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花に嵐の映画もあるぞ(邦画編)。

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わたしの好きな映画を、「褒めること」意識してつらつら書いていきます。 取り上げる映画は、時にニッチだったり、一昔前だったりしますが、 そこは「古いやつでござんす」と許して、ご容赦…
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#映画感想文

「世界から猫が消えたなら」あるいは、世界から映画が消えたなら。

覚えていますか?本屋大賞受賞したベストセラーの映画化。 要は現代ニッポン版ファウスト(by 川村元気)である。日本映画らしくないスケールで僕(主人公)にとっての世界が変質していく様を、ねっとりとCGを上手に使って、描く。 原作未読。あらすじ紹介は省略して感想から入る。導入部はゆっくりすぎるほど丁寧。それも途中からテンポが良くなっていくので、気にはならない。 僕 / 悪魔の1人二役を演じるのは、「護られなかったものたちへ」はじめ今や日本を代表する男優:佐藤健。 汚らわしく悍

無頼のきずあと、市川雷蔵。最後の股旅もの「ひとり狼」

往年の銀幕スタア・市川雷蔵は、陽性の役柄はもちろん、孤独にして孤高の時代劇ヒーローを演じては天下一だったが、そのベクトルは2つに分かれる、 ひとつは、机龍之介や眠狂四郎や斑平のような腕の立つ、時に無法時に豪快な腕の立つ剣客。 あるいは、沓掛時次郎ほか三度笠に丹羽筵、着物の寸法は七五三の五分回し、帯を黒三にして紺の手甲脚絆に甲掛け、切緒の草鞋を結んだ草莽やくざ。 経営悪化した末期大映を一人背中に背負って、その類まれな演技の才能を犠牲にし、若親分・陸軍中野学校・眠狂四郎の怒涛か

まっさらな雪を、そっと抱きしめて。富山の映画「真白の恋」。

「富山を舞台にした映画」として何を挙げるか。「おおかみこどもの雨と雪」?「少年時代」?「RAILWAYS」?「人生の約束」? 「冬の富山」に限定するなら、私は2016年製作の映画「真白の恋」を挙げておきたい。初めて富山を訪れた都会人が、観光地以外の土地柄に触れて大体もらす感想「富山は、何にもないがいいところ」を象徴した作品といえるから。 あげ足を取るようで申し訳ないのだが、先に結論を言ってしまえば脚本において画竜点睛を欠いた要素が2点だけある。 ①景一の職業カメラマンという

自主制作時代劇「蠢動」。10年早かったし、生真面目すぎた。

インディーズ時代劇映画「侍タイムスリッパ―」日本アカデミー賞7部門制覇の快挙。 先立つこと12年前、2001~11年までは家業である建設資材メーカー「ミカミ工業株式会社」(大阪府東大阪市)社長を務めていた三上康雄が、再び映画製作に復帰し、82年に製作した16mm作品「蠢動」をセルフリメイクした、2013年の「本格」時代劇「蠢動」の思い出を。 キャストはさりげなく豪華。目黒祐樹がミソ。 もう一度、時代劇を自分の手で撮りたい、という自己満足だけで作られたのではなかった。ゼロ年

「君たちはどう生きるか」ハードモード。原作を読んで映画をみよう。「路傍の石」。

2023年に話題となって通り過ぎた「君たちがどう生きるか」は、単に宮崎駿が言及から読まれたのではなく、何か人生的な、何か社会の指針的な、何か誠実な生きてゆく人間の姿が、文章の平明さのなかに表現されているからこそ、多くの読者に読まれたところがあるだろう。 今回紹介するのは、その著者:吉野源三郎ではなく、当初この本を執筆する予定であった吉野源三郎の盟友、今は忘れられた作家:山本有三の作品「路傍の石」だ。 山本有三の作風は「君たちはどう生きるか」と同じ。なすべきことを只管にやって

この世に自分が生きた痕跡を残そうとする、哀しい情熱。ショートフィルム「あの残像を求めて」。

日本映画は毎年数多く撮られているが、その多くが単館はおろか、映画館のスクリーンにかかることもなく、市民ホールや公民館の小さい小屋で一度きりの上映が行われて、そのまま闇へと消えていく。そして今や、配信だの映画離れだの予算主xゆく小田のに押されて、そのホール自体も、たやすく、壊されてしまう時代。 隈元博樹が2014年に監督を務めた「あの残像を求めて」もその一つ。あまりにも自己言及的な映画。不可解な経緯のまま今や取り壊されてしまった川崎市民ミュージアムの記憶と共に、その記録を残し

凄まじい轟音と破壊、血と汗、戦争とゾンビ。塚本晋也監督「野火」。

その作風は凄まじい轟音と破壊、血と汗に彩られ、艶かしく映る血と鉄、細かいカットで自らの意匠を刻み込む、どちらかというと「シン・ゴジラ」はじめとして役者としての活躍が有名な?塚本晋也監督。 そんな塚本晋也がメジャーな観客にも膾炙した2015年の映画「野火」を紹介。もう10年前、戦後70年の映画なので、忘れている人も多いだろう。 同じ原作を取り上げた市川崑監督のそれが、感情やエモーションからは距離を置いて、日本人の集団主義の顔を被った超個人主義の本質をついているのに対し、こちら

もう10年前、初めての大林マジックの洗礼。「この空の花 長岡花火物語」

巡るめく映像詩に情感たっぷりの音楽。センチメンタルで叙情的で全ての要素が過剰なまでに観客に迫ってくる。からこそ、好きな人はトコトンまで愛し、嫌いな人は徹底的に嫌う。 尾道旧・新三部作を経て、大林監督は晩年尾道を離れ、他の町を舞台にして、懐かしい思い出を描き続けた。その一つ、空襲・東日本大震災・中越地震を関連づけて、「今あるもの」と「今ないもの」との記憶を重ねた2012年の映画「この空の花 長岡花火物語」を紹介。 幕末維新の内戦、北越戊辰戦争によってほぼ全市街焦土と化したが、

つかこうへい、志穂美悦子、井筒和幸、みな不完全燃焼。映画「二代目はクリスチャン」。

70年代、すべてはブルース・リーから日本を席巻したカンフー映画ブーム。わが国でも千葉真一や倉田保昭などを主演に和製功夫:カラテ映画が量産された。アクション男優の始まり。 同時期に活躍したアクション女優に志穂美悦子が存在する。 千葉真一率いるジャパンアクションクラブの門を叩いた彼女は、人造人間キカイダーのビジンダー役をはじめ、数多くのアクション映画・テレビ番組で主役を張る。 そんな彼女も80年代に引退したのもあって、主戦場はまだアクション映画が未成熟だった70年代に集中。有り余

親分:ビートたけし。覗き魔:西島秀俊。映画「女が眠るとき」

最新作「首」だけを取り上げるまでもない。ビートたけしほど、自身の「何を考えているのか分からない」「得体のしれない」「怪物的な」「キレたら怖い」「笑いながら恐ろしいことをいう」パブリック・イメージを活用している男優は、ほかに存在しないだろう。 北野武監督作品に限らず、「戦場のメリークリスマス」「GONIN」「御法度」「バトル・ロワイヤル」「血と骨」「劇場版MOZU」に至るまで、その役者イメージはまるで逸れたことはない。 そんな彼を主演に迎えて、ベルリン国際映画祭で特別銀熊賞を

冒頭に威勢よく渋谷スクランブルに暴走車が突っ込む!それだけ。映画「グラスホッパー」

ハロウィンの夜に渋谷のスクランブル交差点で起こった事故をきっかけに、心に闇を抱えた3人の男の運命が交錯していく様を描いた伊坂幸太郎原作2015年の松竹超大作「グラスホッパー」。鈴木を演じる生田斗真、クジラを演じる浅野忠信、蝉を演じる山田涼介の豪華共演がセールスポイントだったが、その出来栄えはと言えば。 正直、伊坂幸太郎ファンでもない&原作未読の自分にはきつかった、の一言。 冒頭、いつものような、夜の何でもない渋谷のスクランブル交差点の雑踏が映し出される。そこで突然4WDが

天使、安田顕、オカマバー、魅惑で不思議。「小川町セレナーデ」。

性転換&全身整形をさせられたヤクザがアイドルになるべく奮闘する2019年の映画「BACK STREET GIRLS -ゴクドルズ-」でちょっとだけ話題をさらった原桂之介監督の処女作、「シン・仮面ライダー」「ラーゲリより愛を込めて」ほか数々の話題作に助演、主演作なら「俳優 亀岡拓次」「家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。」ほか確かな演技を見せる、通なら知ってる?男優:安田顕の実質主演作「小川町セレナーデ」より。 「小さなスナック」と聞いて何をイメージするだろうか。頭の痛

田宮二郎、黙っていても、もの扱いでも、いい男。増村保造監督「爛」。

"「ただ自分の現実を描く」ことしかなく、「作者が持ち得るべき思想」が一切なかった""次第に文学者仲間以外の興味も同感もひかぬ特殊な内容を持つようになった""作家が社会の塵埃を知らない、本質的にはのほほんとしたエリートであるが故の、自我の孤独と優越の文学"etc. 今となっては功罪半ばして評価される、日本の自然主義文学。 本家のモーパッサンやゾラと異なり、映像化の恩恵をまるで受けていないのも、この世代の作家に共通した特徴。田山花袋、国木田独歩、正宗白鳥、近松秋江、岩野泡鳴、真山

名前負け!ガメラの監督による"大映最後の青春映画"「成熟」

独り歩きする伝説、というのも存在する。崩壊寸前の映画会社が最後に送り出した、それも伝説的なシリーズの監督が携わった映画であれば、なおさら。 1970年、関根恵子(現:高橋惠子)氏は「高校生ブルース」にて、妊娠する女子高校生という当時としては衝撃的な役で、大映映画からスクリーンデビューを果たす。 以後『おさな妻』『成熟』と、悪者だらけの家族に囲まれ、自然早熟するほかなかったティーンエイジ役にてキャリアを積んできた彼女。1971年主演第7作、大映青春映画路線最終作にして、大映最