マガジンのカバー画像

サクラサク。

16
吾輩は猫である。名前は朔(さく)。ご主人様がいる家の帰り道を忘れて、ニンゲン・サクラと出会う。ニンゲンとネコは、生きるスピードが違うのだ。それでも、神様に飼われるその日まで、相手…
運営しているクリエイター

#春

サクラサク。ep6

サクラサク。ep6

吾輩は猫である。名前は朔(さく)。ニンゲン・サクラを捜しに、ご主人様の元へ帰る前に寄り道することを決めた。

しかし、困った。吾輩はただ小川のほとりで待っているだけで、サクラに会えていたのだから、全く手がかりがない。

そういえばこの前、“病院"とか言っていたような。
この近くに病院があるのだろうか。

吾輩は、グルグルと歩いた。
知らない路地や、車道や、庭を歩いた。

何時間も、何日も歩いた。

もっとみる
サクラサク。ep5

サクラサク。ep5

吾輩、黒猫・朔(さく)にはたくさんの兄弟がいた。
「なぁ、頼むよ。一匹もらってくれないか」
生まれたばかりで、目がまだぼんやりとしか見えていないころ、二人の男の声が聴こえた気がする(定かではない)。

「え、でも俺は独り身だし、動物を育てたことはないよ」
「でも、可愛いだろう?うちはもう手一杯なんだ。頼む。どの子でも良いから」
こうして、吾輩はご主人様に選ばれた。

「いいかい。お前は“預かる”だ

もっとみる
サクラサク。ep4

サクラサク。ep4

吾輩は猫である。名前は朔(さく)。好き勝手にクロと呼ぶニンゲン・サクラをこの小川で待っている。ご主人様の家への帰り道は、未だ思い出せない。
ある日、サクラはいつもよりたくさんのカリカリを袋ごと渡してきた。
何事かと、吾輩は訝しそうな目つきでサクラを見る。

「しばらく、病院へ行くのはお休みするね」

ビョウインって、あれだろう。
知らないニンゲンに尖った針で、刺されるところだろう。
ご主人様もよく

もっとみる
サクラサク。ep1

サクラサク。ep1

吾輩は猫である。名前は朔(さく)。漆黒の艶やかな毛並みが、月の出ない夜を思わせると、ご主人様に名付けてもらった。
しかし吾輩、ご主人様の家への帰り道を忘れてしまった。質の良いネコジャラシを探すのに夢中だったのだ。かれこれ一ヶ月になる。

何とか記憶を辿って帰ろうとは試みるも、頭上からヒラヒラと桃色の雪みたいな何かが降ってくる。吾輩、すぐに我を忘れて、追いかけたくなる衝動に駆られる。追いかけても、追

もっとみる