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ジープにヘリコプターに野獣がふたり。「新宿アウトロー ぶっ飛ばせ」

渡哲也と原田芳雄という70年代を代表する男の色気たっぷりの大スター2人の共演作。前者はスタジオシステム育ち、後者は劇団俳優座出身。当時の映画界にとっては主役に起用するには正統派と異端の好対照。好きな人にとっては、観ずにはいられないだろう。
じっさい、しょせんダイニチ映画という誹り、しょせん日活末期の映画というには、観る者の期待値以上のエネルギーに満ち満ちている映画である。


仮釈放で出所した通称シニガミと呼ばれ恐れられていた西神勇次を、直と名のる青年が出迎える。直は、密売に失敗して奪われた、時価三千万円のマリファナと相棒の修平を取り戻すよう依頼するのだった。調査するうち、友愛互助会と殺し屋サソリが浮び上って来たが、そのとき修平の服をまとった血にまみれたマネキン人形が届けられた…。
監督
藤田敏八
キャスト
西神勇次=渡哲也 松方直=原田芳雄 笑子=梶芽衣子 さそり=成田三樹夫(大映) 湯浅=今井健二 力弥=沖雅也 華子=高樹蓉子 地井武男

日活公式サイトから引用

渡哲也が冒頭からカッコよく飛ばす。何せ、出所後、泥だらけの道を優雅にタクシーで、新宿を目指す、大盤振る舞いなのだ。時は60年代末、畑や宅地が点在する、ニュータウン開発前の、のんびりとした東京郊外を背景に流れるクレジットロールがイカす。渡哲也のやくざっぽさふくめて。

タクシーを降りようとするも、はるばる遠乗りなので当然のように持ち合わせがない西神が払えない分を、横から札束差し出して払ってみせる、粋すぎるぜ、我らが原田芳雄様。
松方が乗ってきた(米軍払い下げと思われる)ジープで、真夜中から日の出にかけてデートと洒落込むふたり。まだまだ背丈の低い日本の街並みを、アメリカが通っていく。渡哲也と原田芳雄、色気むんむんの男二人を乗せながら。

意気投合した男二人は探偵業を始める。バイカーどもを追い払ったり、ハマの寂れたバーのトラブルを解消したり。ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードのコンビよろしく、裏町に住み着いた野獣二人の仲良しぶりは、どこか、アメリカン・ニューシネマのような、洗練されつつも地に足ついた世界観を、構築している。他方で、原色の照明と美術が、世界観に一昔前の日活アクションのような非現実性を、もたらしている。ファンタジーなのかリアルなのかはっきりしないふわふわした世界観が、観ていて心地よい。


さて、中盤に登場するのが殺し屋サソリである。演じるはやはり70年代にキャリア全盛期を迎える成田三樹夫様。渡哲也と原田芳雄の男二人だけのドラマの間に割り込んで、彼ら二人が持ちえないクールさ、徹底した悪のカリスマぶり、伊達な男ぶりというものを、見せつけてくれる。
それは、チンピラどもに囲まれるも、逆に銃を突きつけてその場を脱して見せるシークエンスであったり、美しい指使いで電話機のダイアルを回したりするシークエンスだったり。

ものがたりは最後、ふたりが友愛互助会に殴り込みを敢行するのだが、日活ニューアクションの例(「流血の抗争」ほか)によらず捻くれている。すなわち、西神と直、おとこふたり意気揚々としてなぐりこむも、標的が留守中、不在!
気が付けば出口は手下たちに塞がれ、進退窮まったふたりは豪快にも事務所ビルの屋上からヘリコプターで逃亡を図る。消化器で煙幕を仕掛けつつ、大捕り物帖は壮大な絵づくり。
もちろん、面子をつぶしてくれた街のチンピラ二人を、殺し屋がタダで帰すはずがない。サソリは、ノーネクタイに下駄という三下でダサいはずなのになぜかカッコよい恰好で、出陣遠方からヘリの操縦士を射殺。
最後は「明日に向かって撃て!」な幕切れ。着陸の仕方を知らないヘリコプターで、何処ともなくさっていく、お遊びにお化け煙突のある団地の上を旋回してせる二人の姿で、幸福な余韻のうちに映画は終わるのだ。

結論。本作は「ここではないどこかを目指す」メッセージを掲げて、ぎすぎすした70年代に当時すでに「往年の」という言葉の似合う日活アクションをよみがえらせようとした意欲作だ。あまりにも男男の世界が濃密すぎて、梶芽衣子が全く目立たずじまいで終わるのは、ナイショの話だ。


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ドント・ウォーリー
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