忘れられないハムサンドの話
あれは確か、ちょうど今日のようにじっとしているだけで蒸し焼きにされるような心地がする日のこと。『マチネの終わりに』の一節を借用すれば、「後に気象庁が三〇年に一度の異常気象と認定したほどの猛暑」の2010年の夏のことだった。
地方在住の受験生だった私は、なけなしの小遣いを手に、精一杯見栄を張って購入した3,000円ほどの一張羅のワンピースを着て、渋谷から青山にかけての道を歩いていた。今なら「宮益坂を上って」と言われればピンとくるが、土地勘もなく、まだスマートフォンなど持ち