いじめ体験記「もういいや。どうでも。」
「もういいや。どうでも。」
そう心の中でつぶやくことが癖になっていた頃、私は中学2年生でした。 登校して、くつが隠されていても、教室に入って、さーっと教室の雰囲気が違ってしまっても、 体育の時間グループ作りで1人余ってしまっても、教室の壁に、 ◯◯キモイと落書きを見つけても、聞こえるようにキモイ、ウザイ、 サイテーとコソコソと言われたりしても、「もういいや。どうでも。」 その言葉で、気持ちを押し込む術を覚えました。その頃の私にとっては、 それは魔法の言葉でした。私はみじめじゃない。気にしていない。辛くない。 被害者じゃない、私は。でも、体の中でその都度少しずつツーンと冷たくなるのを感じていました。
いじめは、小学校の時から始まりました。私のさわった机やプリントは汚いそうです。 私のペアになったり班になると、サイアクだそうです。 好きだった男に「近寄るな 臭い」と言われた時、はじめて「死にたい」と思いました。 その言葉は、優しい父母を傷つけました。母は泣いて父は黙りました。
父母をこれ以上傷つけちゃいけない。私は気持ちを伝えることをやめました。 親には辛い顔なんてもう見せない!!中学に進学しても、 クラスの顔触れはあまり変わりませんでした。でも、他の小学校から来た友だちと仲良くなりました。 手紙や交換日記、毎日のクラブでのおしゃべり。気持ちを伝えることを楽しいと心から思いました。 「朝練きついね。」「数学の先生キツイいよね。次、私当たりそう サイアク」 「B組の××君かっこよくない?」夢中でおしゃべりしたヒミツは、私の気持ちそのままでした。
ある日、気持ちを伝えた友達は、私を無視するようになっていました。 そのヒミツは、クラス全体の笑いのタネになっていました。 「◯◯の将来の夢マンガ家だって 無理無理」「◯◯って××のこと好きらしいよ」 「うっわ××カワイソー」イジメなんてもう慣れっこでした。またか。耐えろ。耐えろ。 自分に言い聞かせました。始めから期待しちゃいけなかったんだ。耐えろ。耐えろ。 「もう、誰にも 気持ちなんか伝えられない。伝えない。」 親に伝えたら、また泣かれてしまう。友達に伝えたら、また裏切られる。 先生に伝えたら、肉親に伝わるかもしれない。
何より、自分自身に自分で「イジメられっ子」というレッテルを貼るのが嫌でした。 「もういいや。どうでも。」魔法の言葉は便利でした。 悲しい気持ちが自分の中におしこめられます。おしこめるときに感じる冷たい痛みに、 私は耐え続けました。おしこめたまま、私は大人になりました。
あのとき、安心して、気持ちを伝える誰かが側にいてくれたら。 吐き出す場所があったら。あの痛みはどんなにか軽くなっただろう。
そうして、私は誰かにとっての、場所になりたいと思いました。 魔法の言葉の代わりに、誰かの支えになりたいと思いました。 それは私のエゴかもしれません。それでも、私はあなたにとっての魔法になりたいのです。
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