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親分:ビートたけし。覗き魔:西島秀俊。映画「女が眠るとき」

最新作「首」だけを取り上げるまでもない。ビートたけしほど、自身の「何を考えているのか分からない」「得体のしれない」「怪物的な」「キレたら怖い」「笑いながら恐ろしいことをいう」パブリック・イメージを活用している男優は、ほかに存在しないだろう。
北野武監督作品に限らず、「戦場のメリークリスマス」「GONIN」「御法度」「バトル・ロワイヤル」「血と骨」「劇場版MOZU」に至るまで、その役者イメージはまるで逸れたことはない。

そんな彼を主演に迎えて、ベルリン国際映画祭で特別銀熊賞を受賞した「スモーク」などで知られる香港出身のウェイン・ワン監督がメガホンをとった2016年の映画が、「女が眠るとき」だ。
どういうわけか2016年は、「覗き」をテーマにした邦画が数多くリリースされた。「二重生活」、「SCOOP!」等。本作もこの一つ。
巨匠ウェイン・ワンがメガホンをとった上に、ビートたけしが出ているのならば、外れではないだろう、と勇んで劇場に足を運んだのを覚えている。観終わって、その出来の悪さにうなだれたことと、合わせて。

一週間の休暇で妻とともに郊外のリゾートホテルを訪れた作家の清水健二(演:西島秀俊)。妻とは倦怠期を迎え、作家としてもスランプに陥り廃業を決めていた健二は、ホテルで無気力な時間をすごしていた。
くたびれたホテル。がらんどうの土産屋。雨が降りどおしの寒々しい避暑地。背徳的な行為が「これから」行われそうな、ある種の憂鬱な空気を捉えた映像が良い。

そんなある種隠れ家めいたホテルに、初老の男・佐原(演:ビートたけし)と若く美しい女・美樹(演:忽那汐里)のカップルが訪れる。どう見ても、ヤクザの親分が愛人を囲っている構図。
以来、ホテル内で佐原たちを見かけるたびに、健二は2人の後をつけ、佐原の部屋をのぞき見るようになっていく。つまり、佐原が美樹を舐めつくすように温く愛撫する様を、のぞき込むのだ。

確かに映像は美しくかっちり取れているが、話運びは如何なものか。

この手のジャンルの始祖というべき「裏窓」以来、「覗き」をテーマにした映画では、主人公がどんな目的があるにせよ「覗き」にのめり込む過程を描くのが必須だ。それに加えて、「覗きがバレるかもしれない」サスペンスがないといけない。
残念ながら、「女が眠るとき」は両者とも真っ当に描けていない。
「健二が覗きに嵌っていく」過程は、編集がちぐはぐすぎて、「考えるな、感じろ」と言わせんばかりになっている。
かといって「覗きがバレるかもしれない」緊張感もなく、健二は雑に身を隠すし、美樹は警戒心無く健二に近寄る始末。若い娘が健二に近づいたのを目撃した、彼の妻が激高する修羅場がある訳でもない。
つまり、健二と佐原の距離感、佐原のその見るからに発する凶暴なオーラからもわかる通り一歩間違えれば一触即発なのだが、それが危うい位置まで急接近することもなく、山もなく谷もなく、物語が進行してしまうのだ。

「覗きとは何か?」:高尚なテーマを掲げたのだろうが、「結局現実だったのか幻だったのか?」有耶無耶にする温い結末となる。
珍しく女を傍において、いつも通りの演技をしているビートたけしを拝むためだけの映画。よくよく、西島秀俊も、自身のイメージにマイナスとなる役を引き受けたな、と思わされるのだ。



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ドント・ウォーリー
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