見出し画像

I like a look of Agony,


I like a look of Agony,
Because I know it’s true ——
Men do not sham Convulsion,
Nor simulate, a Throe ——

The Eyes glaze once —— and that is Death ——
Impossible to feign
The Beads upon the Forehead
By homely Anguish strung.



私は苦悶にゆがむ表情が好き
なぜならそれは真実だと分かるから ——
人は痙攣を装ったり
発作を真似たりはしないものだ

目が霞んできたら ——それこそが死のリアリティ ——
もう誤魔化せない、
飾り気のない苦痛、
額に浮かぶ、
汗のじゅず玉。


ふつう、人の苦しむ顔なんて見たくないと思うところですが、詩人はちょっと違うようです。真実の探求者としてのディキンソンの残忍な一面があらわになる、面白い詩だと思いました。

「よそおう」は、sham, simulate, feign

「苦痛」は、agony, convulsion, throe, anguish

やっぱり語彙の豊かな文章は読んでいて楽しいな、と素朴に思いつつも、他人の苦しみを冷静に経過観察するマッドサイエンティストのような詩人の姿を想像すると、やはりちょっと怖い。

「よそおう」の単語はすべて小文字ですが、「苦痛」の方はすべて頭が大文字で書かれています。ここでは客観的に苦しみを見ているので、詩から受ける印象も叫ぶような痛烈さではありませんが、苦しみの存在感はちゃんとあります。

前半はやや冗長ぎみに、進むにつれて徐々に緊張が高まるように意識して訳してみました。せっかくピリオドが打たれて終わっているので、訳も「じゅず玉。」で終わるように。

最後の一行は文法的に分かりやすくすると、

strung by homely Anguish

苦痛によって糸を通された

となり、これは前の

The Beads upon the Forehead

額の上のじゅず玉

を説明する句になっています。

しかしこの順番でいくとAnguishで終わることになり、これだと音がちくっとして、主観的な痛みとか叫びに近くなってしまう。やはりstrungで終わったほうが、傷をなでるような愉悦交じりの残酷さを声にのせて表現するのにピッタリだ。悪魔のような巧みな技……


ちなみに「string」は、「紐」、動詞では「糸を通す」の意味ですが、

「string up」で「絞首刑にする」という意味もあるそうです。…


『THE COMPLETE POEMS OF EMILY DICHINSON』
THOMAS H . JOHNSON, EDITOR

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?