マガジンのカバー画像

詩集 幻人録

317
現代詩を書いてます。
運営しているクリエイター

#文学

エミ

エミ

何気ない笑みが
走る言葉を越え
一輌の列車に乗って
私のもとにやってきた

私の前で開く扉
どうやら私はあなたのステーション

笑みが下車してこんにちは
それはぽぽっとひかる蛍のお尻
私は笑みと一緒に改札を出た

家までの道すがら
笑みに釣られて私も笑みる

マーケットでトマトとチーズを買った

笑みが嬉しそうに台所の私を眺める

私はトマトとチーズのパスタを作った

フォークがくるくる回ると笑み

もっとみる
未確認夜間飛行

未確認夜間飛行

夜空に光る
プロキオンとの交流

しかしそれは動いてる
闇の世界を縦横無尽

私の目では追いきれない

サイズは月のクレーター
夜空を転がり乱反射

私の首は痛くなる
そのまま夜空に倒れ込む

私の目では追いきれない

夜空に光る
オリオンとの交流

どこへ行くの
なにしに来たの

ピュっとシュー
ビュールルル

夜間飛行にお気をつけ
夜空の魔物に宜しくね

ミルクソーダ

ミルクソーダ

あなたは甘くて
シュワっと消える

私が握ったあなたの掌は
ほろほろと絡みが外れていく

どんなにきつく縛っても
心臓だけは縛れない

だからあなたは消えていく

私の頬は赤らんで
ポッとあなたのまろみに落ちる

次第にどんどん寂しくなって
ふと気がつけば
喉元通る微炭酸

そのあとはただ消えるだけ
愛していたいの
私が私じゃないうちに

濃厚なのに爽快に走る
爽快なのにシュワっと痛い

ミルクソ

もっとみる
茶畑にて

茶畑にて

味の染みた田園は
煮込んで茶色くなっている

隣の段々茶畑も醤油で味付けした様だ

私は薄情な冷風に煽られ
しゃがみ込んだ

緑の世界が観てみたい
青茂った心地のよい美風

時期を跨いで逢いましょう

その時はこの煮込み色の世界が
どれだけ大事なことだったか
痛感するのであろう

私は雀に挨拶をして
ここを去った

美しきは忍耐の先に待っているのであろう

しろいねこ

しろいねこ

雪原に衣替えした街の灯りは
僕の姿を照らせない

なんにもないが溢れてる
ここにいるよ
ここにいるよ

前爪の溝から尾っぽの先まで
まっしろけっけ
にゃっしろけっけ

帰る道筋わからない
僕は迷子の子猫でござる

にゃーっと鳴いても
毛並みが混じる
白い世界と融合思念

にゃんてことないさ
にゃんてことないよ

僕は大体の道すがらを
ぽこぽこと歩いて家路を辿る

心配しないで
パパとママ

杉波

杉波

北からの風は痛く
身が剥がれていく

杉の葉は変わらずの香で
私を陽から隠す

余計なものを背負い込んだ背は曲がり
冷たい風で歩幅が縮む

杉の波が押し寄せては
力で押し返す男にならんと

人生の合間にさす日射しは
杉並木の様
ポツリポツリとまばらに照らす

そこまで行ったらひと休み
陽を浴びここで腰下ろし

歩けど
走れど
同じこと

同じ場所で腰を下ろして
休んでくれればそれでいい

これから

もっとみる
丸い皿

丸い皿

私が落とした丸い皿
藍色焼きの丸い皿

割れては四つになった皿
鋭利な角持つ気張った皿

もう料理が乗らない皿は
皿というのは可笑しいか

無理矢理乗せてもいいけれど
鋭利な角で血が出ちゃう

袋に捨てた丸い皿
涙流した丸い皿

私のせいで泣いた皿
今まで色々乗せた皿

誕生日ケーキも
クリスマスチキンも
お餅だって乗せた皿

皿の涙で私が泣いたら
私の涙で皿も泣いた

感謝の念と憂いが同居した瞬

もっとみる

憩いの街にて

家のガラス窓には施錠がしてある
それは頑なに
それはひっそりと

カーテンで仕切った外側に
なにがあるかは
日差しに頭を突っ込まないとわからない

私の大きな勘違い
外側が美しくないから
汚染の街の捨て恥だから
そう感じて長らくが経つ

それは頑なに
それはひっそりと

美しさに外も内もあるわけが無く
私の眼がどう捉えるかが美の定石

この世の全てが私が触れた狭い世ならば
そこはしっかりと美しい

もっとみる
歩の幅

歩の幅

この身がただただ歩くわけでは
ないから余計に困ってます

そこには命と心が住んでて
周りの星をも傷つける

只々黙って転がりすぎた
日々の薄い温度は
やるせなさとしての風当たりだけではなく
生温さのなかに心地さを含ませている

前に進んだ昔の友よ
後ろに下がった今の私よ

弾ける涙はナイフのように
滴る汗が丸太の様に

たがいの体液が
重なる場所を探してる

こんにちは
昔の友よ
今も友でいてくれ

もっとみる
波

泳ぐはちっとの荒波よ
冷たいみぞれの水面よ
痛いは身体
苦心は灯台に置いてきた

服が重くてとられた波に
詫びゆく想いが絡みあう

陸は見えずと
果てのない

ばあばの詩が聴こえる方角

しゃきっとしなくしゃ
いけないよ
しゃきっと歩いて
いけないよ

聴こえるうちに
帰りましょう

冷たい荒波潜りましょう
私は帰る
なにがあっても
私はばあばの詩の方

方位磁石はヨーソロ ヨーソロ

シャボン玉

シャボン玉

愛の不思議は
色じゃない
温度も痛みも
嘘でもない

愛の不思議は
形崩れて
透明シャボンで飛ぶところ

私が絵を描き
色を塗り
額縁囲って
飾ってもなお

意味のない愛が
浮遊するだけの小部屋

命の祈りはますますと
愛の鎧を脱いでいく
がぎゃん がぢゃん
と崩れてく

鎧の中の透明人間は
愛そのもののシャボン玉

気がつきゃ私もシャボン玉

ミルフィーユ

ミルフィーユ

魂のミルフィーユ
重ねる程に強くなる
人間の持つ可憐さは
強さの中に共存する

魂の層は幾度となく織られ
涙と笑みのクリームで塗装される
少しばかりの木苺が
人生に花を添えると
甘さが増すとかなんだとか

この先も私は層を重ねては
泣きじゃくり
腹を壊すだろう
気分の良い日
食べましょう
自分の魂ミルフィーユ

ゆっくり振り返る
魂と思念の層を割って

たてがみ

私の髪の毛が
獅子のたてがみの様に伸びてしまったため
髪を切りに行きたいのだが
外には悪口の雨が降り
暴力的な風が吹くもんで
家の中からは出れやしない

私は自分のハサミでたてがみを削いだ

私は嫌なほどたてがみを切るのが下手なもんで
ぶら下がるコウモリの様な髪型になるもんで
これでは恥ずかしと頭を掻きむしった

慣れないことはするもんでない
少しの勇気が私にあれば
床屋までいく足があれば

ほん

もっとみる
遠縁

遠縁

あなたが落とした想いなら
私が拾って集めましょう

大きな籠にひとつずつ
優しい球を入れていく

その籠が球でいっぱいになったら
私は集めた想いのひとつを

高く空に放り投げては
野鳥に託して運んでもらう

渡鳥ならなおのこと
遠くに運んでくれるだろう

あなたが落とした想いなら
きっとみんな感じてくれる

きっとみんなが食べてくれる

あなたはそういう
慈悲の想いを落とす人