は、昔、囲炉裏でしていてマメになるように、豆で作ったお箸でお雑煮を食べた、と山の集落で聞きました。
味つけは?
間違いなく京都の白味噌文化かな??と思っていたら、なんと白味噌を使うお家が一割。しかも、よくよくお話を伺うと、白味噌を使うのは京都出身だからと言う方もおられて。実際は家で作った味噌でお雑煮を作る方が半数以上ではないかと思われます。しかしながら、すまし汁の方も4割ほど。
この地域の方は、ほとんどの方が最近まで家で味噌を作っておられました。
糀販売店が町にあるのも貴重です。
先日、糀の注文にお店へ行った時、初めて「甘味噌」を販売しているのを知りました。お正月用限定の白味噌で11月に仕込んだ、色がまだ浅いものです。でも、どうやら、わざわざ白味噌を買ってお雑煮を作る家がごく少数のようで、こちらのお味噌は県外に多く発送されるとか。
具材は?
お雑煮に入れる具材は、ダジャレが多く、お正月から縁起をかついでいます。里芋の親芋を入れる家が多く、その家の長男のお雑煮には「カシラになるように」と親芋を入れるそうです。でも親芋は小芋ほど美味しくなく、昔は入れていたけれど、不評なので親芋を入れるのをやめたという話も多く聞きました。
「代々マメに「代々だいだい=大根」「まめ(元気)に=豆腐」」と言って、大根とお豆腐を入れるお家も。
具材の切り方も、丸く生きるために輪切り、細く長く生きるために細切り、1日は包丁を使わず大みそかに調理はすべて終わらせるというお家も。
トッピングは?
東西文化が交差するところ
このまちには、多賀大社があり年間170万人の参拝客でにぎわうと言われています。戦後まもなくまでは、春の古例大祭には、鈴鹿の山を越えて早朝より晴れ着で山越えをしてくる岐阜の人、三重の人がたくさん歩いて多賀大社に来たと聞きます。また、山を越えてすぐの集落との婚姻関係も昔は多かったようです。農耕牛の貸し借りも山を越えて盛んにあったとも。
言葉は関西。時々三重県いなべ市の方言がすこし混ざるところ。東の文化はあまり感じられません。
しかし、
お雑煮は4割が角餅ですまし汁。丸餅白味噌が圧倒的に多い予想が大いに外れました。
食文化は思いのほか、東の文化が鈴鹿の山を越え入ってきている地なのだと実感しました。
ちなみに、我が家のお雑煮は、京都にルーツがあるので、白味噌で丸餅。
まるでポタージュのような舌触りのとろっとした甘味のあるお雑煮です。
餅は別で茹でます。金時にんじんと、細い大根の輪切り、小芋も輪切り、厚揚げを入れて、上からたっぷり花鰹をトッピングします。
言葉にならなかったローカリティの良さ、食文化をしっかり言語化する、可視化する、コンテンツ化する学びを今年は深めたい。