読書メモ『掃除婦のための手引き書』ルシア・ベルリン 著
『掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集』(原題:A Manual for Cleaning Women: Selected Stories)
ルシア・ベルリン 著/岸本佐知子 訳
講談社 2019年(文庫は2022年)
年の変わり目、「書くこと」への気持ちに火を入れ直したい人へ。
ルシア・ベルリンの著作が「古くて新しい」と多くの人を虜にしていることは、本好きの方ならすでにご存じかもしれません。
とにかく、すごい引力なのです。
1936年生の作者による自伝的な短編は、描写があまりにも巧みで鮮やかなので、まず五感が乗っ取られます。そうしていつの間にかテキサスやアリゾナ、チリ、メキシコなどにいて、作者のみた「真実」を一緒に体験することになります。鉱山技師の父について転々とする暮らし、母方の血筋の闇の深さ、脊椎湾曲症が落とす影、なじめない学校生活、華やかなお嬢様時代、3回の結婚と離婚、アルコール依存症の苦しみ、シングルマザーとして4人の子育て、様々な職業経験(掃除婦、救急室勤務、教師)……。なんとも波乱万丈な人生ですが、文章から吹いてくる風はからっと暖かい(岸本佐知子さんの名訳からは原文と同じ風が!)。
何度も修羅場をくぐり、極限をみてきた人ならではの「突き抜けた感じ」とでも言いましょうか。自分自身と向きあう強さや、人に対する懐の深さに魅かれずにはいられません。
作者は20代から小説を書きはじめたとのこと。きっと「書くこと」がもたらす救いの力を強く感じていたと思います。
どの作品も素晴らしいのですが、小説を書くひとりとしては「さあ土曜日だ」が特に印象的でした。作者は刑務所で囚人たちに創作を教えていたことがあるようで、その際の交流を題材に描かれています。「書くこと」に対する作者の思いが詰まっていて、わたし自身もその場で教わった気持ちになりました。(この作品がめずらしく三人称だったのは、一人称では辛すぎて語れない事実が織り込まれているからかもしれません。)
本を読み終えて「こんなふうに書けたら」と切望すると同時に、「自分だけの真実を表現するためには、もっと『傷』をまっすぐにみて、触りにいく強さをもたないと……」と絶望(!)すら覚えました。
ルシア・ベルリン、憧れます。
noteを始めて、もうすぐ1年になります。
不定期な投稿ですが、「書くこと」を通じて素敵な方々と出会えたこと、心から感謝しております。
みなさまお体を大切に、よいお年をお迎えくださいね!
来年もどうぞよろしくお願いいたします。
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読書メモです。英語の勉強を兼ねて、対訳があるものを中心に楽しんでいます。よろしければ、こちらもぜひ。