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意外な共通点!?『世界の辺境とハードボイルド室町時代』高野秀行・清水克行
【謎の独立国家ソマリランド/高野 秀行】氏族による庇護と報復のシステムを読んでいて思い出したのが『喧嘩両成敗の誕生』(清水克行)で描かれていた室町時代の日本社会である。このふたつ、まったく同じ。いろい... →http://t.co/kingt39sCH #bookmeter
— Kiichiro Yanashita (@kiichiro) May 18, 2013
定期的に高野秀行さんの本が読みたくなります。でも、うっかりしていると次、次、本が出たりして、なかなか追いきれません。久しぶりに時間ができて、手にとってみたら、やっぱりおもしろかった。今回は、対談ですが日本中世史の先生相手なので、いつもよりも専門成分が濃い気がします。そして、文庫版ではハードカバーのときの間違いとかが訂正されています。
高野さんがソマリランドで見た社会。それは、伝統的な秩序維持の方法や土着的な掟と西洋的な近代の法律が重なり合い、状況に応じて使い分ける世界。日本の中世でも、幕府法と村落・地域社会・職人集団だけで通用する法律があって、訴訟になると人々は都合のいい法理を持ち出して、正当性を主張していたことと似ているらしい。
この氏族社会の秩序って、かなり目からウロコ。たとえば、「逃げ込んできた人は守るのが男の義務」らしく、逃げてきた人の主義主張は関係ないらしい。アフガニスタンの旧タリバン政権でも、アルカイダのウサマ・ビン・ラディンをかくまった一番の大きな理由がそれだとか。中世の日本でもそういう慣習があったというから驚き。
世の中は、伝統的なことから近代的な西洋風のものへ発展していくというイメージを漠然と持っているけれど、実はそうでもないらしいというのは、ものすごい衝撃。戦後のイラクでは政府の力が弱まると、過去の氏族社会が復活してくるとか、その復活具合も地域によって、歴史によって全然違うとか。頭の中がクラクラしてきます。
本書は大枠の話もおもしろいんですが、個別の事例がとにかく豊富で楽しい。高野さんがあちこち歩いた地域の例が提示されるので、ソマリだけじゃなくてインド、タイ、ミャンマーなんかのおもしろネタがこれでもかと本書には投入されます。たとえば日本以外では、古米の値段が新米より高い話、こういうの大好きです。
刀と槍の関係はピストルと自動小銃の関係と同じ、らしい。なんでも、中世では刀はあまり実践の役にたたなくて、役に立つのは弓矢と槍。ピストルも、どの軍隊でも将校以上しか持てなくて、下士官と兵隊は自動小銃持って最前線で戦う。実践でピストルは自動小銃のにかなわない。でも、ソマリではピストルのほうが自動小銃より高くて3,4倍もする。これは、所持していること自体に価値があるからで、武士の刀みたい。
ソマリと日本人は、どちらも詩歌の伝統がある。ソマリには、イスラム教やアラビア語の伝統文化とは別にソマリ語の伝統文化があって、恋愛作法としては詩。平安貴族みたいに、詩の一つも歌えないようだと男は結婚できなかったとか。
アフリカは現代でも呪術の世界で、サッカーチームにも専属の呪術師がいて、自陣のゴールにバリアを張ったりする。あと、医師や薬剤師の役割もあって、現地の人たちの健康や生命や運命をトータルに預かっているなんて話は驚きしかない。
田舎は、顔が見える範囲の氏族社会で秩序があって安全だけど、都会はそれがないから怖いっていう部分は、安全か、そうでないかの比較だけなら確かにそうなんだけど、既存の秩序が「顔」だからこそ、抑圧されてて自由がないのが田舎。タイとかミャンマーみたいに、いつ誰が出ていってもおかしくない、流動性の高い社会だとある程度の秩序と、ある程度の自由さが保証されるのか、どうか、興味があります。
日本でも、東日本大震災のとき、地域の顔役中心とした秩序が一部復活したとかいう話は、もう本当におもしろいし、逆に言うとちょっと怖い。ものごとはいい方向へだけでなく、悪い方向にもいくらでも変わる、逆戻りするって現実をつきつけられるようで。高野さんみたいに成人男性なら、プレーヤーになったりおもしろがれるけど、女性は『もののけ姫』のエボシ御前にならないと自由がない世界はつらすぎるから。