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構造と超越者、あるいは否定と解除

構造とは、抽象的に言えば、内部に対立、あるいは相互に「自分は相手ではない何かだ」として規定=否定し合う関係を持つ。この否定という関係や、構造の一部あるいは内部を表現する命題とそれを否定する命題という関係性は飽くまで構造の内部、あるいは構造と構造との関係において生じるものである。

例えば、集団が富裕層と貧困層に分かれていれば、それは経済状態を特徴づけとした構造があると言える。ここでは「Rさんが富裕層である」という命題は「Rさんが貧困層ではない」ことを意味するし、「Pさんが貧困層である」という命題は「Pさんが富裕層である」ことを意味する。また、「Xさんが富裕層であり、なおかつ貧困層である」ということもない。だから、富裕層と貧困層との間には差異があり、豊かさと貧しさとは相互に否定し合う特徴であると言えるだろう。

あるいは例えば、言語(日本語やフランス語などの自然言語)も構造である。言語は内部は豊富な差異を含み、単語同士は区別され、主にそれが指示する対象の特徴によって識別されている。例えば動物は植物ではないし、ペンギンは月ではないといった具合である。また、取り決めによって創造される区別もあり、これは月曜日は火曜日ではないとか、消費税は相続税ではないといった区別である。これらの区別もまたお互いに相手を排除しあう関係にあり、否定し合う関係にあると言えるだろう。言い換えれば、「2024年6月18日が月曜日であり、かつ、同時に金曜日である」といったことは無いということである。これらのことに加えて、自然言語は多くの要素を含み、複雑であるから、否定し合いながら関係しあう様々な単語が入れ子構造になってセンテンスをつくり、文章を構成している。

これらの構造において、種々の命題が成り立ち、その命題と命題とは否定の関係、両立しない関係に置かれることがある。しかし、このような「否定」は飽くまでそれら構造の内部において成立するものである。

一方で、我々は構造を規定する上記のような特徴づけや、特徴同士の差異、特徴同士の対立を超越するようなものについて考えることがある。

それは例えば「一者」である。「一者」は構造と何らの関係も持たない。なぜならば、我々は1を初めてみたときにそれが1であることを認識できないからである。なぜ認識できないのかといえば、1という認識は他の何かとの対比によって得られるはずがないからである。というのも、他の何かとは複数性や4や19やゼロの認識であるが、これらはそもそも1という単位的 unit なものを前提として取得可能な認識だからである。よって、「一者」はあらゆる差異や構造から独立に、経験に先立って(=超越論的に)取得された、あるいは最初から持っていたと仮定せざるを得ないのである。

そして、例えばおよそ数というカテゴリを含む構造であるならば、その根底には「一者」という超越者が前提されなければならない。だが、この超越者というものは認識するにも言語によって語るにも厄介なシロモノであり、なぜならば、超越者が前提される構造の側からは語ることができ「ない」からである。なぜ構造の側から語ることができないのかといえば、超越者はその在り方からして構造(=差異の体系)の外部にいるものなのだから、構造の内側で定義された名前では指示することができないからである。ただ、ここで指示でき「ない」という言い方が曲者(くせもの)であって、ただできないと言えば普通の否定表現に聞こえるであろう。しかし、先ほど述べておいたように、ここで超越者を指そうとして、「超越者は月曜日でもない、火曜日でもない、水曜日でもない、……」という言い方をするのはよろしくない。なぜならば、この言い方では単に「否定」を重ねるだけだからである。例えば、何かが月曜日でもなく火曜日でもなく、曜日ではないのだと言われれば、人によってはそれは日付ではなく惑星だと考えるかもしれない。しかし、惑星は言語の構造の一部になってしまっているから、それでは指示しようとしたものが指せているとは言えないだろう。このことの原因は構造の中にあるものを指すときの「否定」を構造の外部にある超越者を指すときにも使おうとしていることから来るように思われる。

少なくとも「否定」という言葉は濫用され過ぎている事実は既に歴史的にあるかと思う。そこで構造の「解除」とか、あるいは「ズラし」とか、「前構造的」といった方が、超越者を考えるときには(少なくとも「否定」などというあいまいな言葉を使うよりかは)マシだろうというのが、今日考えたことである。

そんなことより山下正男先生の本を読もう

なお、こんな素人の中途半端な記事を読むよりも、私が好きな山下正男先生の下記公開PDFを読む方がずっとおもしろく堅実な知見が得られ、示唆にも富むのではないかと思う。

(1,989字、2024.06.18)

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