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HOTEL POINTにて

 国語のテストで満点を取った。中学生の頃のことだ。
 しかし、その満点は少々毛色が違っていた。フォントサイズ48くらいの大きさで書かれた『99』の上には打ち消し二重線が引かれ、控えめにフォントサイズ24程度で『100』が添え物のように書き加えられていたのだった。
 私が通っていた中学校では、テストの採点に不服のある生徒は異議を申し立てることが出来た。教壇で荷物をまとめる先生に近づいて、「どうして99点じゃないんですか」と尋ねた。少しだけあの政治家に似た風貌の方だったので、つい『2位じゃダメなんですか』みたいな聞き方をしてしまったのかもしれない。が、その話は一旦置いておく。
 先生の話を要約するとこうだ。まず初めに、10点満点の論述問題を採点した。私はその部分は9点だったそうだ。全員分の論述に点数をつけた後、一問一答問題を採点していくと、私の答案には誤答がなかった。論述問題で1点減点したことにさして理由があるわけではなかったので、1点加点して100点とした、というのである。

 『おまけで一点あげたのよ』
 なんてひどい言い草だろうと思った。お情けでもらった100点満点なんてなんの価値もない。施しを受けたかのような惨めな気持ちになって、咄嗟に「99点に戻してください」と口をついた。「減点を申し出る生徒なんて初めてよ」と取り合ってもらえなくて、帰宅してから泣きながら親に話した。「貰えるもんなら貰っときなさいよ」と母は言った。


 あの頃、学校という狭いコミュニティの中での出来不出来は、そのまま人間の価値の指標だった。それが成人して社会人となった今ではどうだろう、学歴、職業、年収、ルックスなど、様々な変数を計算に入れてやっと、私たち大人の価値は算出される。単純な合計点ではないのである。

 私自身とて、そんなあらゆる指標を元に交際する相手を篩にかけているのは間違いない。そもそも私は選ぶ側であるだけでなく、選ばれる側でもあることをもっと自覚した方がいい、と頭の片隅では考えているのにもかかわらずだ。

 なんの損得感情もなく人付き合いをするのは難しい。大人になってつくづくそう思う。きっと誰にでも人付き合いにおいて妥協できる点とできない点があって、例えば"彼はハイスペックだからルックスには目をつぶる"とか、そういう「おまけで点をあげる」場面は大人の世界では往々にして起こりうるのだ。あの時の母の言葉が今は身にしみる。

#エッセイ #アラサー女子

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