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花に嵐の映画もあるぞ(邦画編)。

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わたしの好きな映画を、「褒めること」意識してつらつら書いていきます。 取り上げる映画は、時にニッチだったり、一昔前だったりしますが、 そこは「古いやつでござんす」と許して、ご容赦…
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2023年12月の記事一覧

つかこうへい、志穂美悦子、井筒和幸、みな不完全燃焼。映画「二代目はクリスチャン」。

70年代、すべてはブルース・リーから日本を席巻したカンフー映画ブーム。わが国でも千葉真一や倉田保昭などを主演に和製功夫:カラテ映画が量産された。アクション男優の始まり。 同時期に活躍したアクション女優に志穂美悦子が存在する。 千葉真一率いるジャパンアクションクラブの門を叩いた彼女は、人造人間キカイダーのビジンダー役をはじめ、数多くのアクション映画・テレビ番組で主役を張る。 そんな彼女も80年代に引退したのもあって、主戦場はまだアクション映画が未成熟だった70年代に集中。有り余

親分:ビートたけし。覗き魔:西島秀俊。映画「女が眠るとき」

最新作「首」だけを取り上げるまでもない。ビートたけしほど、自身の「何を考えているのか分からない」「得体のしれない」「怪物的な」「キレたら怖い」「笑いながら恐ろしいことをいう」パブリック・イメージを活用している男優は、ほかに存在しないだろう。 北野武監督作品に限らず、「戦場のメリークリスマス」「GONIN」「御法度」「バトル・ロワイヤル」「血と骨」「劇場版MOZU」に至るまで、その役者イメージはまるで逸れたことはない。 そんな彼を主演に迎えて、ベルリン国際映画祭で特別銀熊賞を

シスコン勝新太郎。ブラコン大谷直子。増村保造の異常性愛映画「やくざ絶唱」。

自分の思うままに生きようとする子供っぽさ。どこまでも危なっかしく、だからこそ周りの元気のいいヤツラを魅了し集めてくる人たらしぶり。河内弁のやくざにせよ仕込み杖の按摩にせよ前線からの脱走兵にせよ妥協のない完璧な演じ方を見せてくれる男。 勝新太郎は、今なお、多くの映画ファンを魅了する。 そんな勝新太郎が大映も末期、1970年に主演した増村保造監督『やくざ絶唱』より。はいはいヤクザ映画ヤクザ賛美と席を立つのは待ってほしい。 時はまさにエログロバイオレンスの映画ばかりが受けた時代。

冒頭に威勢よく渋谷スクランブルに暴走車が突っ込む!それだけ。映画「グラスホッパー」

ハロウィンの夜に渋谷のスクランブル交差点で起こった事故をきっかけに、心に闇を抱えた3人の男の運命が交錯していく様を描いた伊坂幸太郎原作2015年の松竹超大作「グラスホッパー」。鈴木を演じる生田斗真、クジラを演じる浅野忠信、蝉を演じる山田涼介の豪華共演がセールスポイントだったが、その出来栄えはと言えば。 正直、伊坂幸太郎ファンでもない&原作未読の自分にはきつかった、の一言。 冒頭、いつものような、夜の何でもない渋谷のスクランブル交差点の雑踏が映し出される。そこで突然4WDが

健さんを喪った。その掛け替えのなさは重く…降籏康男の最終作「追憶」。

降旗康男監督が亡くなって4年。間もなくはや亡くなって9年が経とうとしている高倉健とともに、その名は、徐々に忘れ去られつつある。 かつては「冬の華」「駅STATION」「夜叉」「鉄道員」「ホタル」「あなたへ」と、「降旗&高倉」は数少ないトラディッショナルな日本映画の系譜であるとともに、希少な稼ぎ頭:ゴールデンコンビと謳われた、そんな時代があった。高倉健のような日本のこころが狂騒とSNSのご時世に埋もれて久しく。健さんという相棒を喪った降籏監督の、結果として遺作となった2014年

天使、安田顕、オカマバー、魅惑で不思議。「小川町セレナーデ」。

性転換&全身整形をさせられたヤクザがアイドルになるべく奮闘する2019年の映画「BACK STREET GIRLS -ゴクドルズ-」でちょっとだけ話題をさらった原桂之介監督の処女作、「シン・仮面ライダー」「ラーゲリより愛を込めて」ほか数々の話題作に助演、主演作なら「俳優 亀岡拓次」「家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。」ほか確かな演技を見せる、通なら知ってる?男優:安田顕の実質主演作「小川町セレナーデ」より。 「小さなスナック」と聞いて何をイメージするだろうか。頭の痛

田宮二郎、黙っていても、もの扱いでも、いい男。増村保造監督「爛」。

"「ただ自分の現実を描く」ことしかなく、「作者が持ち得るべき思想」が一切なかった""次第に文学者仲間以外の興味も同感もひかぬ特殊な内容を持つようになった""作家が社会の塵埃を知らない、本質的にはのほほんとしたエリートであるが故の、自我の孤独と優越の文学"etc. 今となっては功罪半ばして評価される、日本の自然主義文学。 本家のモーパッサンやゾラと異なり、映像化の恩恵をまるで受けていないのも、この世代の作家に共通した特徴。田山花袋、国木田独歩、正宗白鳥、近松秋江、岩野泡鳴、真山

名前負け!ガメラの監督による"大映最後の青春映画"「成熟」

独り歩きする伝説、というのも存在する。崩壊寸前の映画会社が最後に送り出した、それも伝説的なシリーズの監督が携わった映画であれば、なおさら。 1970年、関根恵子(現:高橋惠子)氏は「高校生ブルース」にて、妊娠する女子高校生という当時としては衝撃的な役で、大映映画からスクリーンデビューを果たす。 以後『おさな妻』『成熟』と、悪者だらけの家族に囲まれ、自然早熟するほかなかったティーンエイジ役にてキャリアを積んできた彼女。1971年主演第7作、大映青春映画路線最終作にして、大映最